胸に刺さった「伸びしろがある」という言葉 小笠原慎之介は菊池雄星から何を学んだのか?

丹羽政善

YouTubeでのコラボが実現。対談前にリラックスした表情の両選手 【筆者撮影】

花巻市のトレーニング施設「K.O.H」へ

 東京へ向かう帰りの新幹線。小笠原慎之介(ナショナルズ)は、つぶやくように口にした。

「ああいう人に、“伸びしろがある”とか言われると、頑張りたくなりますね」

 12日のトレーニング終了後、菊池雄星(エンゼルス)からそう掛けられた言葉が、胸に刺さった。

菊池雄星がオープンしたK.O.Hは抜群のトレーニング環境を誇る 【筆者撮影】

 12月10日から12日まで、小笠原は岩手県花巻市にあるK.O.Hで、菊池と一緒に自主トレを行った。K.O.Hは、菊池が昨年11月にオープンしたトレーニング施設で、トラックマン、モーションキャプチャ、フォースプレートなど、メジャーでも使われている各種測定機器を完備。それらのデータを、パフォーマンスに活かす知識を持った動作解析の専門家、トレーニングコーチらが常駐し、様々な指導が行われている。リカバリー施設も兼ね備え、プロからジュニアまで、ワンストップで一連のトレーニングを完結させられる場となっている。

 そこで3日間、1日平均5時間、ほぼ休むことなくトレーニングに励んだ小笠原は帰るとき、ちょっとした荷物を持ち上げるだけでも声をあげ、「右肘を伸ばすとき、強い張りを感じる」と苦笑い。

「でも、これがいいんですよね。来年はせめて2週間ぐらいは、お邪魔しようかな」と続けた。

 トレーニングでは、菊池についていくのが精一杯。文字通り、歯を食いしばった。

「いや、ついていけてないっす。すごいトレーニングをされている、ということは伺っていましたが、本当にハードでした」

 先にメニューを終えた菊池が、「大丈夫かな?」という表情で見守るのが常だったが、その都度、ちょっとしたコツを伝え、小笠原にとって初めてのメニューのときは、やり方を実践した。

トレーニングをする小笠原慎之介を見守る菊池雄星 【筆者撮影】

「教えるのが上手いというか、多分、教えること自体が、好きなんでしょうね」

 その菊池はこれまで、小笠原にとって目指すべき道を、岐路に立つたびに示してくれる――そんな存在でもあった。

「菊池さんが甲子園で投げているときのことも覚えていますし、プロに入ってからも、ずっと憧れていて」

 菊池に、「メジャーをかなえた 雄星ノート」という著書がある。

「もちろん、読みました」と小笠原。「それから、その日感じたことなどを、日記に書くようになりました」

 菊池が体に微弱の電波を流し、疲労回復を図っていることを知ると、その機器も取り寄せた。今回も持参し、寝る前に利用して翌日の練習に備えた。

 一度だけ投げ合ったことがある。2017年6月16日のことだ。

「少し前から、お互いが予定通りなら、同じ日に先発するとわかった」と、小笠原は当時を振り返る。ただ、森繁和監督、デニー・友利投手コーチからは何も言われない。

「デニーさんに『投げさせてください』と伝えたら、最初は『投げさせない』と言われたんですよ」

 相手が菊池という時点で、中日としては負けを覚悟。他の試合であれば勝ちを計算できる小笠原をそこで起用するのは、もったいない――というロジックが働いた。

 しかし、友利投手コーチが森監督に掛け合ってくれた。

「そしたらOKが出て。森監督、そういうのが好きなんですよ」

2017年6月16日、憧れの菊池雄星と投げ合った小笠原慎之介 【写真は共同】

 10安打、5失点ながら、プロ入り最長となる八回まで投げさせてもらった。森監督は試合後、「すがすがしい試合だった」と話した。

 そんな森監督のことも、小笠原は尊敬している。

「森さんとキャッチボールしたことがあるんですよ。おそらく、僕が最後の世代だと思うんですけど、そのとき、『スライダーはこう投げるんだ』って教えてくれて。そのグリップは、今も変えていません」

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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