高木美帆の悲願「1500mで金メダル」を阻止するのは? スケート王国オランダのトップジャーナリストが検証
では、そんな高木を「スケート王国オランダ」のメディアはどう見ているのか。全国紙『デ・テレフラーフ』の記者で、スケート競技におけるトップジャーナリストとして知られるレンゼ・ロルケマ氏が、高木のライバルとなる国内の有力選手の現状を伝え、さらにはチームパシュートのメダル争いも予想する。(翻訳:中田徹)
まったく気取ったところがないレジェンド
2018年平昌五輪のチームパシュート、22年北京五輪の1000メートルと、2大会連続で金メダルを獲得。銀と銅を合わせた五輪でのメダル獲得数は7個(金2、銀4、銅1)に及ぶ。
しかも多才。北京五輪では個人4種目、団体1種目に出場し、500メートルで銀、前述の通り1000メートルで金、1500メートルで銀、3000メートルで6位入賞、そしてチームパシュートで銀と、オールラウンダーぶりを見せつけている。さらにワールドカップ(W杯)でも、これまで1000メートルで13勝、1500メートルで24勝、3000メートルで1勝と、歴代6位の通算38勝をマーク。まさにレジェンドと呼ぶにふさわしい。
しかし、これだけの記録を持ちながら、高木はまったく気取ったところがない。昨夏、オランダメディアが彼女にインタビューをしたときのこと。「写真を撮る前に鏡を見ますか?」と尋ねられた高木は「必要ないわ。すぐに撮りましょう。メイクとか気にしないの。私は競技のことだけに集中したいんです」と言って微笑んだ。
高木は夏になると、3週間の合宿のためオランダで過ごす。高木の所属する「チームゴールド」のコーチ、ヨハン・デ・ヴィット(46歳)の家には、日本から送られてきたマットレスが保管されている。
「美帆はスケートに真摯に取り組みます。パフォーマンス向上にプラスになるものをすべて揃えようとします。我々のチームで、ベッドを自分で用意したのは彼女だけです」と言って、デ・ヴィットは笑う。
「しっかり睡眠を取るためなら、私は何でもします」
スケートのためなら何でもする――。その覚悟で彼女は競技を続けてきた。
デ・ヴィットが日本代表チームのコーチに就任した2015年に2人は出会った。その後、22年北京五輪で高木が1000メートルの金メダルを獲得したにもかかわらず、日本スケート連盟との契約が更新されなかったデ・ヴィットはオランダに戻るのだが、彼に師事することを決意した高木はナショナルチームから離れ、日本とオランダを往復しながらレベルアップに務めてきた。
今シーズンの高木はW杯3戦目まで勝利がなかったが、ようやく昨年12月、4戦目のハーマル大会(ノルウェー)において、1000メートルと1500メートルの2種目で初優勝を飾っている。デ・ヴィットコーチは、「美帆には勝利が必要だった」と語る。
「ハーマル大会の2種目で1位になったことは、ミラノ・コルティナ五輪に向けて重要なことでした。この勝利が美帆の自信になったのです。負けが続くと『また勝てなかった』と考えがちになる。今回の勝利によって、彼女は良い手応えを得ました。メンタル面で一歩、飛躍したと言えるでしょう」
最大のライバルが国内予選でまさかの落選
高木と1500メートルは愛憎入り交じった関係だ。
19年に高木が作った1500メートルの世界記録(1分49秒83)は、7年経った今も破られていない。しかし、過去2回の五輪で、いずれも高木は得意とする1500メートルで2位に終わり、金メダルには手が届かなかった。
彼女が今もなおスケート競技を続ける理由は、まさにそれだ。2月、ミラノ・コルティナ五輪で金メダルを獲得したいと切望している。
「私は1500メートルの世界記録保持者ですが、それでもいつも難しいレースになります」と語る高木は、この種目で五輪の金メダルを獲ることで“真の最強スケーター”になれると信じている。
高木にとって最大のライバル、ヨイ・ベーネは今シーズンのW杯1500メートルで開幕戦から3連勝と絶好調だった。第3戦のヘーレンフェーン大会(オランダ)でもベーネが高木との直接対決を制している(高木は5位)。
「美帆は長年、素晴らしい成績を残してきた選手。彼女と対戦するのはいつも楽しい。今日は美帆との直接対決に勝利できて、とても嬉しいです」
一方で、高木が優勝した第4戦のハーマル大会を、ベーネは欠場している。つまり、今シーズンの高木はベーネに一度も勝てていなかったのだ。
ところが、昨年12月末に行われたオランダ国内予選で、1500メートルに出場したベーネはカーブでバランスを崩して4位に沈み、ミラノ・コルティナ五輪の代表争いで落選してしまったのだ。今大会は3000メートルとチームパシュートには出場するものの、最も自信のあった1500メートルに出られないという悲劇。ベーネは悲嘆に暮れた。
これにはデ・ヴィットコーチも、「とても信じられない。あってはならいことだ」とコメントし、次のように続けている。
「彼女は過去2年、出場した1500メートルのレースで勝ち続けてきました。ヨイのことを思うととても残念です。彼女の落選には美帆も驚き、そして悲しんでいました。良きライバルに勝ちたいと思う気持ちは常にあって、私たちは五輪でヨイに勝つためのプランを温めてきましたからね。本当に(1500メートルに)出てほしかった。彼女はこの2年、1500メートルを支配してきましたが、この流れを美帆は今回の五輪で食い止めようと思っていたんです」