安堵や悔しさが交錯した「世代交代」の涙 パシュート銅メダルの功績を清水宏保が解説

吉田昭彦

(左から)堀川、野明、佐藤、高木。チームワークが結実した銅メダルとなった 【写真は共同】

 2月16日(現地時間、以下同)、ミラノ・コルティナ五輪のスピードスケート女子団体パシュート(団体追い抜き)が行われた。日本は準決勝で敗れて3位決定戦に回り、銅メダルを獲得。18年平昌の金メダル、22年北京の銀メダルに続き、この種目では3大会連続の表彰台となった。

 準決勝ではオランダと対戦し、日本は高木美帆(TOKIOインカラミ)、高木とともに平昌で金メダルを獲得した佐藤綾乃(ANA)、22歳の堀川桃香(富士急)で挑んだ。中盤オランダにリードを許すも、ラスト1周で日本が逆転。そのまま逃げ切るかと思われたが、残り200メートルで再び逆転され2分55秒95でフィニッシュ。わずか0秒11差で競り負けた。

 わずか1時間半後に行われた3位決定戦では、アメリカと対戦。高木、佐藤、そしてこれが五輪初レースとなった大学生の野明花菜(立教大学)とメンバーを替えて臨んだ。真ん中を滑った野明がスタートでよろけたものの、高木のリードと佐藤のサポートもあり、アメリカを序盤から徐々に突き放して3秒50差の2分58秒50。堂々の銅メダルをもぎとった。

 今大会で五輪引退を表明している佐藤は悔し涙を流し、初舞台を経験した野明は安堵の涙を落した。通算10個目のメダルとなった高木はチームを先頭でけん引し、準決勝で奮闘した堀川は3人にバトンをつなげた。

 ベテランと若手のそれぞれの思いや立場が交錯した銅メダルを、OBはどんな思いで見ていたのか。長野・ソルトレークシティと2大会連続でメダルを獲得し、現在はスポーツキャスターや解説者としても活躍する清水宏保さんに話を聞いた。

日本が繰り出す「一糸乱れぬ隊列」と「丁寧なプッシュ」の技術

3位決定戦の日本。高木が後ろを振り返りながら滑るシーンもあり、チームの支柱ぶりを見せた 【写真は共同】

 女子パシュートの3大会連続のメダル獲得は、本当にお見事でした。率直に言うと「かなり厳しい戦いになるだろう」と大会前に予想していました。というのも、カナダやオランダをはじめ強豪国が多く、日本はどこまで食い込めるのか分からなかったからです。

 1000m、パシュート準々決勝、500mと日程を終え、高木選手がかなり調子を上げてきているというのもありましたし、佐藤選手が後ろから丁寧にプッシュしていたのが印象的でしたね。プッシュに関しては、押したり緩めたりと強さを不規則にしてしまうと、先頭の選手に負担がかかってしまいます。でも、佐藤選手は一定に押せる繊細な技術を持っています。

 さらに、「レールの上を滑るような隊列の綺麗さ」はさすがでした。男子団体パシュートで優勝したイタリアは、コーナーワークこそバラバラだけど、直線だけはきちんと揃えるという戦い方でした。戦略や特徴はそれぞれですが、日本の女子はコーナーも直線も合わせるのが非常にうまい。人によって走る歩幅が違うのと一緒で、選手によってスケーティングの歩幅はそれぞれ違うのですが、後ろの2人が高木選手に合わせていましたね。

 準々決勝では、2番手の佐藤選手と3番手の堀川選手のブレードが少し当たってしまったとのことでした。ブレードの長さは43cmぐらいあるので、前後の選手との距離を考えると、息を合わせる大切さが分かりますよね。

 スピードスケートは個人種目の側面が強いので、パシュートはとても難しいチーム種目です。チームメイトと組む緊張感やミスが許されないプレッシャーが生まれてくるんです。前回の北京大会のメンバーは、普段から同じチームで練習していたので息が合いやすかったと思いますが、今回のメンバーは普段は別のチームです。チームワークの熟成という面では大変だったと思います。特に野明選手はまだ学生なので、練習の時間を確保するのも難しかったのではないでしょうか。

最初の五輪、最後の五輪。「世代交代の象徴」となった女子団体パシュート

若手にとっては、無事滑り終えて安堵感も大きかったレース。笑みと涙がこぼれた 【写真は共同】

 3位決定戦では、堀川選手を野明選手に替え、2番手で出場しました。堀川選手の体力面も含めての交代だと思います。メダルのかかったレースにいきなり初出場だなんて、野明選手はかなり緊張したんじゃないでしょうか。序盤や後半で少しつまずくような様子も見られましたが、そこは後ろにいるベテランの佐藤選手がしっかりとフォローしていましたね。
 
 これまで長く組んできた高木選手と佐藤選手、今回パシュートメンバーに初めて加わった堀川選手と野明選手。ベテランと若手がひとつのチームとなってこの銅メダルを獲得しました。そういう意味では、「世代交代のオリンピック」だなと思っています。試合後のインタビューで、高木選手が「佐藤選手の役割がとても大きかった」と話していましたし、先輩2人が若手2人にしっかりと声をかけていたとも話をしていました。高木選手も佐藤選手も、次の世代を育てるという意識をしっかり持ってきているように感じますね。

 堀川選手も野明選手も、これからどんどん伸びていく可能性を秘めています。この五輪で高木選手の後ろを滑ったことはとても貴重な経験。まだまだ足りない部分はあるのでしょうが、今後の可能性を垣間見ることができたと思います。

 他の競技もそうですが、やっぱり五輪ほどの大きな舞台というのは他にないのです。そんな大舞台で銅メダルを取って、嬉しかった部分も悔しかった部分も両方あると思います。この後ミラノ・コルティナ五輪の閉会式を迎えたときに、「この大舞台にもう一度戻ってきたい」と思えるのではないでしょうか。これから若い選手たちが切磋琢磨していくのが楽しみです。

4年後は男子団体パシュートの伸びしろにも注目

男子団体パシュート、(左から)山田、蟻戸、佐々木。「8位入賞にも誇りを持って、次につなげてもらいたい」と清水さん 【写真は共同】

 男子団体パシュートに関しては、順位決定戦で山田和哉選手(ウェルネット)、佐々木翔夢選手(明治大)、蟻戸一永選手(ウェルネット)の布陣で臨みましたが、残念ながら8位に終わってしまいました。彼らも今年組んだばかりのチームで、チームとしての練習量は積めていなかったと思いますが、そこは今後の伸びしろだと考えています。
 
 男子もすごく良いメンバーが揃っていたと思います。24歳の山田選手が最年長で、先頭を滑った佐々木選手はまだ20歳。順位決定戦では準々決勝よりもタイムを上げてきました。今回の悔しい経験を積んだことによって、4年後に向けてより密度の濃いチームになっていくんじゃないのかなと感じています。この場に立てたことに誇りと味わった悔しさで、次はメダルを取る実力をつけてもらいたいと期待を込めています。

 今大会、高木選手の本命の女子1500mが待っています。コーチ陣も含めて、パシュートが終わって疲労困憊になるかと想定していたようですが、意外とそうでもないようなのです。また、この種目最大のライバルと想定していたヨーイ・ベーネ選手(オランダ)が選出されていないので、高木選手にとっては追い風とも言えそうです。今大会すでに3つの銅メダルを獲得していますが、最後に一番輝く色のメダルを手にする姿を、私も楽しみにしています。

清水宏保(しみず・ひろやす)

【提供:有限会社Shimizu】

 1974年(昭49)2月27日、北海道帯広市生まれ。白樺学園高-日大。94年リレハンメル五輪から06年トリノまで4大会連続出場。98年長野では500メートルでスピードスケート日本勢初の金、1000メートル銅。02年ソルトレークシティー大会500メートル銀。世界距離別選手権500メートルで5度の金。10年に現役引退。
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著者プロフィール

元出版社勤務、現在はフリーランスで活動。サッカー専門誌をはじめ、モータースポーツ、ゴルフ、マラソン、トレイルランニングなどの雑誌作りに携わる。趣味はサッカーや陸上の観戦と、ゴルフ、マラソン、トレイルランニングの競技参加。

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