書籍『獅子回顧録』

補強の裏に縁あり V貢献の左腕トレード獲得秘話&“武器”持つ即戦力投手を下位指名できた理由

渡辺久信

【写真は共同】

「ライオンズは強くなければいけない」
チームづくりに奔走
栄光と苦悩と激動の20年

選手、監督、フロントとしてライオンズに長く関わってきた渡辺久信氏がチームづくりを振り返る。
2004年に二軍の投手コーチとしてライオンズに復帰してから、GMを務めた2024年までを中心に振り返った書籍『獅子回顧録』(渡辺久信著)から一部抜粋して公開します。

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榎田大樹、ヒース、小川龍也の補強が大成功

 シーズン前、打線はある程度やってくれる手応えはあったので、投手陣をどうにか整備する必要があった。とはいえ、若手が急に伸びてくるものではない。他球団で埋もれているピッチャーをいかに見つけられるかがポイントだった。

 2月の春季キャンプ中、高知県の安芸市で阪神と二軍同士の練習試合があった。たまたま、私は二軍の視察に来ていて、そこで目に留まったのがプロ入り8年目の左腕・榎田大樹だった。先発でマウンドに上がり、二軍にいるピッチャーとは思えぬ強いストレートを放っていて、コントロールも安定している。右打者、左打者を問わず、インサイドにしっかりと投げ込めるコントロールが特に魅力で、「絶対に戦力になる」と確信した。左の先発が雄星しかいない状況だったため、先発の一角としていける。すぐに、編成本部長を務めていた木戸克彦さんに相談を持ち掛けた。

「一軍で使わないんだったら、榎田くださいよ。二軍でこんな球投げているんですよ」

 そこでトレードの案が進み、「西武は誰を出せるか?」という話になった。その場で決まることはなかったが、阪神は岡本洋介をリクエストし、トレードが成立した。岡本は前年から阪神が興味を示していたように記憶している。

 移籍1年目、榎田は打線の援護もあり、11勝4敗と先発の役割を十分に果たしてくれた。移籍交渉を始めてから知ったことだが、榎田は奥さんが東京都内の出身で、しかも私の家の近くに実家があった。球場まで行きやすい場所である。トレードを成立させるには、こうした“縁”も大事になってくる。

 榎田は2021年オフに現役を引退し、翌年から球団本部ファーム・育成グループのバイオメカニクス(一軍グループ兼務)兼企画室アライアンス戦略に就いた。現役時代から、データや数値に興味を持っていたようだ。2024年からは二軍の投手コーチを務めている。真面目な性格なので、球団のために必ず力になってくれるはずだ。安芸で出会えたこと、そしてトレードに応じてくれた阪神にも感謝している。

 5月には、BCリーグの富山で投げていたデュアン・ヒースを補強した。中継ぎ陣の層が薄く、ピッチャーはひとりでも多いほうがいい。すでに首位を走っていたこともあり、足りないピースを埋めることで優勝が近付いてくる。チームが好調であれば、こうした補強にも動きやすい。もっと言えば、球団としても「お金を出しやすい」ということだ。

 探していたのは、「すぐに戦力になる中継ぎの外国人投手」。海外から新しい外国人を獲るよりも、過去にNPB を経験し、なおかつ日本でプレーしているピッチャーが適任となる。国内の独立リーグを回っている中で、かつて広島で投げていたヒースの情報が入ってきた。私が松本まで見に行き、ほぼその場で「戦力になる。すぐに契約しよう」と決めた。ストレートに加えて、ナックルカーブのような変化球が独特で、1年目から42試合に登板し、4勝1敗13セーブ9ホールドと期待以上の結果を残してくれた。

 補強はこれだけでは終わらない。

 7月には、中日の変則左腕・小川龍也を金銭トレードで獲得した。対左打者用のリリーフ要員である。じつは球場でチェックしたわけではない。球団から支給されるiPadには、12球団すべての試合映像が見られるようになっている。左投手の映像だけを見続けていく中で、「このピッチャー、面白い」と一目で感じたのが小川だったのだ。プロでも珍しい左のサイドスローで、二軍の成績を見ると防御率がいい。他球団の選手をチェックする編成担当に、過去の実績や経歴を確認したあと、中日のモリシゲさん(監督)に電話を入れた。

「一軍で使わないのなら、小川くださいよ」

 モリシゲさんが球団の上の人に話をしてくれて、「ナベ、金銭でいいよ」と話がまとまった。困ったときのモリシゲさんで、現役時代からお世話になりっぱなしである。

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