平野歩夢の五輪連覇を阻む最大の障壁とは? ライバル国の記者が分析するスノーボード・ハーフパイプ日本代表 

サラ・マート

今季のW杯初戦で表彰台を独占した平野歩夢(中央)、戸塚優斗(左)、平野流佳(右)。ミラノ・コルティナ五輪でも同じ光景が見られるか 【写真は共同】

 現地2月6日(日本時間7日午前4時)に開幕するミラノ・コルティナ冬季五輪。今大会で日本代表のメダル獲得が期待される競技の一つが、スノーボードのハーフパイプだ。2022年の北京大会に続き連覇を狙うエース平野歩夢を筆頭に、「歴代最強メンバー」で挑む男子チームはもちろん、女子にも有力なメダル候補がそろっている。では、ライバル国のメディアはこの日本チームをどのように見ているのか。カナダ出身のスポーツジャーナリストで、五輪をはじめさまざまな国際大会を取材するサラ・マート氏に分析してもらった。
(翻訳:杉浦大介)

平野歩夢はけがによる恐怖心に打ち勝てるか

 日本のスノーボード・ハーフパイプ代表チームは、ミラノ・コルティナ冬季五輪に向けて、素晴らしい戦いを見せる準備を整えている。

 ハーフパイプ競技は男子が2月11日(日本時間12日深夜)に予選、13日(同14日深夜)に決勝。女子が11日に予選、12日(同13日深夜)に決勝というスケジュールで開催されるが、日本チームはここにメダルを狙える複数のトップライダーを送り込む。

 まず男子は、4年前の北京五輪の金メダリストである平野歩夢を筆頭に、ワールドカップ(W杯)表彰台の常連である平野流佳(るか)と戸塚優斗、そして2024年江原ユース五輪で銅メダルを獲得した山田琉聖(りゅうせい)の4人でチームを構成。この顔ぶれを見るかぎり、日本人選手が今大会で表彰台を独占する可能性は十分にある。

 なかでも最もメダルに近いのが、大会連覇、そして史上初となる4大会連続のメダル獲得に挑む平野歩夢だ。14年ソチ、18年平昌での銀メダルを経て、前回の北京で悲願の金メダルを獲得した豊富な実績は、他の追随を許さない。彼は21年の夏季東京五輪でスケートボード・パーク種目にも出場しており、これが通算5回目の五輪となる。

 この圧倒的な経験値と革新的なスタイルが、27歳になった今もなお彼を世界のトップライダーたらしめている。北京では最終ランで歴史的なフロントサイド・トリプルコーク1440を成功させて96.00という高得点を叩き出し、金メダルを獲得したが、今大会でもそうした高難度トリックの数々が再現されることを期待されている。

 歩夢を際立たせる一つの要素が、振り幅(アムプチュード)だ。彼はパイプから飛び出す際、他の誰よりも高く跳び上がり、迫力の空中技を繰り出すのに十分な到達点を得るのだ。

 ただし、そんな歩夢の前に立ちはだかる最大の障害が、「恐怖心」だ。1月17日にスイスのラークスで行われた今季W杯第5戦の決勝でトリックを試みた際に、パイプ内でスリップしてバランスを崩し、着地で転倒。推定8メートルの高さから落下した衝撃でボードの先端は折れ、歩夢は顔面を強くパイプに打ちつけた。鼻や口からの出血は激しく、診断の結果、複数箇所の骨折と深刻な打撲が認められている。

 それでも骨がずれていないことが確認され、五輪代表には選出されたが、このけがによって本番までの貴重な練習時間を失っただけでなく、もしかするとかつてない恐怖心も植え付けられてしまったかもしれない。

 歩夢を世界のハーフパイプ界のトップに押し上げたのは、その独創性と、高難度トリックを完璧に仕上げる能力だ。北京五輪では幻の技と言われていたトリプルコーク1440を成功させ、それは彼の代名詞となった。しかし北京五輪以降、多くのトップ選手がこの技を習得し、危険性が高いにもかかわらず、大舞台でも積極的に挑戦するようになっている。

 したがって歩夢は、自身の技術を示すため、そして五輪連覇の偉業を果たすために、さらに革新的なトリックを模索する必要がある。高難度の技に対する恐怖心が、競争心や冒険心を削ぐことがあってはならない。もちろん五輪の金メダルが、そうした困難な挑戦の先にこそあることを、誰よりも歩夢自身が知っているはずだ。

本番に向けて調子を上げる北京の銀メダリスト

北京五輪の銀メダリスト、スコッティ・ジェームスが悲願の金メダル獲得に向けて調子を上げている。1月のXゲームズでは大会5連覇の偉業を達成 【Photo by Michael Reaves/Getty Images】

 歩夢にとっては、まずは本番までに万全のコンディションを整えることがメダル獲得の最低条件だが、日本の男子チームが表彰台を独占するには、他の3人のメンバーがワンランク上の滑り、いわゆる「キャリア最高のラン」を見せなくてはならない。

 今季のW杯で優勝1回、準優勝2回の戸塚も有力なメダル候補だが、私が注目しているのは、平野流佳だ。前回の北京五輪では予選を3位で通過しながら、決勝のラン3本すべてで転倒し、12位に終わったが、その悔しさを胸にトレーニングに励み、技の完成度を高めてきた。

 23歳になって心身ともに成長した流佳は、そうした地道な鍛錬を土台に、トリプルコーク2連発など驚異的なトリックを決められる選手となったが、彼の一番の強みは安定感だろう。W杯では昨季まで3季連続の種目別優勝という快挙を達成。この抜群の安定感を五輪本番に持ち込めれば、金メダル獲得も十分にあり得る。

 そんな日本人選手にとって最大のライバルとなるのが、北京五輪銀メダルのスコッティ・ジェームス(オーストラリア)だ。1月のXゲームズ・スーパーパイプで優勝し、北京五輪を最後に引退した伝説のスノーボーダー、ショーン・ホワイト(アメリカ)を超える前人未踏の5連覇を達成。さらに歩夢がけがをした今季のW杯第5戦でも優勝と、五輪本番に向けて調子を上げている。

 長年ホワイト、歩夢と激闘を繰り広げてきた歴戦の31歳は、いまだ手にしたことのない五輪の金メダル獲得に虎視眈々。大舞台での安定したパフォーマンスが光るだけに、「歴代最強」とも呼ばれる日本チームにとっては間違いなく脅威だろう。

 また、同じく31歳のヤン・シェラー(スイス)も前回大会で銅メダルの実力者だが、勢いがあるのは層の厚いオーストラリア勢のヴァレンティノ・グセリ。ビッグエアが特徴の20歳のライダーは、今季のW杯第3戦を制している。さらにニュージーランドのキャンベル・メルビルアイブズにも要注意だ。平野と同じくフロントサイド・トリプルコーク1440を武器に、W杯第5戦では2位に入るなど好調な滑りを見せている。

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