「日本女子はまだまだ強くなる」 野上大介が見た雪中の激闘と、国境を越えるスノーボーダーの絆

田中凌平

雪が舞うミラノの表彰台で、それぞれの国旗を掲げた3人が女子ハーフパイプの新時代を予感させた 【写真は共同】

 現地時間2月12日夜(日本時間13日早朝)、スノーボード・女子ハーフパイプの決勝が行われた。前回の北京五輪で9位に終わった小野光希(バートン)が3位で悲願の銅メダルを獲得。日本勢は清水さら(TOKIOインカラミ)が4位、工藤璃星(TOKIOインカラミ)が5位と続き、北京五輪銅メダリストの冨田せな(宇佐美SC)は9位だった。

 雪が舞うコンディションでスタートした女子ハーフパイプ決勝。全体2番目で登場した小野は、1本目から85.00点をマークする完成度の高い滑りを披露した。その後、予選1位通過のクロエ・キム(アメリカ)が88.00点でトップに躍り出る。しかし、最終3本目でチェ・ガオン(韓国)が90.25点という圧巻の滑りを見せ、逆転優勝。ガオンは1本目で転倒し一時は状態が不安視されたが、厳しい状況を立て直して底力を見せ、金メダルを引き寄せた。

 どの選手も1位を狙っているのは同じ。勝負の舞台では火花を散らしながらも、ライバルが高難度の技を決めれば自分のことのように喜び、転倒すれば心配した表情を見せる選手たち――。こうした姿から、国境を越えた選手同士の“強い絆”も強く印象に残る試合となった。そんな女子ハーフパイプ決勝について、複数ブランドの契約ライダーとして活躍し、現在はスノーボード専門メディア「BACKSIDE」の編集長を務める野上大介さんに、各選手の滑りを中心に決勝を総括してもらった。

1本目からエンジン全開で臨んだ小野光希、悲願の表彰台

銅メダルを掲げる小野光希。1本目から攻め抜いたランが実を結び、4年越しの思いを晴らした 【写真は共同】

 今回の決勝は雪の降る中での戦いでした。湿った雪だと減速しやすく、技を出しづらくなります。ただ、選手たちはしっかりスピードに乗っていたので、そこまで雪の影響はなかったのかもしれません。予選で決められていた技を決勝で決められず、転倒する選手が多く見られたのは、悪天候というよりも「五輪という舞台で限界に挑んだがゆえの結果」なのだと思います。

 その中でも1本目からフルメイク(全ての技を決め切ること)した小野選手は、「さすが」の一言に尽きます。いきなり完成度の高いランを成功させたことで、2本目以降はさらに難度を上げる挑戦に踏み切れました。

 鍵となったのは、キャブ900(スイッチスタンス〈通常と逆向き〉で踏み切り、進行方向に対して腹側に横2回転半)からスイッチバックサイド540(スイッチスタンス〈通常と逆向き〉で踏み切り、進行方向に対して背中側に横1回転半)への流れです。ただしこれだけでは表彰台を狙うのが難しいため、小野選手はその前にテールグラブ(デッキの後端を後ろの手でつかむトリック)でのフロントサイド1080(進行方向に対して腹側に横3回転)を組み込むことで難度を引き上げました。フロントサイド1080は通常のスタンスと反対向きの着地になるので、減速しやすい。それでも後続の高難度技につなげた部分が、小野選手の得点が伸びた要因です。

 技以外に注目したいのが滑走順です。小野選手は1本目のランで2番目に登場しました。ジャッジは後半選手とのバランスを考慮するため、序盤の選手は高得点を出しにくい傾向があります。小野選手の1本目は本当に素晴らしく、90点台でも不思議ではない内容ながら85.00点にとどまりました。そうした中でも最終的にメダル圏内の位置を守り抜いたことが、ルーティンの完成度の高さを証明していると思います。

 小野選手はおっとりした性格に見えますが、実は負けん気の強い選手です。代表最終選考となった2026年1月のラークス・オープンで7位の結果に終わった悔しさを乗り越えてつかんだ、悲願のメダルでした。

日本勢全員が持ち味を発揮した滑りだった

高く舞い上がる工藤璃星。持ち味のスタイリッシュなエアで観客を魅了し、日本女子の層の厚さを印象付けた 【写真は共同】

 4位の清水選手には16歳とは思えない落ち着きがあります。1本目、2本目は転倒してしまいましたが、3本目で成功させたフロントサイドダブルコーク1080(進行方向に対して腹側に縦2回転、横3回転)は今大会で誰も挑戦していない大技。思ったより点数が伸びなかったのは、普段の清水選手ほど高さが出なかったことが影響した可能性もあります。めったに1本目で転倒することがない選手ですが、今回は予選でも決勝でも転倒してしまいました。原因はハーフパイプのコンディションなのか五輪のプレッシャーなのか分かりませんが、それでも3本目でしっかり決めてくるあたり、メンタルの強さが見られましたね。

 5位の工藤選手は、1本目からルーティンを成功できた点が良かったです。3ヒット目で挑戦したフロントサイド・トゥ・フェイキー(進行方向に対して腹側に回転し、逆向き〈フェイキー=スイッチスタンス〉で着地する技)は、日本女子ではまだ成功例のない技。3本目では、スピードが出にくいこの技の後にキャブ1080(スイッチスタンス〈通常と逆向き〉で踏み切り、進行方向に対して腹側に横3回転)という大技を組み込む「攻めの構成」に挑みました。結果は転倒でしたが、それでも工藤選手の持ち味である「かっこいいスタイリッシュな滑り」は十分に表現できていたと思います。

 9位の冨田選手は2本目をフルメイクしましたが、得点は伸び悩みました。もしかすると、大技のフロントサイド1080を最後に配置した構成が影響したかもしれません。最後の大技は次につなげる必要がないため、中盤で入れたほうが全体の点数が上がることもあります。結果的に今回は3本とも同じルーティンだったので、五輪では「この流れでいく」とコーチと決めていたのでしょう。

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著者プロフィール

東京都出身。フリーライター。ラグジュアリーブランドでの5年間の接客経験と英語力を活かし、数多くの著名人や海外アスリートに取材を行う。野球とゴルフを中心にスポーツ領域を幅広く対応。明治大学在学中にはプロゴルフトーナメントの運営に携わり、海外の有名選手もサポートしてきた。野球では国内のみならず、MLBの注目選手を観るために現地へ赴くことも。大学の短期留学中に教授からの指示を守らず、ヤンキー・スタジアムにイチローを観に行って怒られたのはいい思い出。

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