涙の木原に三浦がかけた「まだ終わってない」 憧れの存在に追いついた“りくりゅう”、五輪金メダリストに

沢田聡子

積んできた努力を信じた“りくりゅう” 【写真は共同】

ショートのトラウマを乗り越え、決めたリフト

 ミラノ五輪の金メダルを獲得した“りくりゅう”は現地時間2月16日、憧れの存在である“スイハン”が見守る前で、逆転のフリーを滑り切った。

 昨季世界選手権、今季グランプリファイナルを制した“りくりゅう”こと三浦璃来/木原龍一は、優勝候補としてミラノ・コルティナ五輪に臨んだ。しかし、ショートでは今までになかったようなリフトのミスが響き、5位発進。最終の一つ前のグループで滑ることになったりくりゅうは、2022年北京五輪金メダリスト “スイハン”こと隋文静/韓聡(中国)の次という滑走順でフリーを滑った。

 前日に行われたショートでのリフトの失敗にショックを受けた木原は、フリー当日は朝から泣いてばかりいたという。そんな木原に、三浦は「まだ終わってない」と声をかけた。

「積み重ねてきたことがあるから、絶対できる」

「以前の私だと、ここまで強くなれなかった」と三浦は言う。

「毎試合、(木原が)ずっとサポートしてきてくれたからこそ、今大会私が強くなれたのかなと思っています」

“スイハン”の演技に拍手を送りながら、三浦/木原がリンクサイドに姿を現した。暫定1位のペアが座るリーダーズチェアに座った“スイハン”が見守る前で、“りくりゅう”は歴史に残る名演技を披露する。『グラディエーター』の壮大な旋律に乗って滑り始めた2人は、演技冒頭で大技のトリプルツイストに挑んだ。三浦の体がふわっと浮く高さのあるツイストを成功させ、続いて3連続のソロジャンプもタイミングを合わせて決めると、歓声が上がった。

 次のエレメンツはリフトで、ショートでミスがあったリフトと同じようにお互いの手をつかみ合う。「怖さしかなかったですし、とにかく力が入っていたので」と木原は振り返る。普段の演技中は声をかけない木原だが、この時は三浦に呼びかけた。

「リラックス」

 ミックスゾーンで木原が状況を説明すると、三浦は「だから言ってたの!」と木原の真意を初めて知った様子だった。

「璃来は滑り落ちたくないから、ずっとぎゅーって握っていた。『もう絶対落ちない』と思って」

 ショートのトラウマを乗り越えた2人は、飛距離のあるスロー3回転ルッツを成功させた。次々と高い完成度のエレメンツを見せていき、曲のクライマックスとなるラストでは、木原が三浦を高く持ち上げる。三浦が天に向かって手を突き上げ、ほぼ完璧な『グラディエーター』が終わった。

 アリーナでは、この五輪で初めて見るスタンディングオベーションが起こった。2人が持ち味であるスピードに乗ってスケールの大きな技を次々と決めていく、圧巻の演技だった。フリーの得点は世界最高得点となる158.13、合計点は231.24。三浦/木原は最終グループの演技が終わっても1位のままで、2人は日本初となるペアでの五輪金メダリストとなった。

宝物となったミラノ五輪のフリー

“りくりゅう”は憧れの“スイハン”が見守る前で、最高のフリーを披露した 【写真は共同】

 4年前、三浦/木原は2022年北京五輪で7位に入り、日本のペアとして初めて入賞した。フリー後、快挙を成し遂げた2人をミックスゾーンで待っていたが、なかなかやってこない。三浦が、最終滑走で登場した大好きな“スイハン”の演技をモニターで見ていたからだった。

 そして4年後のミラノで、“りくりゅう”はディフェンディングチャンピオン“スイハン”の目の前で、新たなオリンピックチャンピオンとなった。

 金メダリストとして臨んだ記者会見で、中国の記者から三浦に対し、隋文静に憧れていることについて質問があった。三浦は「私が一方的にすごく大好きな選手で」と笑顔で答える。

「本当にプログラムも好きですし、表現も好きですし、エレメンツもすごく好きで、少しでも近づきたいなと思って、やってきています」

 木原も、レジェンドである“スイハン”について語った。

「北京(五輪)の後から一時休養されていたので、なかなかお会いすることもできませんでした。今回、北京五輪以来でお会いできたことは、すごく嬉しかったです。一緒のグループで滑るということが僕たちの夢でもあったので、今回本当に一緒のグループで滑ることができたのは、僕たちにとって宝物です。

 璃来ちゃんの部屋にはスイ選手のサインも飾ってある状態で、常に僕たちはお2人のことを本当にリスペクトしています。レジェンドの方と今回一緒に滑れたことは、嬉しかった。写真も撮りたかったんですけど、なかなかそんな時間はなくて。なんとかオリンピック期間中に、もう一度お2人にお会いしたいなと思っています」

 まだ語り足りないという風情の三浦が、満面の笑みで付け加える。

「ちなみに、スイちゃんたちが載っている北京オリンピックのカバンがあるじゃないですか。あれを2枚もらってきて、一枚はサイン入りなんです。もう、宝物(笑)」

 北京五輪では憧れの存在だった“スイハン”の目の前で、五輪優勝を決める演技を披露した“りくりゅう”。支え合い、高め合ってきた三浦と木原の道は、ミラノ五輪の表彰台の頂点につながった。
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著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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