「日本人は勝てない」を塗り替えた長谷川帝勝 “タイガスタイル”全開でつかんだスロープスタイル銀メダル
今大会の採点の流れの中では「この2人のメダルは堅いかもしれない」と感じる場面が多かった。フラットスピンの高回転を並べても伸びにくい一方で、縦軸・斜め軸などの“トリックバリエーション”が強く評価される傾向がはっきりしていたからだ。
ジャンプセクションはもちろん、ジブセクションでも独創性が求められていた。その空気を読み、構成を合わせられた選手が上位に並ぶ。長谷川も「自分の強みはトリックバリエーション」と話していたが、まさに武器がそのまま結果に結びついた決勝だった。
スロープスタイルは各選手が自由度の高い構成で滑る分、珍しい技が入るとジャッジが慎重になる。点数が出るまでの“間”が長く、会場の緊張感が一気に高まるのもこの種目の特徴だ。
1本目の長谷川の後に滑ったスー・イーミンの採点に時間がかかったのも印象的だったが、長谷川のメダルが確定する瞬間も同じだった。マーカス・クリーブランド(ノルウェー)の得点表示がなかなか出ず、会場にいた全員が掲示板を見上げ、息をのんだまま待つ時間が続いた。
あの長い“間”が、今大会の採点の重心と、長谷川が表彰台に届いた理由をはっきり示していた。
誰もが認める“練習の鬼”
「自分が小さい頃から見てきたマクモリスやクリーブランドみたいなレジェンド、アイドルたちと、スロープスタイルの決勝を滑れたことがとてもうれしい」
レース後の表情は、まず安堵が先に立っていた。
「まず、ホッとしている。1本目、2本目と“タイガスタイル”全開で出せたことがうれしい。時間が経つにつれて、金メダルじゃなかった悔しさは出てくると思う」
今季初めての表彰台が、オリンピックのスロープスタイル。努力が報われる瞬間がこの舞台で良かった、と言葉を続けた。
勝負を決めたポイントのひとつが、ラストジャンプで決めた「バックサイドダブルロデオ1260」だ。予選の採点傾向を見た上で、コーチと相談して組み込んだという。
「予選のジャッジの傾向を見て、『ロデオをいれるべきなんじゃないか』とコーチと相談した。そこで、全く考えていなかったロデオを取り入れることにした」
「ロデオ1260は自分の代名詞でもあるので、それを組み込んだ上でのこの結果はうれしい」
このロデオ1260は、空中で板をつかむ“グラブ”の持ち替えも目を引いた。細部の工夫がはっきり見える一発で、10点満点中「9.15」という高得点を獲得。ラン全体の完成度と、独創性を伴った技の選択が、メダルを決定づけた。
採点の変化については、ハーフパイプ種目でも「今季から傾向が変わった」と選手が口にする場面があったが、長谷川も同じ感覚を語った。
「ここ数年、日本人が全く大会で勝てない、表彰台に立てないような状況だった。そのなかで、スロープスタイルで日本人初のメダリストになれたことはすごく自信になった」
表彰台に立てる未来を、本人もどこか現実味のないものとして見ていた様子だった。
「人生なにがあるかわからないですね(笑)」
さらにこの日、長谷川は隠してきたけがの内容も明かした。
「メダル獲ったら言おうと思ってたんですけど、練習しすぎて、膝に水が溜まって半月板損傷って言われていました」
「膝曲げるのも痛くて、日常生活にも支障があった。もうオリンピックはきついかなとも思っていたし、出られたとしても最大限のパフォーマンスできるかどうか不安な時期はあった。痛みが徐々に引いてきたので、練習のブランクを払拭するために、ひたすら滑りこんできました」
“メダルを獲ったら言う”。その言葉通りにしてみせたところに、本人の意地も見えた。
長谷川は以前から“練習の鬼”として知られる。決勝で滑走した木俣椋真も、こんな話をしていた。
「帝勝はたぶん日本チームの中で一番練習している。パークの練習時間が終わるとみんな帰るんですけど、16時とかまで残ってフリーランしたりしている」
ただ、長谷川にとっては今季も簡単な道ではなかった。
「オリンピックシーズンいつもけがしてて、今年もこうなるかーって思ってた」
現地入り直後には発熱もあったという。
「現地についた瞬間も熱が出て、まだ試練があるのかと思っていました(笑)」
「その状況のなかでとれたメダルっていうのは、普通にとるよりも大きな銀メダルだったと思う」