平野歩夢が見せた“異次元”のリカバリー力 野上大介が展望するスノボ・ハーフパイプ「復活のシナリオ」
そのほかの日本勢は、3回目の五輪出場で悲願のメダル獲得を目指す戸塚優斗(ヨネックス)が91.25点で2位、初出場の19歳・山田琉聖(JWSC)が90.25点で3位、平野流佳(INPEX)が87.50点で5位と、4人全員が好順位で決勝へ。表彰台独占も視野に入る布陣が整った。
平野歩夢は2026年1月のワールドカップで試合中に転倒し、骨盤など複数箇所を骨折する大ケガを負った。「足の感覚がない」としつつも奇跡の復活を見せた平野の「スゴさ」はどこにあるのか。そして決勝でのメダル争いの行方は――。複数ブランドの契約ライダーとして活躍し、現在はスノーボード専門メディア「BACKSIDE」の編集長を務める野上大介さんに、予選の戦いぶりと決勝の展望を聞いた。
骨折の衝撃を耐え抜く「常軌を逸した」パフォーマンス
この予選は体のことを考えてやや抑えたのか、それとも「現状の限界」なのかは正直わかりません。ベストパフォーマンスが出せないのならミラノ五輪の出場辞退すらもあるのではないかと思っていたのですが、そういうことではないのかもしれません。メディアに対しては、「1%でも可能性があるならば滑りたい」と話していました。使命感や背負うもの。そういった覚悟こそが、彼自身をトップに押し上げ続けてきた原動力なのでしょう。
ハーフパイプで高く飛んで回るには、リップ(壁の一番上部のヘリになっている部分)に対して直角に進入し、下半身をできるだけ残しながら上半身を強くひねらなければなりません。さらに、着地では非常に大きな衝撃がかかる。それを骨盤骨折の状態で行っているのですから、もはや常人の域を超えています。
中でも際立ったのが、歩夢選手の「リカバリー力」でした。2本目のラン、その4つ目のトリックで、バックサイドダブルコーク1260(進行方向に対して背中側に縦2回転、横3回転半)をしかけた場面。本来はヘリの先端で飛び、先端ギリギリで着地する「リップ・トゥ・リップ」で次のトリックへ加速をつなげたいところでしたが、ボトム(ハーフパイプの底部)に着地をしてしまったんです。
ボトムへの着地は衝撃が大きく、転倒や減速で次のトリックをしかけられなくなるケースも多い。しかも歩夢選手は骨折を抱えた状態で大会に臨んでおり、通常以上にダメージのリスクがある状況でした。それでも衝撃に耐え、即座に体勢を立て直した点に彼の身体能力と精神力の高さが凝縮されています。
そして直後に、フロントサイドダブルコーク1080(進行方向に対して腹側に縦2回転、横3回転)を決めてフィニッシュしました。フロントサイドダブルコーク1440(進行方向に対して腹側に縦2回転、横4回転)を狙っていた可能性もありますが、あの局面でこんなリカバリーができるというのは、ケガ抜きにしても素晴らしい技術力です。
彼は4歳からスノーボードとスケートボードを始め、21年開催の東京五輪ではスケートボード日本代表として出場しています。スケートボードで得た「バランスを崩してもリカバリーができる技術」は、スノーボードでも存分に生かされているようです。
引き続き体調面が心配ではありますが、メダル獲得の可能性は十分にあります。予選で見せたフロントサイド900(進行方向に対して腹側に2回転半)は1260(3回転半)に引き上げられるでしょうし、彼の得意技であるトリプルコーク1440(縦3回転、横4回転)もまだ出してないですから。さらに、詳細を公表していませんが、「五輪でパフォーマンスしたいトリックがある」と本人が昨年末に語っています。決勝で彼がどんなカードを切ってくるのか、注目です。