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リバプール指揮官スロットの問題発言 年初から続く監督解任の嵐に巻き込まれるか?

森昌利

リバプールのスロット監督に対する批判の声が高まっている。成績が振るわないことはもちろんだが、理由はそれだけではない 【Photo by Carl Recine/Getty Images】

 1月1日(現地時間、以下同)のリーズ戦。ホームのリバプールは最後までゴールを奪えず、ホームで迎えた2026年の初戦はスコアレスドローに終わった。アルネ・スロット監督が看過できない発言をしたのは、試合後の記者会見においてでだ。指揮官の口から飛び出したのは愚痴や言い訳めいた言葉ばかり。昨季、イングランドきっての名門に5シーズンぶりにリーグタイトルをもたらしたオランダ人監督の評価は、下落する一方だ。

もしヴィルツのシュートが決まっていれば…

「No, because he stayed on his feet」(答えはノーだ。なぜなら彼は立ったままだったからだ)

 2026年元日、リバプールがアンフィールドにリーズを迎えたリーグ戦。問題となったシーンは前半14分だった。

 主役は今季のリバプールでひとり気を吐くユーゴ・エキティケ。後方からイブライマ・コナテが放ったロングボールに、昨年9月5日にフランス代表初キャップも勝ち取ったエキティケがペナルティエリア手前で飛びついた。

 それと同時にリーズのセンターバック、ヤカ・ビヨルがこの好調FWに絡みついた。両腕で23歳フランス代表FWに抱きつき、そのままボックス内になだれ込んだ。そして最後にはエキティケの股の間に滑り込んで右足を伸ばしたがボールには届かず、そのまま転倒。しかしエキティケはあからさまな妨害プレーにも倒れず、後方から走り込んできたフロリアン・ヴィルツに短いパスを送った。

 もしもヴィルツがこのボールを見事にリーズ・ゴールに叩き込んでいたら、当然のことながらエキティケにはアシストがつき、明らかな反則だったビヨルのラグビーまがいのタックルにも倒れず、雄々しくリバプールの先制点を演出したことが大絶賛されたに違いない。

 しかしヴィルツが右足を素早く振って放ったシュートは、左脇から滑り込んだリーズのウイングバック、ジェームズ・ジャスティンにブロックされてゴールにはならなかった。

 もちろん、試合後の会見ではこのプレーに焦点が当たった。「あれはPKだったと思うか?」と聞かれて、アルネ・スロット監督は開口一番、冒頭の発言をした。

PK狙いの故意の転倒は英国では御法度

前半14分、エキティケは悪質なタックルを受けながらも、倒れずにラストパス。ヴィルツがこれを決めていれば…… 【Photo by Liverpool FC/Liverpool FC via Getty Images】

 スロットの発言は3つの意味で問題だと思う。

 1つ目はダイブへの“嫌悪”とも言うべき、英国における一般フットボール・ファンの認識に対する問題だ。

 根本的に欧州のフットボールは北と南に分かれる。

 北では、体格のいい男たちがその体力と肉体の強靭さを武器に激しくボールを奪い合い、不死身さを競うような肉弾戦を展開して見る者を熱狂させる。

 一方南では、北との比較で小柄ながら俊敏な男たちがボールを扱う技術を磨き、足に吸い付くようなタッチで華麗なパス交換を展開する、魔法のようなフットボールを生み出した。

 もちろん近年は、特にプレミアリーグでは20世紀末あたりから世界中のトップクラスの才能が堰を切ったかのようにどんどん流入して、こうした欧州の北と南の伝統が混ざり合い、それぞれの長所をすさまじい勢いで吸収した。その結果、現在の選手はみんな強くて速くて上手い。

 しかし、それでも伝統的なフットボール観は今でも各国に息づいている。

 5世紀から始まったとされるアングロサクソンの大移動で、現在のドイツ周辺から大量のゲルマン系民族が流れ込んだ英国のフットボールは欧州の北に属する。強烈なタックルが自慢の、命知らずのフットボールが源流で、大怪我につながることもある故意の反則は忌み嫌われる。 

 真剣勝負に欺瞞は持ち込まないのだ。だから無論のこと、ダイブ、特にPK狙いのボックス内での故意の転倒は許されない。

 その一方で、かつてチェルシーやトットナムでプレーした元ウルグアイ代表MFのグスタボ・ポジェが、確か2014年ブラジルW杯の大会中だったと思うが、「審判を騙すことは南米フットボールの文化だ」と、テレビで発言したことをよく覚えている。

 つまり欧州の南であるラテン文化を共有する南米フットボールでは、審判を騙すこともゲームの一部であるという感覚なのだ。

 もともと荒々しいばかりの競技だったフットボールは、19世紀半ばにその発祥国である英国でFAが発足し、統一ルールが作られてスポーツとしての体裁が整った。すると、あっという間に世界中を魅了して広まり、その伝搬先の国の男たちの身体的特徴に、美意識や常識をものみ込んで、その国のファンの心に訴えるフットボールを編み出していった。そうしてそれぞれの国で国技として発展した経緯を考えれば、ゲームに対する根本的な思想に違いが生まれるのは当然である。

 筆者が暮らしていた当時は間違いなくそうだったが、日本ではブラジルをはじめとする南米のフットボールを好む傾向がある。それは日本人が小柄で、スポーツに技術を求める国民性だからだと思う。

 強い選手より、うまい選手が好きなのだ。

 しかしゲルマン系民族のデカくて強くてタフな男たちが主流の英国では、うまさより“格闘力”満点の全力プレーが民衆を熱くさせる。したがって、ごまかしは好まれない。

 それなのにスロットは“倒れなかったことが悪かった”とも受け取れる発言をした。

 ダイブが大嫌いな英国でこの発言は問題だ。

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著者プロフィール

1962年3月24日福岡県生まれ。1993年に英国人女性と結婚して英国に移住し、1998年からサッカーの取材を開始。2001年、日本代表FW西澤明訓がボルトンに移籍したことを契機にプレミアリーグの取材を始め、2025-26で25シーズン目。サッカーの母国イングランドの「フットボール」の興奮と情熱を在住歴トータル30年の現地感覚で伝える。大のビートルズ・ファンで、1960・70年代の英国ロックにも詳しい。

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