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サラーの直訴に立ち会った衝撃――田中碧の劇的弾以上の激震が走ったエジプト王の「爆弾発言」

森昌利

無邪気な子どものように純粋無垢なゴールマシン

ゴールこそが最大の喜び、そして楽しみであるというように、サラーは貪欲にそれを求め、これまでにクラブ歴代3位となる250もの得点を重ねてきた 【Photo by Michael Steele/Getty Images】

 これまで筆者が眺めてきたサラーは、ときにはリオネル・メッシにも匹敵すると思わせるほど、超人的なスキルを見せて信じられないゴールを決めるスーパーストライカーであると同時に、ピッチを降りて素顔に戻ると、まるで無邪気な子どものような印象になる。

 もちろんこれは個人の感想だが、サラーはまず非常に飄々(ひょうひょう)としている。本物の天然に見えるのだ。

 たとえば、たまにミックスゾーンを通り抜けるときがあるが、そこでうごめく無数の記者団が全く視界に入らないというような感じで、その前を歩き去る。それも、おもちゃ屋か駄菓子屋にでも向かう子どものようにウキウキとした感じで通り過ぎる。かと思えば、遠くにいる我々に無邪気に手を振ったりもする。

 天才というのはこういうものなのかとも思わせるが、サラーは自分だけのおとぎの世界に生きているように見えるのだ。

 とにかく純粋無垢に見える。そしてピッチ上ではその純粋さが昇華され、ただただゴールを奪う楽しさと興奮に取り憑かれ、子どもがゲームに夢中になるように、何度ゴールを決めてもすぐにまた新たにゴールを奪いたくなる。

 そんな精神性がゴールマシン・サラーの根本にあると思う。

 ディオゴ・ジョッタの悲劇に最も心を痛めていたのもサラーだった。アンフィールドでの今季開幕戦で4-2の勝利を収めた後、最後の1人になるまでゴール裏のコップ・スタンドの前に佇んで、サポーターが声を枯らして歌い続けたジョッタのチャントに涙を流しながら、いつまでも手拍子を打ち続けていた姿が忘れられない。

 サラーはその純粋さゆえに、たった1試合、90分間ベンチに置かれただけで不満が爆発してしまったのだろう。

謝罪をしないままアフリカ選手権に行ってしまえば…

リバプール・サポーターにとってサラーは紛れもなくヒーローだ。だが今回の爆弾発言によって、悲しい訣別が訪れる可能性も否定できない 【Photo by Richard Sellers/Sportsphoto/Allstar via Getty Images】

 通常、監督の権威に抗うような発言をメディアにした選手はクラブを去るしかなくなる。

 近年でいえば、マンチェスター・Uを去ったクリスティアーノ・ロナウドがそうだ。2022年11月、友人であるテレビ司会者ピアーズ・モーガンの番組に出演してクラブ批判を展開。その後すぐにサウジアラビアへ旅立った。

 このときのロナウドもチームの不振の元凶のように言われ、スーパースターとしてのプライドを著しく傷つけられていた。しかし公然とクラブを批判するのは、どんなに偉大な選手であってもタブーである。監督室に怒鳴り込み、極端な話、そこで殴り合ってもいいだろう。しかし公に文句を言ってはダメなのだ。

 それに今回サラーは、「自分ほどこのクラブに貢献した選手はいない」と話している。これは他人が評価することであって、自分で言うべきことではない。

 公式戦420試合に出場して250ゴール。まさに近代リバプールの最高の選手である。誰もがモー・サラーの輝かしい実績を称賛する。しかしながら、敬意は自然に抱かれるものであって、強いるものではない。

 スロット監督の判断を弁護するわけではないが、そもそもリーズ戦でサラーを起用しなかったのは結局のところ無難だったと思う。まず2点をリードし、追いつかれてもすぐに1点を勝ち越した試合であり、こうしたゲームの選手交代は守備固めに主眼を置くのが当然で、投入するのはFWではない。

 もちろん一時の感情の昂(たかぶ)りということで、サラーが公に、そして真摯に謝罪をすれば一件落着し、許されるという結末もある。しかし謝罪をせず、不満をぶちまけたままにして来週からアフリカネーションズカップ(12月21日開幕)に行ってしまうと、この国際大会を戦った後にエジプト王がイングランド北西部の港街に帰ってくる保証はなくなる。

 もしもこのままサラーがクラブを去れば、それはまさにリバプールの一時代の終焉であり、今季の不振をさらに混沌とさせ、醜悪にもするだろう。本来サラーのような選手が去るときは、その実績に相応しい送別があるべきだ。

「もしも、もう少しアイツがゴールを決めたら、俺だってイスラム教徒になるさ!」

 キリスト教徒のイングリッシュにとってはまさに天敵と言える宗教への改宗を歌い、とことんサラーを慕ったリバプール・サポーターには、前監督ユルゲン・クロップのときのような感動的な別れを、この偉大なエジプト人とも実現することが不可欠である。

 できれば本稿が公開される頃には、今回の難儀な問題が解決されていてほしいと切に祈っているが、果たしてどうなることやら。

(企画・編集/YOJI-GEN)

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著者プロフィール

1962年3月24日福岡県生まれ。1993年に英国人女性と結婚して英国に移住し、1998年からサッカーの取材を開始。2001年、日本代表FW西澤明訓がボルトンに移籍したことを契機にプレミアリーグの取材を始め、2025-26で25シーズン目。サッカーの母国イングランドの「フットボール」の興奮と情熱を在住歴トータル30年の現地感覚で伝える。大のビートルズ・ファンで、1960・70年代の英国ロックにも詳しい。

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