まさかのSP5位スタートも“りくりゅう”に見えた光明 三浦「全てはまっていた」木原「必ず戻ってくる」

沢田聡子

リフトのミスの後、耐えたスロージャンプ

見せ場のリフトでミスが出た“りくりゅう” 演技を終え木原は悔しさを隠しきれなかった 【写真は共同】

 グランプリファイナルで優勝した三浦璃来/木原龍一は、優勝候補としてミラノ五輪に臨んだ。団体戦でも盤石の戦いぶりを見せ、日本の銀メダル獲得に貢献。ペアでの金メダル獲得に向け、順調に進んでいた。

 迎えた現地時間2月15日のショート、『Paint It Black』(シェイ=リーン・ボーン振付)を滑り始めた三浦と木原は、順調に演技を開始したようにみえた。失敗の可能性があるならここかと思われたソロジャンプの3回転トウループを2 人そろってきっちりと決め、見せ場であるリフトに入っていく。

 いつものようにスピードに乗って滑りながら、木原が三浦を高く上げていく。しかし次の瞬間バランスが崩れ、三浦の体が傾いた。ひとつ間違えば危険な状況だったが、木原が踏ん張り、無事に三浦を氷上に降ろしてくる。リフトの形は保ったが、レベルは2と判定され、出来栄え点も2.30のマイナスとなった。グランプリファイナルとミラノ五輪の団体戦では、このリフトはレベル4、出来栄え点も2.90で9.90だったが、今回の点は3.90。このリフトだけで、本来の出来よりも6点はマイナスになってしまった計算になる。

 次は、大技であるスローの3回転ルッツだ。当然動揺しているであろう2人の胆力が試される場面だったが、三浦は少し耐える着氷になりながらも片足で立ち、底力をみせる。優勝候補の“りくりゅう”が、土壇場で踏みとどまった場面だった。

「『本当にここではもう失敗できないな』という気持ちもあったんですけど」と三浦はこのシーンを振り返る。

「そういった場面って、本当に今までたくさんあったので、そこはもう崩れることなく、自分たちのメンタルの強さも発揮できたかなと思っています」

 その後は、さすがにいつもよりは硬さは感じられたものの、スピン、ステップシークエンス、デススパイラルとすべての要素でレベル4を獲得して演技を終えた。フィニッシュポーズを解いた瞬間、木原はうなだれ、三浦は気遣うように木原を見つめた。

「自分たちでも最初何があったかわかっていなかったので、多分話し合いをしていましたね」(三浦)

 キスアンドクライでも、木原は下を向いて動かない。得点は73.11で、5位発進となった。

「自分たちができると信じてやればできる」前を向く三浦

最後まで滑り切り、逆転での表彰台を狙う 【写真は共同】

 ミックスゾーンでは、いつも率先して演技を振り返る木原はまだ呆然としており、それを三浦が気丈にフォローする姿があった。木原が、「しょうがないですね。そういう時もあると思うので」と重い口を開く。

「しっかり明日気持ちを切り替えて、できる範囲でベストを、できる限り」

 そう言いかけた木原は、我に返ったように口調を強めた。

「“できる範囲”じゃなくて、“できるベスト”をつくせたらいいなと思います」

 三浦が、ミスのあったリフトを振り返る。

「リフトというのは、もうすべて2人のあうんの呼吸というか、タイミングで成り立っているものなので、少しずれてしまうと今回のようになってしまう。積み上げてきたものはあったんですけど、運も悪かったなと」
 
 そこで、三浦も木原同様に語気を強める。

「ただ、このミスがあったからこそ、明日はもっと丁寧に一つひとつ気持ちも切り替えて挑んでいきたいなと思っています」

 三浦は、リフト以外の部分は、いい手応えがあったことも語った。

「2人ともいい緊張感で、ツイストもジャンプ系のエレメンツも全てはまっていたので。本当にもう明日はこのようなことがないように、ということだけ思っていました」

 ショックを隠し切れない木原は「あまりいいミスじゃなかったので」と言いかけて、深いため息をつく。

「しょうがないですね。やっぱり、今は前を向くしかない。試合は終わっていないので、自分たちのできることを」

 そう言いつつ「うーん」と唸る木原を励ますように、三浦が「やっぱり、一つひとつ。今日は失敗があったので、切り替えて」と口にする。

「自分たちができると信じてやればできるので、切り替えて明日は明日で頑張りたいと思います」

 重い雰囲気の中、記者が「2位とは約2点(2.35)差ですし、トップとも6.9の点差がありますけど、団体の時のような演技をすれば全然逆転可能な点数」と声をかけると、木原は「そうですね。本当にありがとうございます。勇気が出る言葉」と顔を上げた。

「もう今はやるしかないので、本当に今しっかりそういうふうに気持ちを切り替えることができたので。調子が悪いわけではないので、しっかりと明日また2人で、必ずここで、いつものような感じでお話できるように」

 そして、決意を感じさせる口調で付け加えた。

「必ず戻ってくるので、待っていてください。必ず戻ってきます」

 フリーで、りくりゅうの逆転劇が始まる。
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著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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