スカウトが振り返る、あの年のドラフト指名

「事前公表」が奏功した髙橋光成と今井達也、大きかった源田壮亮の3位指名 元西武GMが明かすドラフト秘話

永松欣也

「事前公表」が奏功した、今井達也の単独指名

今井達也は指名公表もあっての獲得だった。もし未公表だったら中日との抽選も? 【写真は共同】

 2016年は4位に終わり、35年ぶりの3年連続Bクラスとなった年でした。打線はチーム打率が2位の.264、本塁打数が128本で1位と強力。さらに3年目の山川穂高(現ソフトバンク)も14本塁打を放って本格化する兆しがあった。投手陣は雄星が初めて二桁勝ったものの、全体的に期待したピッチャーたちの成長曲線が緩く、なかなか投手力が上がらない。おまけにオフにエースの岸がFA移籍が濃厚。そんな中で迎えたドラフトでした。

 1位は作新学院の今井達也でした。岸が抜けるのであれば、普通であれば即戦力ピッチャーを指名するところですが、これは単純にこの年のピッチャーの中で今井の力を一番評価したから。即戦力では創価大の田中正義(ソフトバンク1位/現日本ハム)、佐々木千隼(ロッテ1位/現DeNA)が人気でしたけど、西武のスカウトの中では力は達也の方が断然上という評価でした。

 FAで出る選手は、何となく事前に分かるものなので、前年の多和田やその前の光成の指名が、岸の移籍に備えての指名だったという側面もありました。

 当初は横浜高の藤平尚真(楽天1位)、履正社の寺島成輝(ヤクルト1位)、花咲徳栄の高橋昂也(広島2位)が『高校生三羽烏』みたいに言われていました。そこに高3夏に達也が急激に成長して150キロを超えるボールを投げるようになって、『高校四天王』と呼ばれるようになりました。でも投げているボールは頭二つ達也が抜けていました。もう全然ナンバー1です。

 3年の春までは入江大生(明治大を経て2020年DeNA1位)がエースで達也は背番号18。そういう点を考えると、まだまだ伸び代も感じられました。普通に成長すれば、将来はメジャーで投げるピッチャーだと、この頃から思っていました。

 どうしても欲しかったですから『1位は今井でいきます!』と指名公表もしました。結果的に単独指名になりましたけど、ドラフト当日朝の中日スポーツには『中日 今井1位!』と出ていましたから、中日との抽選を覚悟していました。なので験担ぎとして、作新学院のスクールカラーのハンカチか何かだったと思いますけど、スーツのポケットに忍ばせてドラフト会場に入っていました。

 ドラフトが終わってから、当時中日の監督だったモリシゲ(森繁和)さんから「ナベ! ふざけんなよ!」って電話があったんです。中日も今井1位で考えていたところを、西武の指名公表を見て明治大の柳裕也に変えたそうです。

 達也は凄いボールを投げるピッチャーになりましたね。ここ3年は連続で二桁勝って、いよいよこのオフにメジャーへのポスティング移籍が濃厚です。成長度合いは遅くもなく早くもなく、アメリカ移籍を前提に考えたらちょうど良い成長具合だったかもしれませんね。

大きかった源田壮亮の3位指名

源田を指名した理由は、トヨタとのオープン戦で見た守備力の高さだった 【写真は共同】

 須磨翔風の才木浩人(阪神3位)は西武の評価も高かったピッチャーです。もしも今井が抽選になって外していたら、才木の外れ1位もあったかもしれません。投げているボールも良かったですし、体のサイズもありましたしね。それくらい評価したピッチャーでしたから3位まで残っていたのが意外でした。

 その才木を阪神が目の前で指名して、次に西武が3位で指名したのがトヨタの源田壮亮でした。大げさでなく、源ちゃんの加入がその後のリーグ連覇につながりました。

 源ちゃんのプレーをチェックするために西武の二軍とトヨタとのオープン戦も組んだこともありました。このときのショートの守備が一級品。プロですぐに使えると確信しましたね。バッティングは「ちょっとどうかな……」と思いましたけど、そんなことが気にならないくらい守備が素晴らしかった。長年ショートが定まらず苦しんでいたのでどうしても欲しかったですね。他球団の動向も見ながら「4位までは残っていない」と判断して、3位での指名になりました。

 4位では静岡高から鈴木将平を獲っています。高校全日本でもクリーンナップを打っていたくらいで、バッティングが凄く柔らかい。位置づけ的には『ポスト秋山翔吾』。実力的にはもっと上の順位でもおかしくない選手でしたが、高校生の外野手で左投げということで、他球団も評価が難しくてこの順位まで残ったのかなと思います。

 このとき、オリックスが4位で都城高の山本由伸(現ドジャース)を指名しています。まとまりのある良いピッチャーでしたけど、投げ方と体のサイズを考えると上位ではちょっと難しい。西武でも「4位くらいで消える」という評価でした。他球団のスカウトもそうだと思いますけど、まさかあんな凄いピッチャーになるなんて想像できなかったですね。

 5位、6位では本田技研鈴鹿の平井克典、立教大の田村伊知郎を指名しています。2人とも下位指名ながらも戦力になってくれました。平井は担当スカウトから「この順位で獲れます」という報告があっての5位指名でした。良いピッチャーではあるけど大卒社会人で年齢もいっていることもあって、他球団はそこまで評価していませんでした。でも西武のスカウトは「サイドスローで、中継ぎで直ぐ使える」という評価。そんなピッチャーが5位で獲れるのであれば「お得」ですし、この順位で中継ぎ即戦力が獲れるという「保険」があったので、上の順位ではポジションが違ったり、違うタイプの選手を獲ることができました。

 これ以降、西武では下位で実力はあるけれど他球団があまり評価していない即戦力ピッチャーを多く獲るようになりました。

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著者プロフィール

1976年、大分県速見郡生まれ。多くのスポーツサイトの企画・編集、ディレクターなどを経てフリーランスに。現在は少年野球、高校野球サイトのディレクターを務めながら書籍の企画・編集も行っている。主な書籍は『星野と落合のドラフト戦略』『ジャイアンツ元スカウト部長のドラフト回想録』『回想 ドラゴンズでの14年間のすべてを知る男』など。

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