サラーの直訴に立ち会った衝撃――田中碧の劇的弾以上の激震が走ったエジプト王の「爆弾発言」
田中はその技術と決定的が“プレミア級”であることを証明
偶然ながらこの日は、香川真司がマンチェスター・ユナイテッド所属時に一際輝いた日だった。ノリッジを相手に、J2時代のセレッソ大阪で記録して以来というハットトリックを決めて、「まさかここ(プレミアリーグ)でハットトリックが取れるとは思っていなかった」と、当時24歳になる15日前だった日本代表MFが語り出した談話が録音されている。まさに歴史の一幕である5分15秒だ。
そしてあの日のオールドトラフォードから11年と9カ月を経て、新たに衝撃的な7分32秒の録音が加わった。
試合も衝撃的だった。12月6日、リーズがホームのエランド・ロードにリバプールを迎えたリーグ戦。後半アディショナルタイムの6分目に、田中碧が両軍合わせて6点目となるゴールを奪い、スリリングな3-3のドローが完結した。
後半開始早々の3分、今季のリバプールで最も輝くユーゴ・エキティケが、相手の信じられないようなパスミスを突いて先制点を奪った。右サイドに開いたリーズ3バックの1人、ジョー・ロドンがピッチ中央に向けて何気なく放った横パスに、今夏フランクフルトから移籍してきた23歳フランス人FWが猛然と飛びついた。ロドンの雑なパスが絶好のラストパスとなり、エキティケはゴール前でGKと1対1になると、右足を振り抜き難なく先制。さらにこの2分後、今度は味方のコナー・ブラッドリーが右サイドから放ったクロスを、ゴール前に走り込んだ190センチFWが押し込み、あっという間に2点を奪った。
昨季の強いリバプールが帰ってきたようだった。この時点でリーズは“もう今日はダメだ”という濃厚な敗色で染まった。ところが……。
今季、リバプールの最終ラインで、勝敗を直接左右するような致命的なミスを何度も犯しているフランス代表DFイブライマ・コナテが、ペナルティエリア内でウィルフリード・ニョントを倒してPKを与えてしまった。
確かに折り返しのクロスを放とうとはしていたが、ニョントはエンドラインぎりぎりの位置に突っ込んだところで、ゴールが直接脅かされた場面ではなかった。それなのになぜか、コナテは一か八かのスライディングタックルをかまして、2点を先行されて完全に意気消沈していた相手に逆襲のチャンスを与えてしまったのだ。
VARの末、昨季までエバートンに所属していたドミニク・カルバート=ルーウィンにPKを決められると、このところ失点が止まらないリバプールに「またか?」という嫌な焦燥感が漂った。赤いユニホームを着た選手たちが縮んで見えた。そしてその嫌な予感が的中し、この後半28分のPKからわずか2分後、アントン・シュタッハに同点ゴールを奪われた。
ドミニク・ソボスライが後半35分に3点目を決めてリバプールが勝ち越したが、冒頭で伝えたように、田中が終了直前に昨季王者の心を砕く劇的弾を沈めた。
左サイドからのコーナーキックの先に田中がいた。ファーサイドの至近距離から目の前でワンバウンドした浮き玉に左足をかぶせ、上から叩きつけて見事に決めた。この緊迫した場面で勝ち点1に結びつくゴール。27歳日本代表MFの技術と決定力が、プレミアリーグ級であることが証明されたゴールだった。
田中は決勝点にも等しい値千金の同点弾を決めると、たった今揺らしたばかりのゴールネットの裏を走り抜け、まるで蜂の巣をつついたような大騒ぎになっているリーズ・サポーターで満杯のスタンド前に仁王立ちして、「エイ・オー(AO)」と勝鬨(かちどき)のような“碧コール”を一身に浴びた。
残念ながらサラーは一線を越えてしまった
ところが、そんなリバプールの失望など無関係とでもいうような“晴々とした”といってもいい顔をして、記者団に「ちょっと待っていてくれないか。着替えたら出てくるから」と声をかけた選手がいた。
それがモー・サラーだった。
負けにも等しい試合の後に彼は何を話すというのだ。記者団は色めき立った。
この試合、サラーは先発メンバーから外れて、しかも出番なしだった。スタメン落ちはこれで3戦連続だが、後半からプレーした3日前のサンダーランド戦とは異なり、劇的な試合をベンチから眺め続けたのだ。
さらに付け加えると、少なくとも筆者の記憶では、エジプト王がリーグ戦の試合後にミックスゾーンで取材を受けたことはない。
けれども彼は本当に現れた。このときのサラーとのやりとりが、筆者のiPhone取材歴のなかでも歴史的かつ衝撃的な7分32秒の録音となった。
サラーの発言についてはすでに日本でも大々的に報じられているので、ここで詳しく記述することはしない。「クラブに見捨てられた」「誰かが自分にこのクラブから出て行ってもらいたがっている」「突如として監督との人間関係がなくなった」など、世界中で見出しになったショッキングな発言を直に聞いたが、要は「体調が万全なのに90分間ベンチに置かれたことが容認できない」と、手を変え品を変え訴え続けた。
「自分はクラブより大きな存在だと思っていない――」とも言ったが、メディアにこういう不満を打ち明けるというのは、その言葉に逆らうことである。
本当に残念なことであるが、今回の件でサラーは一線を越えてしまった。