【月1連載】ブンデス日本人選手の密着記

ボルシアMGで欧州での第一歩を記した高井幸大 トッテナムで思い知らされた“世界基準”と突きつけられた“実戦感覚の不足”

林遼平

1月11日のブンデスリーガ第16節、アウクスブルク戦の72分にピッチに投入された高井。トッテナムでの空白の半年を経ての欧州デビューとなった 【Photo by Jürgen Fromme - firo sportphoto/Getty Images】

 堂安律、伊藤洋輝、町田浩樹、町野修斗、佐野海舟ら、多くの日本人プレーヤーが在籍するドイツ・ブンデスリーガ。彼らの奮闘ぶりを、現地在住のライター・林遼平氏が伝える月1回の連載が、この「ブンデス日本人選手の密着記」だ。2025-26シーズンの第5回は、1月にトッテナムからボルシアMGにレンタル移籍した高井幸大が主役。プレミアリーグでの空白の半年を経て、ドイツの地でようやく欧州での第一歩を記した若きセンターバックは、さっそく訪れたブンデスデビュー戦で何を得たのか。

ブンデスデビュー戦で計21分間の実戦機会

 前日のブンデスリーガ2試合が悪天候のため中止に追い込まれるなど、ドイツ全土を厳しい冬の嵐が覆っていた。

 1月11日(現地時間、以下同)、ボルシア・メンヘングラッドバッハがウインターブレイク明け初戦を迎えたボルシア=パルクは、雪こそ降ってはいなかったが空気は鋭く尖り、氷点下のベンチに座る者の指先を容赦なく奪っていく。

 記者席でペンを走らせる手がかじかむほどの極寒。そんななかでボルシアMGは立ち上がりからアウクスブルクを相手にゴールラッシュを見せ、60分が過ぎる頃には4-0という決定的な点差を刻んでいた。震えるような寒さにもかかわらずスタジアムに足を運んだサポーターにとっては、心身ともに温まるような試合展開だったと言っていいだろう。

 勝負は決した。その”消化試合”に近い空気感の中で、70分過ぎに身長192センチの恵まれた体躯を誇る若人がピッチサイドに立つ。高井幸大。トッテナムでの空白の半年を経て、ようやく欧州での第一歩を記した瞬間だった。

 実戦から遠ざかっていた時間を考えれば、それは確かな一歩と言える。しかし、彼が直面したのは、手放しで喜べるような甘い現実ではなかった。

 後半アディショナルタイムの3分を加え、計21分間、高井は久しぶりの実戦に臨んだ。大きな得点差が生まれていたこともあり、クラブとしても新加入選手を起用しやすかったのは間違いない。そうした状況下でどれほどのパフォーマンスを見せられるか。ある種のテストのような雰囲気が漂っていた。

高井らしい鋭い縦パスもほとんどなく……

昨夏に川崎Fから完全移籍で強豪トッテナムに加わったが、加入直後に足底筋膜を負傷し、プレミアリーグではベンチ入りもままならなかった 【Photo by Vince Mignott/MB Media/Getty Images】

 厳しい目線で言えば、半年間も実戦から離れた代償は、想像以上に重くのしかかっているように映った。

 相手の縦パスが入ったタイミングでアタックするもボールに触ることができず、連続したプレーではボールホルダーについていけずに前を向かれた。それが1回だけならまだしも、複数回にわたって止め切れないシーンが続いた。高井らしい鋭い縦パスもほとんどなく、強度面を含めても実戦感覚の欠如が目につく内容だった。

 もちろん、ボルシアMGに加入して約1週間程度しかトレーニングをしておらず、まだチームに順応し切れていないことも影響しただろう。今後の日本代表の最終ラインを支える存在として期待値は高い21歳だが、まずは新天地で1つずつ結果を出さなければ、その上には行けない。そんな現実を突きつけられたようなデビュー戦だった。

 高井自身も試合に出場できた喜びを口にしながらも、パフォーマンスについては言葉を濁した。

「(移籍して)1試合目に出られて良かったなとは思います。(感触は)ちょっと時間が短かったので……それでもプレーできたことは自信になるかなと思います」

 Jリーグやパリ五輪代表、そして日本代表の舞台で見せていた堂々たるプレーはどこへ行ったのか。その答えは、昨夏に渡ったロンドンの地に隠されている。世界最高峰と称されるプレミアリーグの中でもビッグクラブの1つであるトッテナム。意気揚々と乗り込んだはずの新天地で、当時20歳の若武者はかつて経験したことのない沈黙の半年間を過ごすこととなった。

 加入直後から負傷が続き、リハビリに費やす時間が長引いたのも不運だった。アルゼンチン代表のクリスティアン・ロメロやオランダ代表のミッキー・ファン・デ・フェンといったトップクラスのセンターバックを擁するチームにおいて、なかなか存在感をアピールできなかった。守備陣に故障者が重なった時期もあり、トレーニングで評価を上げていればベンチに入るチャンスは少なからずあったはずだ。しかし、結局はベンチ入りわずか1試合に終わり、レンタル移籍を余儀なくされている。

 ブラジル代表FWリシャルリソンやフランス代表FWランダル・コロ・ムアニらワールドクラスのアタッカーが在籍するトッテナムの練習場で、高井は何を見たのか。

「(自身の)すべての能力基準が低かった」

 誤魔化すことも、環境のせいにすることもせず、偽らざる心情を吐露した高井。その言葉にはロンドンで味わった苦悩と、それを直視した者だけが持つ静かな迫力が宿っていた。

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著者プロフィール

1987年生まれ、埼玉県出身。2012年のロンドン五輪を現地で観戦したことで、よりスポーツの奥深さにハマることに。帰国後、サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の川崎フロンターレ、湘南ベルマーレ、東京ヴェルディ担当を歴任。現在はフリーランスとして各社スポーツ媒体などに寄稿している。2023年5月からドイツ生活を開始

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