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田中碧がリーズの“逆襲ゴール”を演出 格上シティを慌てさせた「これぞプレミア」という激戦

森昌利

中盤の一角で先発した田中は後半アディショナルタイムまでプレー。守備に追われながらも、攻撃面でも光るものを見せた 【Photo by Robbie Jay Barratt - AMA/Getty Images】

 11月29日(現地時間)、リーグ3連敗中のリーズがマンチェスター・シティを相手に敵地で見事な戦いを見せた。田中碧も中盤で奮闘。守備での貢献が目立ったが、2点ビハインドの後半4分に縦パスで追撃のゴールを演出するなど、攻撃面でも見せ場を作った。最終的には地力にまさるホームチームが3-2で勝利を収めたとはいえ、一度はリーズが同点に追いつくスリリングな展開で、「これぞプレミアリーグ」というべき激戦だった。

とんでもない熱気と莫大な資金が激戦を生み出す

 先週は、田中碧のリーズが敵地に乗り込んだマンチェスター・シティ戦を取材した。

 個人的な話になるが、イングランド北西部のマンチェスターはリバプールと同様、筆者が在住するチェスター近郊の北ウェールズの小さな村から近くて行きやすいうえ、マンチェスター・Cのエティハド・スタジアムはメディアに提供される食事が素晴らしい。しかもアウェーの選手は必ずミックスゾーン(取材エリア)を通らなければならない構造になっているので、確実に田中に会えると、今回の取材を非常に楽しみにしていた。

 ちなみにこの日のメニューは本格的なインディアンカレー。チキン、ラム、エビの3種類のカレーが用意されており、大ぶりのエビがうまそうに顔を出していたトレイを指差して食し、舌鼓を打った。このクオリティに匹敵するのはロンドンのチェルシーだけだと思う。メディア飯においては、南のチェルシー、北のマンチェスター・Cが東西ならぬ“南北横綱”となる。

 のっけから脱線してしまったが、強引に話をフットボールに戻すと、今回のリーズのマンチェスター・C戦は、筆者がプレミアリーグの最大の特徴だと思う――またこの点がイングランド1部リーグの最大の魅力にも通じている――、勝敗予想が困難極まりない、苛烈(かれつ)な競争が如実に表れた試合になった。

 プレミアリーグの特定のチームを応援しているファンの皆さんならお分かりだと思うが、どのチームとの対戦でも「もしや?」という不安が必ずつきまとうものである。応援するチームがどんな強豪でも、またどれだけ好調でも、さらに相手が明らかな格下でも、楽勝というイメージがなかなか湧かないのだ。

 このプレミアリーグの激しい競争の根源には莫大なテレビ放映権料がある。2022年から2025年までのテレビ放映権料の総額はなんと105億ポンド。最近は母国の通貨が国際的に弱くなるばかりで、日本円に換算するととんでもない金額になってしまうが、これが約2兆2050億円となる。

 年平均だと35億ポンド(約7350億円)で、これが均等に近い形で20クラブに配分される。最下位のチームでも1億ポンド、210億円以上の収入があるのだ。

 となれば、どのチームでもある程度のクオリティを持つ選手を補強することが可能だ。

 無論、フットボールの発祥国イングランドのサポーターが熱狂的で、どんな試合でも勝利を求め、選手を後押しして、プレミアリーグの試合に圧倒的な真剣勝負のオーラを与えるのだが、そこに競争力を生む資金もある。とんでもない熱気に莫大な金が絡んで、常識なんて吹っ飛ぶ、熱く激しい試合の数々が生み出されるわけだ。

 だからどんな強豪チームでも気が抜けない。先週の試合を見ても、そのことがよく分かる。

 たとえば、今季序盤戦に抜群の強さを見せて、早くも優勝が確実視されているアーセナル。それでもアウェーのチェルシー戦は難しく、結果は1-1の引き分けだった。

 最近は低迷しているとはいえ、マンチェスター・ユナイテッドといえば、間違いなくプレミアリーグ史上最強のチーム。しかし近年の対戦成績が悪く、今季ホームで滅法強いクリスタルパレスとのアウェー戦では、2-1勝利を収めたものの悲壮感さえ漂った。

 さらに敗戦が続くリバプールのサポーターは、昨季5-0の勝利を収めたウェストハムとのアウェー戦とはいえ、試合前には不安を感じたはずだ(結果は2-0の勝利)。

 その点、マンチェスター・Cは、アーセナルやマンチェスター・U、そしてリバプールとの比較で、少しは気が楽だっただろう。相手は今季の昇格組で、リーグ戦3連敗中のリーズ。降格圏の18位に沈むチームとのホーム戦で、マンチェスター・Cのサポーターは勝ち点3を当然のように意識したはずだ。

5バックへの変更が奏功してマンチェスター・Cを沈黙させた

前半はマンチェスター・Cがリーズを圧倒。特に右ウイングのフォーデンのパフォーマンスが際立ち、開始早々の先制点もこの25歳がもたらした 【Photo by Shaun Brooks - CameraSport via Getty Images】

 そんな期待感に包まれたエティハド・スタジアムで始まった試合は、特に前半、楽観的な予感が完全にはまる展開になった。

 なかでもイングランド代表MFフィル・フォーデンが素晴らしかった。まさに躍動した。

 まずゴール前に飛び込み、右サイドからのクロスにダイレクトで左足を合わせて奪った先制点が素晴らしかった。4-3-3の右ウイングで先発したが、最前線から中盤の底まで広範囲を動き、どのポジションの選手か分からないほど、豊富な運動量を見せた。しかも緩急織り交ぜた、テクニカルで危険、そして美しいパスをリーズのペナルティエリア内に次々と蹴り込んだ。そんな25歳MFのパフォーマンスを見て、ケビン・デ・ブライネの後継者はこの男しかいないと思った。

 そしてもしもフォーデンがデ・ブライネの存在感を恒久的に再現したら、マンチェスター・Cは再びプレミアの頂点を極めることができるとも思った。

 ところがだ。フォーデンが燦然(さんぜん)と輝き、前半に2-0とリードしたマンチェスター・Cが後半に2点を奪われて、2-2の同点に追いつかれた。

 前半、なす術なく圧倒的な劣勢に追い込まれたリーズのダニエル・ファルケ監督は、同国人のユルゲン・クロップに通じる自らの攻撃性を封印するかのように、後半は4バックからセンターバック3人を中央に密集させる5バックにシフトした。そして攻撃では、自陣でボールを奪ってからのカウンターを徹底させた。

 この変更が結果的に功を奏した。今季のリバプールが対峙して苦しんでいる形でもあるが、この5バックが前半を通じてあれだけ圧倒的だったマンチェスター・Cを沈黙させた。

 とはいえ、ドン引きして失点を防ぐだけではフットボールの試合で勝ち点は奪えない。しかも2点をリードされている。そこはちゃんと攻撃のクオリティも備えていなければならない。そして今夏、プレミアリーグに残留するためにしっかり投資をしたリーズにも、その最低限のクオリティがあった。

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著者プロフィール

1962年3月24日福岡県生まれ。1993年に英国人女性と結婚して英国に移住し、1998年からサッカーの取材を開始。2001年、日本代表FW西澤明訓がボルトンに移籍したことを契機にプレミアリーグの取材を始め、2025-26で25シーズン目。サッカーの母国イングランドの「フットボール」の興奮と情熱を在住歴トータル30年の現地感覚で伝える。大のビートルズ・ファンで、1960・70年代の英国ロックにも詳しい。

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