【月1連載】ブンデス日本人選手の密着記

最下位マインツで孤軍奮闘する佐野海舟 W杯抽選会当日に語ったチームへの苦言と決意

林遼平

ヘンリクセン監督解任後の初戦となったボルシアMG戦もホームで0-1の敗戦。佐野自身は『キッカー』紙がMOMに選出する好パフォーマンスを見せたが 【Photo by Alex Grimm/Getty Images】

 堂安律、伊藤洋輝、町田浩樹、町野修斗、佐野海舟など、多くの日本人プレーヤーが在籍するドイツ・ブンデスリーガ。彼らの奮闘ぶりを、現地在住のライター・林遼平氏が伝える月1回の連載が、この「ブンデス日本人選手の密着記」だ。2025-26シーズンの第4回は、マインツの佐野海舟が主役だ。今季のブンデスリーガで最下位に低迷するチームで、まさに孤軍奮闘を続ける日本代表のボランチは、北中米W杯が半年後に迫った今、何を思うのか。

敗戦後に見せたプロとしての強い責任感

 あの日、世界中のサッカーファンは、2026年夏に開催される北中米ワールドカップの組み合わせ抽選会に熱狂していた。ただ、SNSなどを通して伝わる、その期待と興奮に満ちた喧騒は、はるか遠いマインツのホームスタジアムには届いていなかった。

 マインツのホームスタジアムに向かうかたわら、スマートフォンで抽選会の模様を追っているのは自分だけ。ブンデスリーガで最下位に沈むクラブのサポーターたちは、W杯どころではない。ボー・ヘンリクセン監督解任後の再スタート。彼らの集中は、ただ我が街のクラブの試合にだけ注がれていた。

 ナイトゲームとあって吐く息が真っ白になる極寒のスタジアム。再出発を期したマインツは12月5日、その初戦となった第13節のボルシア・メンヘグラッドバッハ戦を落とし、静かで、しかし重い現実を突きつけられた。

 敗戦後のピッチで、人々の目に焼き付いた光景がある。

 この日も獅子奮迅のパフォーマンスで、誰よりもチームのために戦った佐野海舟が、試合終了のホイッスルが鳴った直後、ユニホームで顔を覆い、頭を抱えていた。しかし彼は、うなだれながらも多くのサポーターが集ったゴール裏の前に進み出る。そして、チームメイトが対戦相手と握手や雑談を交わすなか、ただ1人、スタンドに向かって頭を下げていた。

 その孤独な姿にいち早く近づいたのは、今季マインツに加わり、この試合では終了間際からピッチに立った川﨑颯太だった。佐野に歩み寄りながら、自身もサポーターに感謝と謝罪の一礼をする。華やかに映る欧州サッカーの舞台で見せた彼らの行動は、日本の若きプロフェッショナルとしての強い責任感を象徴していた。

チームは明らかに同じ方向を向いていない

ボルシアMG戦に敗れ、ユニホームで顔を覆う佐野。躍進を遂げた昨季から一転、攻守のバランスを欠くマインツが最下位に低迷している 【Photo by Alex Grimm/Getty Images】

 試合後、勝てなかったやるせなさ、不甲斐なさに複雑な表情を浮かべながら、佐野は珍しくチームに対して苦言を呈した。

「なんだろうな……なんだろう……。監督は代わりましたけど(この日はセカンドチームのベンヤミン・ホフマン監督が暫定的に指揮を執った)、監督の責任ではないと思うし、1人ひとりの勝ちたいという姿勢が見えない。監督が誰であっても、そういう気持ちを最低限見せないと、何も変わらないかなと思います」

 昨季のマインツはヘンリクセン監督の下、躍進の1年を過ごしていた。手堅い守備とボールを奪ってからの素早い攻撃で相手を翻弄し、最終的には6位でフィニッシュしたものの、シーズン終盤までチャンピオンズリーグの出場権争いに絡むハイパフォーマンスを披露した。

 佐野は試合をこなすごとに信頼をつかみ、チームの中心的な存在へと成長。ドイツ代表MFナディーム・アミリと組んだダブルボランチは、ブンデスリーガを代表するコンビとして高い評価を勝ち取った。

 しかし、歓喜の夜を何度も味わった昨季とは打って変わって、今季のマインツはシーズン序盤からなかなか勝ち星を得られない時期が続いている。13試合を終えて1勝3分け9敗の最下位。もうじきブンデスリーガはウインターブレイクに入るが、このままいけば厳しい冬を過ごすことになるのは間違いない。

 マインツの低迷に関してはさまざまな要因が考えられる。

 昨季の主力であり、FW陣の大黒柱だったヨナタン・ブルカートがフランクフルトに移籍したなかで、前線でボールを収めてくれるような同タイプの選手を獲得できなかったこともその一因だ。そういった選手がいなくなったことで、後方からより積極的にボールを動かすスタイルにシフトチェンジを図ったが、それもうまくはいかなかった。

 第7節のレバークーゼン戦に敗れた時点で、佐野はこう指摘していた。

「自分たちのいいときは、やっぱり全員が勢いを持って前向きなプレーをしていたと思う。でも今は、ちょっとバラバラになっているのかなと。守備も攻撃も、そこの意思統一が一番必要なのかなと思います」

 チームが同じ方向を向いていないのは明らかだった。

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著者プロフィール

1987年生まれ、埼玉県出身。2012年のロンドン五輪を現地で観戦したことで、よりスポーツの奥深さにハマることに。帰国後、サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の川崎フロンターレ、湘南ベルマーレ、東京ヴェルディ担当を歴任。現在はフリーランスとして各社スポーツ媒体などに寄稿している。2023年5月からドイツ生活を開始

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