不調から一転、三浦佳生を五輪へ導いた3つの鍵 「自分を信じる」姿勢で全日本選手権で初メダル

沢田聡子

シーズン前半は苦しんだ三浦佳生だが、全日本選手権では本来の力を発揮した 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

どん底を味わったフランス杯

 ミラノ・コルティナ五輪代表最終選考会となる全日本選手権(12月19~21日)開幕を翌日に控えた18日、公式練習を終えた三浦佳生は穏やかな表情でミックスゾーンに現れた。すると明るい口調で、怪我からの回復について語り始める。

「まずは去年やった左足の怪我を治して、リミッターを解除した状態で、スケートカナダが終わってからずっと練習を続けてこられているのが大きいと思います。もう本当に、『これこそ自分の万全の状態』というところに持っていけていると感じます」
 
 昨季の三浦は以前肉離れしている左太ももの痛みに苦しみ、今季のグランプリ(GP)シリーズでも引き続きその影響に悩まされた。初戦のフランス杯ではショート3位と好発進するも、フリーでは2回転倒する苦しい演技となり、総合10位に沈んだ。

 どん底を見たフランスから帰国後、三浦は気持ちを切り替える取り組みを開始する。フリーを昨季の『シェルブールの雨傘』(シェイ=リーン・ボーン氏振付)に戻す決断もその一つだったが、メンタルトレーニングも始めた。スポーツドクター・辻秀一氏の指導の下、「不機嫌」ではなく「ご機嫌」に過ごすことを目指しているという。

 初めて代表候補として迎える五輪シーズン、不調に苦しんでいた今季前半の三浦は、常に自らに対して苛立っているようにも見えた。しかしメンタルトレーニング開始後に迎えた自身GP2戦目のスケートカナダでは、銅メダルを獲得。ミラノ五輪代表候補として存在感を示し、表情にも明るさが戻ってきた。

 そして大一番となる全日本選手権を翌日に控えた三浦は、前向きな口調でメンタルトレーニングの成果について語った。以前は、練習の時「不機嫌95%、ご機嫌5%みたいな状態」だったというが、今は「大分不機嫌が顔を出さなくなってきている」と効果を実感しているのだという。

「フランス(大会)の時は、自分の中で不安が試合前に突然出てきて、過去のこともフラッシュバックしてきて。しかもシーズンがうまくいっていなかった中での試合というところで、自分では思っていないように思うけど、実際は考えてしまっている部分があった。だからその後、メンタルトレーニングをやりました。自分の場合はそういった原因があったので、そこは経験して良かったなと思います。実際この全日本も、自分の中の勝ちたい気持ちや順位・点数の目標もない。だからこそ、気持ちよくのびのび滑れている感じがあります」

 肉離れの再発を防ぐため制限があったジャンプの練習も、怪我が完治したスケートカナダ以降は思い切りできたという。三浦は、全日本選手権に心身ともに整った状態で臨んでいた。

自分に集中して臨んだ全日本選手権

 GPシリーズで出遅れた三浦がミラノ五輪代表入りを果たすためには、この全日本選手権でメダルを獲得する必要があった。三浦自身も、開幕前日の取材対応で「結局全日本」と口にしている。

「誰かが飛び抜けて3枠目をリードしているとかでもないし、本当に全日本で結果を出す以外ないのかな、という感じではありますね」

 例年の全日本選手権以上に背負うものが大きいと感じていた三浦は、ショートの直前まで恐怖と戦っていた。しかし、「いやいや、俺は練習はやってきた、後は自分を信じるだけだ」と自分に言い聞かせる。

『Conquest of Spaces』(ブノワ・リショー氏振付)の演技開始2秒前、最初のポーズで膝をつく直前の三浦に「できる」という感覚が降りてきた。三浦ならではのスピードに乗って豪快に決めた4回転サルコウ-3回転トウループには3.46という大きな加点がつく。続いてトリプルアクセル、さらに怪我の影響でなかなか本来の跳躍ができなかった4回転トウループも成功させた。演技を終えて喝采を浴びながら、三浦は感極まった表情をみせる。

 スコアは95.65、2位発進という上々のスタートを切った三浦だが、浮足立つ様子はなかった。以前の三浦は試合中に他選手の演技内容を把握し、それに応じて構成を変えることもあったという。しかしスケートカナダ以降の試合では、点数が聞こえずモニターもない場所で演技前の時間を過ごした。

「順位としては2位ですけど、本当にいったん忘れないと駄目だと思うので、自分に集中する。それは、今日もできたので。周りの選手の演技を見ず、点数を聞かずに自分に入っていけたので、フリーも継続してそこを徹底してやりたい」

「周りが何点出そうが、どんな演技しようが、自分のやることって変わんないんですよね。自分のベストを尽くす演技をするためには、やっぱりこういう方法がベストなのかな」

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著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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