“勝ち負けより大事なこと”を教えてくれた──三重ホンダヒートが小学校で巻き起こす奇跡の60分

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教えることで、チームの雰囲気も変えた

松浦選手はこの授業を通じて「伝え方の引き出しが増えた」と、本業への影響も語ってくれた 【© MIE Honda HEAT】

 授業は、選手たちにとっても“挑戦”の場だった。松浦祐太選手は、参加当初の戸惑いを隠さずにこう語る。

「いろいろな学年の子がいて、それぞれの個性も違う。どう言葉を選んで伝えるかが、本当に難しかったです。でも、ラグビーも同じなんですよね。国籍も言語も違う仲間と、プレー中に1秒・2秒で意思疎通しなきゃいけない。授業を通じて、瞬時に“伝わる言葉”を選ぶ力が鍛えられています」

 スポーツで磨いた“伝える力”を社会に還元しながら、その経験がさらに選手自身の引き出しを増やしていく。そんな好循環が生まれているのだ。

 竹中太一選手は笑う。

「最初は上村さんのテンションについていくのに必死でした(笑)。でも、自分たちが楽しむほど子どもたちも楽しんでくれるとわかってから、ギアを外して自然体でやれるようになりました」

竹中選手(中央)も授業に影響を受けた一人。選手がこの活動に参加することで「チームの雰囲気もすごく変わった」と教えてくれた 【スポーツナビ】

 内気な選手も、授業では笑顔を見せるようになった。子どもたちとの交流を通じて、チーム全体の空気が柔らかくなったという。

「この活動を通じてチームの雰囲気もすごく変わりましたし、スポーツPRアワードで日本一を獲得できたことで、“やってきたことは間違ってなかった”と自信を持てました」

 授業は地域との対話であると同時に、チームの成長そのものでもある。

ゆってぃが見た“元気の神様”たち

ラグビーをやる気で来たゆってぃは、思いがけない内容だったようで「教育の現場で本気の授業はすごい」と感銘を受けていた 【スポーツナビ】

 授業を終えたゆってぃは、穏やかな表情で語った。

「子どもに対する見方とか、接し方が変わりました。参加できて本当によかったです。自分の子どもが元気でいることのありがたさを改めて感じました。こういう活動があれば、“弱いものいじめ”みたいなことも減っていくと思うんです。『ラグビーチームのあの人が言ってたしね』って残る言葉がある。地域に“元気の神様”みたいな人たちがいるって、本当に素晴らしい。

 ラグビーチームが教育の現場で本気の活動をしているのはすごいですよね。こういう取り組みが全国に広がってほしいです」

 笑いの裏に、人としての学び。ゆってぃの言葉が、活動の価値を改めて照らした。

三重ホンダヒートが描く“未来へのスクラム”

上村さんや選手たちの思いがこもった“本気の授業”は、チーム、そして地域の未来を照らす内容だった 【© MIE Honda HEAT】

 三重ホンダヒートは2026-27シーズンに向けて栃木県宇都宮市への拠点移転を発表している。三重で築いた地域との関係を土台に、チームは次のステージへ踏み出そうとしている。

 上村さんは、その未来についてこう語る。

「日本一を獲りたい。愛され、尊敬されるチームになりたい。ヒートに任せれば大丈夫と言ってもらえる存在に――。地域を盛り上げるのは、スポーツ選手の特徴を一番生かせる仕事。移転後も地域と一緒に未来をつくっていきたいと思っています」

・・・

 授業の終わり、子どもたちが列をつくり、選手たちと次々にハイタッチを交わしていく。

「また来てねー!」
「また会おうな!」

 体育館に響く声と笑顔。その光景を見つめながら、上村さんは静かに語った。

「HEAT授業は、チームの勝敗を超えて“地域に愛される存在”になりたいという思いで続けてきました。ラグビーの普及は、あくまであとからついてくるもの。だからこそ、子どもたちが“生きる術”を学ぶ小学校に出向き、恥ずかしがらずに本気で取り組む大切さを伝えています。

 社会に出たとき、『結局、何ができるの?』と問われる場面が必ず来る。そのとき、自分が歩んできた道を自分の言葉で語り、価値を届けられる人であってほしい。伝えることは簡単ではありませんが、本気で伝えたものは必ず残る。僕たちはこの授業で、それを実感してきましたから」

 体育館に残った拍手が、その言葉にさらに重みを与えていた。

子どもたちを見つめる上村さんの眼差しには、教育への揺るぎない信念があった 【スポーツナビ】

 そして吉岡選手の言葉が、もう一度胸によみがえる。

「だから、勝てなかったことが次の糧になる。勉強でも、習い事でも、1位になれなかった人は次にもっと頑張れる。今日のこの気持ちを忘れないでほしい」

 勝つためだけじゃなく、伝えるために戦う。三重ホンダヒートの『HEAT授業』は、未来へのスクラムを組む“もうひとつのグラウンド”。

 子どもたちの笑顔と、選手たちの声。そのどちらにも、“本気”が宿っていた。
(文・澤田和輝)

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