吉田知那美が読み解くカーリング五輪最終予選 残る切符は2枚、フォルティウスの勝機は
実力的に飛び抜けているのはやっぱりこの2チーム
客観的に見れば、実力的にはやっぱりアメリカと日本が抜けています。勝負の世界なので何が起きるかはもちろん分からないものの、この2チームが残り2枚の切符をつかむ可能性は相当高いでしょう。
――両チームが抜けていると感じる部分は
まずはカーリングチームとしての完成度が飛び抜けています。チームとして、あらゆるショットの精度が高い。「できないショット」が1つもありません。あとは強豪チーム相手の実戦経験ですね。世界ランキングトップ10位以内のチームと対戦したときの勝率なんかも、残る6チームとは大きな差があります。
――日本代表のフォルティウスは、今年3月の世界選手権での五輪出場権確保を逃しました
結果としては良い形にはならず、世界最終予選に回ることになりました。「なぜ世界で勝てないのか」といった声が聞こえてきたりもしましたが、プレーヤーの立場としてまず思ったのが、「そういうときもある」ということ。世界選手権は、出場チームのどこが世界一になってもおかしくない舞台なので。ただ、この大会で日本対トルコ戦の6エンド目で聞いた、ワールドカーリングの解説者の言葉も印象に残っています。放送席にいたのは、2002年ソルトレーク五輪イギリス女子代表で金メダリストのローナ・マーティンさん。彼女はチーム吉村について、「スタッツが優秀で、どの試合でも接戦をしている」と評したうえで、競り負ける展開が多かった日本代表について「チーム吉村は世界選手権のような舞台で10エンドの試合を戦う経験を、これから増やしていくチーム。8エンドの試合と10エンドの試合では、ゲームの作り方や戦い方が少し異なる。どれだけ我慢し、どこでアグレッシブに行くのかの判断は、経験でしか得られない」と話していました。あとはマインドセットについての解説もありました。「こういう舞台での経験がまだ少ないチームだと、競った展開の中で勝ちたい意識が強くなりすぎてしまう。そしていつのまにか受けに回り、負けに近づいていくパターンになりがち。同等のスキルを持っているにもかかわらず、勝てるチームと勝ちにつながらないチームの差は、ショット率ではなく、勝ちに行くためのプレーをし続けられるかどうかだ」と。試合中に聞いていて、私自身のためにもなりました。
――そういったマインドを保つには、やはり経験が必要となる
フォルティウスは3月の世界選手権から、オリンピックトライアル(日本代表決定戦)を経て、もう1度、オリンピック出場権に挑戦します。そういった試合を重ねる中で、もうすでに壁を乗り越えているのではとも思います。それは吉村選手のオリンピックトライアルの勝利インタビューで「最後は私のアウトターンのドローで勝つと何度もイメージしていた。そのイメージの通りに勝つことができて嬉しかった」と語っていたことからも現れているように、どのように勝つかまでのマインドセットがしっかりされているように思います。
新たな強みを得た吉村選手は無敵ではと思います
まずリードの近江谷杏菜選手からいきましょうか。彼女は世界でもトップレベルのリード。大会開幕後の数試合はとくに、アイスコンディションを把握するための時間も必要で、ショットはなかなか決まりづらいのが一般的です。だけれど近江谷選手は、そんなシチュエーションへの対応がずば抜けて速い。いとも簡単に成功させているので気づきにくいですが、情報量が少ないなかにあっても、置くべき場所に90パーセント以上の確率で置いていける。フォルティウスが大崩れせずいつも接戦になるのは、近江谷選手の高いショット精度があってこそでしょう。
――セカンドの小谷優奈選手は
優奈ちゃんも、アイス情報が少ない状況での成功率が高い選手。セカンドは特攻部隊のような役割があって、誰も投げていないウエイトだったり、誰も投げてない場所に投げなきゃいけなかったりするシーンが多い。その中で彼女は、しっかり決められるフィーリングを持っている。仮に1投目はミスしたとしても、2投目で必ずアジャストしてくる。その能力がものすごく高いですね。
――続いてサードの小野寺佳歩選手は
サードというポジションは、多岐にわたるウエイトやラインを使い分けていくことを求められます。その中で佳歩は、いつもひょうひょうとしているなと(笑)。サードというポジション柄、ここでゲームを覆えすような難しい一投を決めなければ、というショットをサヤ(吉村紗也香)に要求されても、「わかった」と二つ返事で投げ、しっかり決めてしまう強さを持っている。国内のオリンピックトライアルを勝ったあとには、「あまりの緊張で全身がつっていて、プレーするのがやっとだった」といった主旨のコメントをしていたんですが、そんな状況下でも、端から見るとすごく落ち着いてプレーしているように見えた。しっかり気持ちをコントロールできて、しっかり決められる選手です。あとは、トップウエイトの精度の高さですね。爆発力があり、何かトラブルがあったとしても全部壊してもらえるような安心の1投。フォルティウスは、このセカンドとサードのトップウエイトや、テイクの精度がものすごく高い。だからこそ、アグレッシブな戦略を取れる。もしうまくいかなかったら、全部壊せばいいわけですから。
――スキップの吉村紗也香選手
特にこの1、2年ほどのサヤは、ピンチのときに、チームの雰囲気や流れなど、全部変えてしまうようなファインセーブやドローが増えたと感じます。元々テイクが得意で、その精度はものすごく高いことはわかっていたのですが、それに加えて、勝負がかかった重要な局面でのドローも成功率が増した。その典型的な大会がオリンピックトライアルだったと思います。張り詰めたシチュエーションで決めきるドローショット。これを新たな強みにした吉村選手は無敵なのではとも思っています。
――リザーブは小林未奈選手
未奈ちゃんは、サヤが産休に入っていた1年間、バイスとして大事なポジションをやり抜きました。その1年間はフォルティウスにとってきっと大切なシーズンであり、チャレンジのシーズンだったのでは。しっかりと戦力としてプレーできるフィフスがいることは、チームとして理想的。カーリングはシーズンが約8カ月と長く、さらには大会期間も1つ1つの試合もすべて長い。全員が元気に戦い続けるのは奇跡的なことで、さまざまなポジションをこなせるフィフスがいれば、チームとして強みになります。最後の砦のような存在ですね。
――フォルティウスというチーム全般の特徴としては
自分たちの強みをすごく理解しているチームだと思います。データにも表れていて、フォルティウスの2024年2025年の試合データをcurling zoneで調べたところ、前半4エンド(もしくは5エンド)までに点数をリードしていた場合の勝率が90%を超えている。試合前半にしっかりと自分たちで試合を作りに行く姿勢を見せ、後半に精度の高いテイクで逃げ切るという形が勝ちパターンかなと思います。このような自分たち主導の試合を作るためには、まず1エンド目にハンマーを持っていることが重要になってきます。戦い方として後半逃げ切りができるチームはカナダのチームホーマン、スイスのチームトリンゾーニ、スウェーデンのバッセルボーグなどで、セカンド、サード、スキップの3ポジション全員にテイクアウトが得意なテイクシューターがいなければ成立しない戦い方です。
――オリンピックに出場するまでにはまず日本代表決定戦を勝ち、そして世界最終予選を勝たなければならない。そのうえで五輪本番が控える。ピークを2度、3度とつくる難しさは
今シーズンで言えば、9月の日本代表決定戦。そして12月の世界最終予選。そして来年2月のオリンピック。ピーキングという意味では、それほど難しいスケジュールではないかなと思います。フォルティウスは10月のPCCC(パンコンチネンタル選手権)は辞退していますし、そういった意味では、今回の世界最終予選に向けてしっかりピーキングをかけているとも感じます。今回の世界最終予選でキーポイントになりそうに感じるのが、アリーナアイスではなく、クラブアイスで行われること。札幌に帰って最後の調整をできたことは、すごく理にかなっています。