スカウトが振り返る、あの年のドラフト指名

「GMは見に来ないでください」視察禁止にされた滝澤夏央、“何か”を持っていた甲子園11勝右腕 元西武GMが明かすドラフト秘話

永松欣也

滝澤夏央は小兵だが守備力が光るショート 【写真は共同】

 毎年多くのドラマを生むプロ野球ドラフト会議。あの年の1位はどのようにして決まったのか? あの選手をどのように評価していたのか? あの選手はなぜ指名しなかったのか? 2014年から2024年まで西武のフロントで要職(シニアディレクター、編成部長、GM)を務めていた渡辺久信氏に、選手指名秘話やドラフト舞台裏などを振り返ってもらった。

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「投手王国」に向けて、左腕4人を指名

2021年のドラフトは隅田知一郎(写真)、佐藤隼輔と左腕を上位で指名した 【写真は共同】

 最下位に終わった2021年シーズン。チーム防御率が4.28から3.94に改善されたものの、4年連続のリーグワーストは変わらず。この年もやっぱり欲しいのはピッチャーでした。

 1位の西日本工大の隅田知一郎はこの年のナンバーワンでしたから、当然勝負に行きました。2位では筑波大の佐藤隼輔と、上位2人が大学生左腕になりました。同じ左腕では三菱重工Westの森翔平(広島2位)、JR東日本の山田龍聖(巨人2位)、創価大の鈴木勇斗(阪神2位)、新潟医療福祉大の桐敷拓馬(阪神3位)など他にもいました。そのなかで佐藤に行ったのは、荒削りだけどボールに力があったことと元々他球団の評価も高くて1位で消えると思っていたから。「佐藤が残っているなら行こう」と迷わず決めました。1位クラスが2人獲れたのはラッキーだと思いました。

 4位でも八王子学園八王子の大型左腕・羽田慎之介を指名。この年もピッチャー中心の指名になったのは、野手にはこれから主力になってくれるであろう、楽しみな若手がいたからです。愛也もそうですし、ベッケン(渡部健人)もこの年が1年目。愛斗もいたし、(呉)念庭もいましたしね。野手は何とかなるとこの時は思っていました。そうなると、やはりピッチャーが必要だということになりますね。

 3位で中央大のキャッチャー古賀悠斗を獲ったのは、友哉のFA移籍に備える意味合いが強かったですね。上位2人は即戦力ピッチャーで行く方針でしたから、3位で残っているキャッチャーの中で良い選手を獲ろうと考えていました。大学生では古賀とともに評価が高かったのが國學院大の福永奨です。3位の指名順が先のオリックスがその福永を指名して、その後に西武が古賀を指名する形になりました。でも我々が欲しかったのは最初から古賀の方でした。古賀を評価したのは守備力と肩、スローイング。打つ方は福永の方が良かったですけど、我々が欲しかったのは守備力の高いキャッチャーでしたから。

 キャッチャーではロッテが市立和歌山の松川虎生を1位で指名しています。高校時代はバッティングが良く、将来が楽しみなキャッチャーだと思っていましたが、1位という評価までは至っていませんでした。それでも3位の西武の指名順までは残っていないだろうとは思っていましたけど。

 隅田を外した巨人が指名したのが関西国際大の(翁田)大勢ですね。私も観に行きましたが、あんなに良くなるとは思いませんでした。大学時代から155キロくらい投げていて確かに速かったですけど、投げ方が独特というか、肘の使い方がちょっと気になりました。巨人もよく1位で行ったなと思いましたし、よくあれほどまでのピッチャーになりましたね。

 京都産業大の北山亘基(日本ハム8位)も観ていましたけど、そんなに評価はしていなかったですね。ボールは速かったですけど、担当スカウトもそんなに推していなかったですから、引っかかる点がいくつかあったのでしょうね。もちろん持っているものは素晴らしいですが、担当スカウトは良い時だけではなくて、そうではないときも見て判断していますからね。北山は入ってすぐ良くなっていたのでちょっと驚きました。

「GMは見に来ないでください」と言われていた滝澤夏央

渡辺元GM「夏央のプレーを映像で何度か確認したものの、結局生で見ることは一度もありませんでした」 【写真は共同】

 この年の育成ドラフトでも、前年の5人に続いて4人を指名しています。その中で戦力になったのが関根学園高の滝澤夏央と山本学園高の菅井信也です。

 夏央の担当スカウトである鈴木敬洋には「GMは見に来ないでください」と釘を刺されていました。理由は私が視察に来ている姿が他球団に見つかると、「西武は本気で滝澤を狙っているな」とバレてしまうからです。ですので夏央のプレーを映像で何度か確認したものの、結局生で見ることは一度もありませんでした。

 夏央の身長は164センチ、体重は65キロ。そこを気にしたのか、他球団はリストに挙げず、指名を考えていたのは西武とソフトバンクだけでした。だから育成2位で獲れました。西武は体のサイズは関係なく「守備のスペシャリスト」という点を評価しました。

 3位の菅井は「プロでやっていけるのか?」と心配するほど、高校時代は華奢で体が本当に細かった。プロ入りしてから体が大きくなって、ストレートも強くなりました。3年目の2024年6月に支配下選手になり、7月のオリックス戦で7回無失点と好投してプロ初勝利。2025年は開幕からローテに入っていて5勝を挙げました。良いときと比べるとストレートの勢いが落ちているのが少し気になりますが、1年間戦う体力がつけばまだまだ伸びる可能性を秘めています。

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著者プロフィール

1976年、大分県速見郡生まれ。多くのスポーツサイトの企画・編集、ディレクターなどを経てフリーランスに。現在は少年野球、高校野球サイトのディレクターを務めながら書籍の企画・編集も行っている。主な書籍は『星野と落合のドラフト戦略』『ジャイアンツ元スカウト部長のドラフト回想録』『回想 ドラゴンズでの14年間のすべてを知る男』など。

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