書籍『獅子回顧録』

実は盗塁王をぶっちぎる走力の持ち主 細身右腕が見せた真夏の171球は逆転日本一の布石に 

渡辺久信

【写真は共同】

「ライオンズは強くなければいけない」
チームづくりに奔走
栄光と苦悩と激動の20年

選手、監督、フロントとしてライオンズに長く関わってきた渡辺久信氏がチームづくりを振り返る。
2004年に二軍の投手コーチとしてライオンズに復帰してから、GMを務めた2024年までを中心に振り返った書籍『獅子回顧録』(渡辺久信著)から一部抜粋して公開します。

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日本シリーズMVPに輝いた岸孝之 オグリキャップが復活V以来となる

「優勝を狙える」と感じ始めたのは、8月の終わり頃からだ。「いける」とは思っていないが、「最後の1ケ月、面白い勝負になるだろう」と思うようになっていた。とにかく、チームに勢いがあった。若い選手が試合をしながら自信を掴み、シーズンを通して成長していく姿が手に取るようにわかった。

 投手陣で先発の柱として活躍してくれたのが、大卒2年目の岸だった。1年目に11勝7敗と数字を残すと、2年目のこの年は12勝4敗。スピンの効いたストレートと、岸独特のタテ割れのカーブが威力を発揮した。よく覚えているのが、8月下旬のソフトバンク戦だ。先発した岸は初回から球数を要するも、要所を締めながら0対0で終盤へ。9回裏には二死満塁のピンチを迎えたが、小久保裕紀を抑えて、このイニングでマウンドを降りた。結局、プロ入り最多の171球を投じたのだが、終盤には岸にこんな話をしていた。

「どうだ? 行けるか?」

「大丈夫です」

「じゃあ、行けるところまで行こうか。クライマックスや日本シリーズの短期決戦になったら、多少ヒジが張っていても投げなくちゃいけないことが出てくる。今日はその予行演習にしよう」

 ケガをしたら元も子もないので、イニングが終わるたびに「大丈夫か?」と確認していた。岸はどう思っているかわからないが、結果的にこのときの経験が巨人との日本シリーズに生きたように思う。

 第七戦までもつれ込んだ巨人とのLG決戦。大車輪の活躍を見せたのが岸だった。1勝2敗で迎えた第四戦で先発を任せると被安打4、毎回奪三振の完封勝利。中2日となった第六戦では、4回途中からマウンドに送り、9回まで巨人打線を無失点に封じ込めた。さすがに第七戦は出番がなかったが、2戦2勝でシリーズMVPに輝いた。2025年のワールドシリーズの山本由伸ではないが、短期決戦となれば、状態のいいピッチャーをどんどん継ぎこむ。そのために、ペナントレースでは無理をさせないように、球数やイニングを考えながら起用している。

 ちなみに、岸は華奢な体をしているが、体幹と股関節周りの強さは、プロの世界でも群を抜いている。バネの効いた走りをしていて、一歩一歩の切り返しが力強い。私の現役時代で言えば、郭泰源がこのタイプだ。2008年当時、野手を入れても、直線でもっとも速いのが岸だった。それこそ、片岡をぶっち切るようなスピードを持っていた。それだけの強さを持っていたからこそ、多くの球数を投げることができ、今も現役で頑張れているのだと思う。

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