1年生GKが見せた活躍と可能性 山梨学院の「歴史」がつなぐもの

大島和人

1年生GK石井那樹が1回戦突破の立役者になった 【写真は共同】

 山梨学院が第88回全国高等学校サッカー選手権大会で「初出場初優勝」を飾ってから、もう16年が経つ。チームはそれから通算11回の出場を重ね、5年前の第99回大会では2度目の優勝も飾った。高校サッカーを代表する強豪としての地位を築き、前田大然や渡辺剛のような日本代表選手も輩出している。

 もっとも第99回大会以後に出場した3大会はすべて初戦負けで、29日に浦和駒場スタジアムで行われた第104回大会1回戦も厳しい戦いだった。まずFWオノボフランシス日華が出場停止で、FWメアスソムナンも負傷により不在だった。攻撃の迫力が乏しく、なかなかチャンスを作れなかった。

 対する京都橘にはヴィッセル神戸に内定したFW伊藤湊太がおり、彼は67分に自らペナルティキック(PK)も獲得している。しかしキーパー(GK)石井那樹が伊藤のシュートをストップし、0-0で迎えたPK戦も山梨学院が6-5で制した。

 殊勲の1年生GKを支えたのは、同校サッカー部の「強化1期生」でもある岡西宏祐GKコーチ。石井は「2期生」が全国制覇を飾った年に生まれた高校1年生だ。

相手の「駆け引き」にも動じず

 大場健史監督は試合をこう振り返る。

「伊藤(湊太)くんも途中から多分入ってくると分かっていたので、そこはスカウティングも含めて、選手には『こうやってくるよ』と話をしていました。交代した選手たちが自分の仕事をしっかりやってくれたのはありがたいことです。非常にタイトなゲームでしたが、キーパーの1年生も含めてよく戦ったと思います」

 石井は67分のPKストップについてこう振り返る。

「PKになったときは本当に『マジか』という感じでしたが、もう止めるしかないと思いました。大舞台はPKをひねってくる、(右利きなら)右に振ってくる人が多いんです。そこは初めから決めていたけど、助走に入ったとき確信しました」

 試合は80分で決着がつかなかった。選手権におけるPK戦の重要性は明らかで、京都橘はチームとして「駆け引き」を仕込んでいた。

 PKで大切なのは「間合い」だ。京都橘の各キッカーはキックまでの間を敢えて長く取り、蹴る素振りをなかなか見せずGKを焦らす作戦に出た。そのリズムを崩す工夫だろう。

 しかし石井は平然としていた。

「蹴る笛が鳴って、自分が『来い!』と叫んだ後も結構時間がありました。焦れずに相手の目を見て、助走を見て、決めた方向に思い切り跳ぶと決めていました。長かったですけど、そんなに長い感じはなかったです」

 PK戦の石井は1人目のキッカーから4人連続でシュート方向に反応し、京都橘に「圧」をかけていた。相手のミスがなく5本連続の成功を許したが、6人目でキックをブロック。これにより山梨学院は2回戦進出を決めた。

 大場監督は振り返る。

「一人一人の間合いで、石井を混乱させようとしてきたけど、そういうのが彼は得意かもしれないです。1年生にしては神経が図太いなと思います」

 本人も「会場の雰囲気とか、自分が注目されている感じがめっちゃ好き」と朗らかに語っていた。物怖じしない石井のキャラクターが、大舞台で活きた。

コーチが評価したもの

石井はPK戦でも相手の6人目をストップ 【写真は共同】

 1年生だろうと、守護神としてチームを背負う責任は大きい。試合前日の石井は、こんな経験をした。

「昨日も岡西さんと3年生の出られないキーパー2人が話しているのが見えちゃって……。『自分が出ることには責任がある』と実感しました。それに3年生の2人は本当に優しくて、出られなくても自分を本当によくサポートしてくれます。2人の存在は本当に大きいです」

 石井のコメントを聞いているとその探究心、思考能力の高さも伝わってきた。彼は今年フェスティバル、1年生の大会などで何度かPK戦を経験していたが、一度も勝てていなかったという。そこで大会直前にPKへ臨む構えを変えた。

 京都橘の選手たちが長い「間」を取っているとき、彼は脱力して両手をだらりと下げ、「静」の構えを取っていた。これはコーチのアドバイスでなく、自分で考えた修正だ。

「初めの方は硬く構えていて、コースを読んでも力が入りすぎて跳べないところがありました。選手権の1週間くらい前に『フラットな状態で構えて、蹴られる瞬間に力を入れる』ようにしたら、手応えがあったのでそうしました」

 石井は千葉県柏市にあるクラブチーム「カナリーニョFC」の出身。中学時代の実績は県大会止まりで、全国大会はこの1回戦が初めてだった。179センチ・77キロの体格も飛び抜けて恵まれているわけではない。部員122名、GKだけで9人という激しい競争環境の中で、起用する側も勇気は必要だったはずだ。

 岡西コーチは振り返る。

「彼は人間性、責任感も持っています。ベンチ、ベンチに入れなかったメンバーの中にもいいキーパーはいますし、1年生を使うリスクもあります。ただその中で、僕らがここで後悔をしないジャッジをさせてもらいました」

 彼がポジションをつかんだのは、プリンスリーグ関東の後半戦から。選手権予選も1回戦は3年生のGKが起用されていて、2回戦から石井が抜擢された。能力と入学後の成長もあったはずだが、コーチングスタッフが評価したのは「吸収力」だった。

「シュートストップ(の強み)もあると思うんですけど、吸収力が高いです。試合で起きたエラーをフィードバックしたとき、頭で分かっていても身体で表現できない選手は多くいます。あいつは足の運び方、手の出し方、ポジショニングを言って、映像を見せるとすぐプレーで表現できる。それは本当に強みで、教えればどんどん伸びていく選手のひとりです」

 GKは覚えることが多く、逆に言うと30歳を過ぎても成長できるポジション。吸収力はそのまま、彼の可能性になる。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、バレーボール、五輪種目と幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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