「日本女子はまだまだ強くなる」 野上大介が見た雪中の激闘と、国境を越えるスノーボーダーの絆
雪が舞うコンディションでスタートした女子ハーフパイプ決勝。全体2番目で登場した小野は、1本目から85.00点をマークする完成度の高い滑りを披露した。その後、予選1位通過のクロエ・キム(アメリカ)が88.00点でトップに躍り出る。しかし、最終3本目でチェ・ガオン(韓国)が90.25点という圧巻の滑りを見せ、逆転優勝。ガオンは1本目で転倒し一時は状態が不安視されたが、厳しい状況を立て直して底力を見せ、金メダルを引き寄せた。
どの選手も1位を狙っているのは同じ。勝負の舞台では火花を散らしながらも、ライバルが高難度の技を決めれば自分のことのように喜び、転倒すれば心配した表情を見せる選手たち――。こうした姿から、国境を越えた選手同士の“強い絆”も強く印象に残る試合となった。そんな女子ハーフパイプ決勝について、複数ブランドの契約ライダーとして活躍し、現在はスノーボード専門メディア「BACKSIDE」の編集長を務める野上大介さんに、各選手の滑りを中心に決勝を総括してもらった。
1本目からエンジン全開で臨んだ小野光希、悲願の表彰台
その中でも1本目からフルメイク(全ての技を決め切ること)した小野選手は、「さすが」の一言に尽きます。いきなり完成度の高いランを成功させたことで、2本目以降はさらに難度を上げる挑戦に踏み切れました。
鍵となったのは、キャブ900(スイッチスタンス〈通常と逆向き〉で踏み切り、進行方向に対して腹側に横2回転半)からスイッチバックサイド540(スイッチスタンス〈通常と逆向き〉で踏み切り、進行方向に対して背中側に横1回転半)への流れです。ただしこれだけでは表彰台を狙うのが難しいため、小野選手はその前にテールグラブ(デッキの後端を後ろの手でつかむトリック)でのフロントサイド1080(進行方向に対して腹側に横3回転)を組み込むことで難度を引き上げました。フロントサイド1080は通常のスタンスと反対向きの着地になるので、減速しやすい。それでも後続の高難度技につなげた部分が、小野選手の得点が伸びた要因です。
技以外に注目したいのが滑走順です。小野選手は1本目のランで2番目に登場しました。ジャッジは後半選手とのバランスを考慮するため、序盤の選手は高得点を出しにくい傾向があります。小野選手の1本目は本当に素晴らしく、90点台でも不思議ではない内容ながら85.00点にとどまりました。そうした中でも最終的にメダル圏内の位置を守り抜いたことが、ルーティンの完成度の高さを証明していると思います。
小野選手はおっとりした性格に見えますが、実は負けん気の強い選手です。代表最終選考となった2026年1月のラークス・オープンで7位の結果に終わった悔しさを乗り越えてつかんだ、悲願のメダルでした。
日本勢全員が持ち味を発揮した滑りだった
5位の工藤選手は、1本目からルーティンを成功できた点が良かったです。3ヒット目で挑戦したフロントサイド・トゥ・フェイキー(進行方向に対して腹側に回転し、逆向き〈フェイキー=スイッチスタンス〉で着地する技)は、日本女子ではまだ成功例のない技。3本目では、スピードが出にくいこの技の後にキャブ1080(スイッチスタンス〈通常と逆向き〉で踏み切り、進行方向に対して腹側に横3回転)という大技を組み込む「攻めの構成」に挑みました。結果は転倒でしたが、それでも工藤選手の持ち味である「かっこいいスタイリッシュな滑り」は十分に表現できていたと思います。
9位の冨田選手は2本目をフルメイクしましたが、得点は伸び悩みました。もしかすると、大技のフロントサイド1080を最後に配置した構成が影響したかもしれません。最後の大技は次につなげる必要がないため、中盤で入れたほうが全体の点数が上がることもあります。結果的に今回は3本とも同じルーティンだったので、五輪では「この流れでいく」とコーチと決めていたのでしょう。