歴史に刻まれる極限の戦い、日本勢の表彰台独占も 町田樹がフィギュア女子SPを解説
緊張を乗り越え、見事に滑り切った千葉
冒頭の3回転ルッツ+3回転トウループのコンビネーションジャンプで着氷がわずかに乱れましたが、転倒やステップアウト(着氷で弾かれるミス)をこらえた踏ん張りは、極めて重要なものでした。ほぼミスのない演技でしたが、今の女子シングルはミスがないのは当たり前で、いかに質を高め、GOEを稼ぐかという勝負になっています。その点で、わずかなマイナスが響いた形です。
とはいえ、3回転ルッツで腕を上げて跳ぶ工夫もされていて、スピン・ステップもすべてレベル4なので、素晴らしい演技だったと思います。
また千葉選手の演技構成点は、坂本選手に次ぐ第2位でした。今季の彼女のSPは、ドナ・サマーが歌うディスコの名曲「ラスト・ダンス」を用いていますが、前半と後半の曲調の変化に伴う演じ分けが非常に印象的なプログラムです。前半のたおやかなで気品のあるスケートと、後半のポップでキャッチーなアクティブスケートのコントラストが際立っていることに加え、千葉選手は元来スケーティングの質が良い選手なので、演技構成点が高く評価されることは、もはや必然だと言えるでしょう。
立ちはだかるアメリカ勢、アリサ・リュウの際立つ安定感
惜しくも3回転ルッツ+3回転ループのコンビネーションは軽微な回転不足(クォーター)の判定を受けてしまいましたが、11.71点を獲得しています。これはアデリア・ペトロシアン選手(AIN)が3回転フリップ+3回転トウループでマークした11.74点に次ぐ、一つの要素で得た高い点数になります。こうした高難度構成が、彼女を3位という好位置に押し上げた要因と言えるでしょう。
一方、アンバー・グレン選手は、中井選手を上回るほどの質の高いトリプルアクセルを決める最高の滑り出しを見せましたが、3つ目のジャンプが規定違反(単独ジャンプが2回転ループになった)で0点となる痛恨のミスとなりました。この致命的な失敗が響き13位と出遅れましたが、それでも67.39点をマークしています。FSで入賞圏内への巻き返しを狙える位置には踏みとどまっています。
8位のレヴィト選手もさすがの演技でした。単独ジャンプの3回転ループが軽微な回転不足判定を受けてしまったことと、ステップでレベル3と取りこぼしがあったので、一歩出遅れてはいますが、70.84点をマークしています。シーズンベストではなかったですが、この大一番で70点超えを果たしているのは実力のある証拠だと思います。
トリプルアクセルに挑まなかったペトロシアン
一方で最終2グループの演技を見ると、スケーティングの部分でまだ伸びしろがあると私は感じました。国際大会の出場不足という事情もあるため、スケーターとしてのブランドを築き、ジャッジにアピールする機会が増えれば、演技構成点も上がってくるのではないかと思いますが、しばらくはそれも難しそうです。
SPを終え、日本勢3名が会心の演技で上位につけたことで、日本女子の「表彰台独占」も大いにあり得る展開となりました。3選手が力を出し切った結果、非常に楽しみな状況を自ら作り出したと言えます。
しかし、戦いは依然として熾烈を極めています。首位の中井選手から4位の千葉選手まで、点差はわずかであり、一つのミスが順位を大きく変動させるでしょう。メダル争いはもちろんのこと、8位までの入賞争いも極めて白熱することが予想されます。70点を超えたトップ層9名と、そのすぐ後ろに60点台後半の第2グループが僅差でひしめき合っており、誰が上位に食い込んできてもおかしくない緊迫した状況です。
まさに、歴史に残る名勝負。各選手がどのような戦略でFSに臨むのか。そして、日本勢は悲願を達成できるのか。FSの演技も必見です。
(取材・文:大橋護良/スポーツナビ)
町田樹(まちだ・たつき)
かつてフィギュアスケート競技者としても活動し、2014年ソチ五輪個人戦と団体戦ともに5位入賞、同年の世界選手権では銀メダルに輝いた。現在はその経験を活かし、研究者の傍らで振付家やスポーツ解説者としても活動している。近著に『スポーツ・クリティーク』(世界思想社、2026年)。