トリプルアクセルだけではない ファイナル銀・中井亜美を輝かせるスケートIQ

沢田聡子

恩師が「鳥肌が立った」と称えたリカバリー

中井は浅田真央さんが見守る中、トリプルアクセルを決めた 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

 フリーの6分間練習の際、中井は会場のアナウンスで、浅田さんが観戦していることを知る。演技前、中庭コーチに「真央ちゃんが見てるから、頑張ります」と伝えた中井は、スタート位置についた。『What a Wonderful World』(宮本賢二氏振付)の優しい旋律が流れ出し、中井は憧れの人の前でトリプルアクセルを見事に成功させた。

 しかし、3つ目のジャンプに予定していたコンビネーションで、予想外のミスが出る。練習ではほとんど失敗しないという3回転ルッツ―3回転トウループでファーストジャンプの着氷が乱れ、単発に終わったのだ。

「どこに、トリプルトウつけようかな」

 演技を続けながら考えていた中井は、心を決める。

「先にルッツ―アクセル―アクセルをやってから、フリップを絶対に降りて、その後にコンビネーションをつけよう」

 3回転ルッツ―ダブルアクセル―ダブルアクセルを決めると、本来の構成では単発の3回転フリップに、3回転トウループをつけて着氷。セカンドジャンプに4分の1回転不足がついたものの、初めてのGPファイナルで冷静にリカバリーした度胸は、並大抵のものではない。

 中庭コーチは、「ルッツのミスはほとんど見たことないので、ちょっと心配ではあった」と振り返る。

「そこからちゃんと自身を奮い立たせて、最後の方に跳んだフリップ―トウ。逆に言うと、フリップ―トウなんかほとんど練習しないので、あそこで思い切りいったということに、少し鳥肌が立ったというか、強さを感じました」

 教え子に驚嘆する一方で、中庭コーチは「常に自分が言ってきたことが、選手に伝わっていたのかな」とも感じていた。

「予想しないことが、試合では起こるので。いかに諦めずに、次の一手一手で最善を尽くすか。『ノーミスでこなすことの方が珍しい』という言い方はちょっと語弊がありますけれども、何かあってもちゃんとそれを次に引きずらずに、切り替えていく。日々の練習も、そうです。やっぱり失敗が多い競技なので、その失敗をうまく使って成功に導くことを教えてきたことが、こういう結果につながったと思います」

 中庭コーチは「(中井は)やっぱり、練習をちゃんとしているので」と言う。

「諦めずに最後までやるとか、『こういうミスが起こった時はこうしなさい』ということを、ちゃんとできる技術を持っている。スケートIQというんですか、それを実現できるかは本人の技量にもよるので、それができる技量があるということが、彼女のいいところだと思います」

 トリプルアクセルは確かに中井の大きな武器だが、真の強みは、ミスした時の対応力なのかもしれない。

ミラノ五輪には『運がよければ行けたらいいな』

 また中井は、中庭コーチとプログラムのすべてを磨いてきたと明かしている。

「正直去年の自分だったら、ここまで点数を出していただける状況ではなかった。そこから一生懸命練習して、先生とプログラムの間を詰めていったり、ジャンプの安定感も総合的に全部底上げしてきた感じだった。それが今結果となって出ているので、『シーズン初めからしっかり頑張ってきてよかったな』とすごく思っています」

 中井はフリー146.98、合計点220.89で、日本人選手最上位となる2位に入った。メダリスト会見で、中井は「人生で一番緊張した」と吐露した。

「正直こっちに来てからは、トリプルアクセルの確率もあまりよくなかったんですけど、最後は自分を信じるだけだったので。とにかく『自分ならできる』という気持ちを常に持ち続けて試合に挑めていたので、そこが良かったのかなと思います」

 GPファイナルで日本人選手最上位に入ったことで、中井はミラノ五輪出場に近づいた。2週間後には、ミラノ五輪代表最終選考会となる全日本選手権が行われる。

 一夜明けの囲み取材で、中井は全日本選手権への思いを語った。

「相当プレッシャーがかかると思いますし、オリンピックがかかっているというのも本当に目の前にある状況なので、すごく緊張すると思うんですけど……今回、緊張する場面でもしっかり演技できたので、そこは自信を持っていいと思いますし、全日本で一番いい演技をしたいなと思います」

 全日本選手権では五輪代表の座をつかみにいくのかと問われると、中井は「いや、つかみたい気持ちはもちろんあるんですけど」と答え、言葉を継いだ。

「つかみにいきすぎるとそっちに集中してしまって、やっぱり演技に集中できないと思うので。まずは自分のベストを尽くすことだけに集中して、その後に『運がよければ行けたらいいな』と考えています」

 もしシニア1年目の中井がミラノ五輪への切符を手にするとしたら、それは幸運ではなく、ジュニア時代から積んできた鍛錬がもたらしたものだろう。

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著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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