歴史に刻まれる極限の戦い、日本勢の表彰台独占も 町田樹がフィギュア女子SPを解説
中井は冒頭のトリプルアクセルを決めるなど、全要素で加点がつく会心の演技を披露。坂本、千葉も大きなミスなく、日本勢はフリースケーティング(FS)に向けて、好スタートを切った。ソチ五輪の男子シングル5位入賞、現在は國學院大學准教授を務め、今大会の団体戦から男子シングルまでを現地ミラノで解説した町田樹さんに、女子SPを分析してもらった。
9選手が70点台をマーク、ミリ単位のミスさえ許されない
一つは、70点という大台を超えた選手の数です。女子SPにおいて70点はトップの座を争うための重要な基準ですが、今回は実に9名もの選手がこのボーダーを突破しました。過去の冬季五輪と比較すると、2014年のソチ大会では3名、2018年の平昌大会では6名、2022年の北京大会では7名でしたから、いかに今大会のレベルが高いかがお分かりいただけるでしょう。さらに驚くべきは、この9名のうち6名(坂本、千葉、イザボー・レヴィトを除く)が自己のシーズンベストを更新して70点台に乗せている点です。ほとんどの選手が120%の力を出し切った、まさに極限の戦いだったのです。
もう一つの指標は、スピンとステップにおける最高難度評価「オールレベル4」の獲得率です。女子SP出場29選手のうち12名、率にして約41%の選手がオールレベル4を達成しました。ちなみに、今大会の男子SPで同評価を獲得したのは29名中6名(約21%)にとどまります。トップ10選手に絞ると、男子が2名であるのに対し、女子は7名が達成しています。ステップの一つのターンがずれただけでもレベル4は取れませんから、これは女子がいかに細部に至るまで点数を追求し、ミリ単位のミスさえ許されない次元で競い合っているかの証左と言えるでしょう。
中井は「完全無欠」の演技で自己ベスト更新
最大の武器であるトリプルアクセルを、すべてのジャッジがGOE(出来栄え点)でプラス2以上をつけるという完璧な質で成功させました。今季のISU主催大会における彼女のSPのトリプルアクセル成功率は、5大会中わずか1回の20%でした。その不安定だった大技を、この五輪という大一番で完璧に決めてみせた精神力は計り知れません。
さらに驚くべきは、他のジャンプ、スピン、ステップを含めた全要素でジャッジからGOEプラス2以上の評価を得たことです。女子SPでこれを達成したのは中井選手ただ一人。まさに技術の粋(すい)を集めた、非の打ちどころのないパフォーマンスでした。結果として自己ベストを更新する78.71点を記録し、団体戦で坂本花織選手が記録した78.88点の今季世界最高得点にわずか0.17点差に迫るスコアをたたき出し、その急成長ぶりを世界に示しました。
マイナス要素がありながら、GOEで加点を得た坂本
アテンションに関して説明します。フリップとルッツは左足で踏み切り、右足でトウをつくという、言葉で説明すると同じジャンプです。しかし、フリップは左足のインサイドで、ルッツはアウトサイドで踏み切らなければならない。このインサイド、アウトサイドの踏み切りのエッジの使い分けが、若干不明瞭であるという評価がアテンションになります。
しかし、彼女の最大の武器である「スケーティングの流れを止めないジャンプ」は健在でした。特にダブルアクセルはほぼ満点の評価を受けています。また、物言いがついたジャンプについても、マイナス要素があるにもかかわらず、最終的なGOE評価がプラスになりました。これは、GOEのプラスの面がマイナス要素を相殺してあまりあるほど高かったということです。彼女の武器である「流れのある技」がいかに傑出しているかの証左です。演技構成点が全選手中トップであったことも、その評価を裏付けています。「たられば」になりますが、もしこれらの物言いがなければ、トップに立っていた可能性は十分にあったでしょう。