三笘薫は真のプレミアリーガーになった 敵将のアンチフットボールの犠牲になった一戦でも…
その瞬間、三笘はピッチに伏せるように倒れ込んだ
6分と表示された後半アディショナルタイムは、この時7分目に突入していた。
このコラムでも何度か記したが、筆者が居住する北ウェールズからブライトンへの移動はきつい。ドア・トゥ・ドアで5時間半から6時間の道のりだ。
それは、リバプールからブリテン島南端のこの海辺の街にやって来たエバートン・サポーターも同じだ。ここより遠い街でのプレミアリーグのアウェー戦は、ロンドン・ウォータールーから2時間かかるボーンマスだけである。
そんな遠いアウェー戦で憂鬱な0-1負け目前だったところから、最終分に1分のおまけがついた、まさに最後の最後のプレーでエバートンが1-1の同点に追いついた。
その瞬間、ブライトン主将のルイス・ダンクは仰向けに倒れ込み、そして三笘薫の膝がガックリと折れて、彼もピッチに伏せるように倒れ込んだ。
そんな悲痛な情景から視線を手前に落とすと、エバートンのベンチ前で、両腕が完全には伸び切らないまま何度も拳を天に向かって突き出し、ぴょこぴょこと中途半端に飛び跳ねて喜びを爆発させる白髪頭が見えた。デイビッド・モイーズ監督だった。
アウェー戦の前半は相手の足を蹴って終わる
彼を上回るのは、マンチェスター・ユナイテッドで810試合指揮を執ったアレックス・ファーガソン監督と、828試合で采配を振った元アーセナルのアーセン・ヴェンゲル監督だけだ。4位がウェストハムなどで監督を務めたハリー・レドナップ氏の641試合であり、モイーズの740試合は立派な史上3位の数字である。
けれども筆者は不快な気分で、手足が伸び切らない、かなりカッコ悪いモイーズのセレブレーションを見つめていた。
これがユルゲン・クロップならアウェー席の方向へ脱兎のごとく駆け出し、巨体を何度も大きく宙に浮かせながら、そのまま大きなポスターにしたくなるようなガッツポーズを決めていただろう。
それはともかく、ガックリとピッチに倒れ込んだ三笘の心情に感情移入したこともあったが、個人的にモイーズにはろくな思いがない。
まずは彼の“アンチフットボール”そのもののスタイルが気に入らない。「相手にスペースを与えない厳しい守り」と言えば聞こえはいいかもしれないが、とにかくモイーズの選手は汚い。間合いを詰めるのは結構だが、そこからボールだけではなく、相手選手の足もお構いないしにどんどん蹴ってくる。
そして、アウェー戦の前半はそんなふうに相手の足を蹴って終わる。フットボールはゴールを決めなければ勝てない競技であることを忘れたかのように、徹底的に相手の攻撃を潰す45分間を展開するのだ。
そんなわけでモイーズは、“何よりもゴールが見たい”という筆者の親友グラハムが最も忌み嫌う監督だ。
この試合でもそうだった。前半のフィニッシュはゼロ。攻める気は全くないのかと呆れた。最初から0-0を狙うような試合。これではどんな結果でも受け入れる熱烈なエバートン・サポーター以外、いや、そんな忠義なファンでも本音は嫌気が差すであろう内容だった。
しかし後半になると、ダイレクトにゴールを狙う攻めをポツンポツンと見せ始めるから油断も隙もない。そして1点を先行されると、そこからフィジカルを前面に押し出して本気で攻撃を始めた。
悔しいかな、徹底はしている。こうやってモイーズは勝ち点をもぎ取るのだ。