絶対王者マリニンの「安全策」と2位鍵山が示した「強み」 フィギュア男子SPを町田樹が解説
団体戦から中1日と過密日程となったが、100点超えを果たした上位3選手は高難度の安定した演技を披露。フリースケーティング(FS)に向けて好スタートを切った。メダル争いは彼らが軸となるが、ソチ五輪の男子シングル5位入賞、現在は國學院大學准教授を務め、今大会を現地ミラノで解説する町田樹さんは出場選手たちの演技をどう見たのか。現地時間13日(日本時間14日)に開催されるFSの展望と合わせて、SPを総括する。
北京五輪を彷彿とさせる戦況
戦いの構図は、大きく二つに分かれていると見ることができます。まず、100点超えを果たしたマリニン選手、鍵山選手、アダム・シャオイムファ選手の3名がトップ層を形成し、三つ巴の様相を呈しています。そして、4位のダニエル・グラッスル選手(イタリア/93.46点)から13位の金博洋選手(中国/86.55点)あたりまでが、わずか7点差の中に密集する、いわば「団子状態」の第2グループが広がっているのです。
この状況は、4年前の北京五輪を彷彿とさせます。北京でもネイサン・チェン選手(アメリカ)、鍵山選手、宇野昌磨選手の3名が100点超えを果たしてトップ集団を形成し、その下に90点台のグループが続くという構図でした。前回大会は14位だったアダム・シャオイムファ選手や、12位のグラッスル選手が、4年の歳月を経て今やトップ争いに加わっていることからは、彼らのたゆまぬ努力と成長が見て取れます。
ミスがありながら、100点超えを果たした鍵山
一つは、成功させたジャンプの質の高さです。冒頭の4回転トウループ+3回転トウループのコンビネーションでは、4.07点という極めて高い出来栄え点(GOE)を獲得しました。3回転トウループの基礎点が4.2点ですから、これは言ってみれば「4回転トウループ+3回転トウループ+3回転トウループ」を跳んだのに等しい価値があるということです。この驚異的なGOEが、ミスの失点をカバーする形になりました。
もう一つの要因は、スピンとステップの完璧さです。最終グループ6名の中で、スピンとステップのすべてで最高のレベル4を獲得したのは鍵山選手とグラッスル選手のみ。スピンとステップは少しでもバランスを崩せば、レベルを取りこぼしてしまうため、極限の緊張状態の中で、細部まで突き詰めたクオリティを維持できる技術力と精神力が必要です。マリニン選手はまだスピンとステップで取りこぼしがある。ジャンプだけではなく、プログラムの隅々まで神経の行き届いた完成度の高さが、鍵山選手の強みでもあります。
9位の佐藤は4回転を「回りすぎて」しまった
それでも、バランスを崩しながら2回転トウループをつけたのは、彼の粘り強さの表れです。SPのコンビネーションジャンプは、二つ目のジャンプが少なくとも2回転以上でないといけないという規定があり、もしセカンドジャンプがシングルになっていれば、規定違反で大きな減点を受けていました。それを回避し、持ちこたえたと言えます。しかし、本来予定していた3回転トウループとの基礎点の差は約3点(3回転は4.20点、2回転は1.30点)。もし成功していれば90点台に乗り、最終グループ入りも見えていただけに、悔やまれるミスでした。
とはいえ、4位のグラッスル選手とは5点差。今季抜群の安定感を誇るFSで、団体戦で見せたような演技ができれば、メダルの可能性も含めて4位以上を狙うことは十分に可能です。
出遅れた三浦は、真価が問われるフリーに
通常の競技会では、公式練習から本番まで十分な間隔があり、心身を落ち着けて調整する時間が確保されています。ただ、今回の五輪は公式練習が終わった直後に、第1グループが始まるという、非常にタイトなスケジュールです。こうした普段と違うリズムに加え、スケート靴への不安が重なった精神的な負荷は、計り知れないものがあったでしょう。
しかし、三浦選手は昨年末の全日本選手権のように、一つのミスも許されない緊迫した状況でもしっかりとFSをまとめ、五輪の切符を勝ち取った強靭な精神力の持ち主です。SPの失敗を引きずらず、気持ちを新たに本来の力を発揮できれば、入賞圏内へのジャンプアップも不可能ではありません。彼が持つFSのシーズンベストは出場選手中10位という高い水準であり、逆境でこそ輝く彼の真価が問われます。