北中米W杯への道 予選最終章と出場国の勢力図

「優勝」を掲げる森保ジャパンはどこまで勝ち上がれる? 識者3人によるW杯6カ月前座談会【後編】

構成:YOJI-GEN

「史上最強」の呼び声も高く、北中米W杯での優勝を目標に掲げる森保ジャパンだが、自国開催以外で初優勝した国は過去に3カ国だけだ 【Photo by Masashi Hara/Getty Images】

 日本代表ウォッチャーの佐藤景、河治良幸、竹内達也の3氏による座談会。後編では約半年後に迫った北中米ワールドカップで、「優勝」を目標に掲げる森保ジャパンが実際にどこまで勝ち上がれるのか、その未来を占ってもらう。来年3月の代表活動ではどんなことをテストすべきか、そして本大会にはどんなメンバーで臨むべきか。さまざまな角度から検証する。

志の高さに足をすくわれる危険性もある

――ではここからは、「実際に日本代表はワールドカップでどこまで行けるのか?」をテーマに、御三方の見解を伺えればと思います。まず、「優勝」という目標設定については、どう受け止めていますか?

河治 優勝を口にしても、もう世界から笑われないグループ、つまりは世界のトップ15くらいには入ってきたってことだと思います。すでにベスト16入りはマストに近くて、そこからさらに上を目指すチームというのは、たいていは優勝を目標に掲げるものですから。そしてその先には、「2050年までに日本でワールドカップを開催し、日本代表がその大会の優勝チームになる」というJFAの目標、いわゆる《2005年宣言》がある。だから、そこに向かって本気で挑むってことをしていかないと、見えてこない部分もたくさんあると思うんです。

 ただ、本当にそこにたどり着けるかは、組分けの妙だったり、PK戦の運不運だったり、いろんなファクターが絡んでくるので、何とも言えない。特に今回は気候や高地対策、長距離移動などさまざまな“トラップ”がある大会だから、それに引っ掛からずに勝ち進んでいけるかどうか。1994年のアメリカ大会みたいに、優勝候補と言われていた国がけっこう変な負け方をして消えていきそうな気がしていて、日本にとってもスリリングな戦いが続きそうです。

――コロンビアがグループステージ敗退、90年イタリア・ワールドカップのファイナリストであるアルゼンチンとドイツも、それぞれラウンド16、準々決勝で敗退しましたね。では、竹内さんはどうですか?

竹内 そもそもなんで「優勝」ってことを言い出したのかと考えると、河治さんの言ったJFAの《2005年宣言》が発端としてあるわけですよ。ただ、「2050年までに」日本でワールドカップを開催できるかどうか分からないし、「までに」という点に引っかかりのある選手がいたのも事実で、だったら「までに」を取って毎回優勝を目指そうというのが、たぶん出発点なんじゃないかと。でもそれって“志ドリブン”なんですよね。もちろん、その志は立派だし、素晴らしいことなんだけど、志の高さに足をすくわれる危険性もあるんじゃないかなと思うんです。

 たとえば今大会で、仮に日本がグループステージを1位で突破して、ラウンド32で北中米カリブ海のランキング下位国と当たるとなったときに、絶対によくないことだけど“通過点感”が出てしまいかねないなと。

河治 それこそまさにトラップだね。

竹内 選手の全員が全員、谷口彰悟みたいな人間だったら、そんなことは起こらないと思いますよ。彼は「勝って改善」が当たり前にできる人ですから。でも、相手がドイツとかブラジルだと、やっぱり普段以上にパワーは出るものだし、逆にメンタル的な波がない状態で戦い続けるというのはなかなか難しい。そのあたりが、大会を勝ち抜く上で悪いほうに出なければいいなと心配はしています。

――前回のカタール・ワールドカップのコスタリカとの2戦目がまさにそんな感じでしたね。佐藤さんはどうですか?

佐藤 ワールドカップで優勝したのはたったの8カ国だけで、さらにその中でも自国開催以外で初優勝した国は西ドイツ(1954年スイス大会)、ブラジル(58年スウェーデン大会)、スペイン(2010年南アフリカ大会)の3カ国だけなんですね。そうした歴史を踏まえると、ベスト8に一度も入ったことがない国が、自国開催以外で初優勝するって、めちゃくちゃ難しいと思うんです。

 その歴史を塗り替えるとなると、相当な実力があるか、例えば08年のEUROを制したスペインみたいに、誰もが認めるような実績がないと、やっぱり厳しい。もちろん今の日本代表はいいチームだし、「史上最強」と呼んでもいいと思いますが、それでもチャンピオンズリーグで優勝を経験している選手が5人いるとか、そのくらいのレベルじゃないと、さすがに現実味に乏しいんじゃないかと。出る以上は優勝を狙うという姿勢の話と、実際に目標に掲げるのは次元が違う気がします。

 じゃあ、久保建英のいるレアル・ソシエダや、三笘薫のブライトンが、チームとしてチャンピオンズリーグ優勝を目標に掲げるかというと、それはないわけですからね。

竹内 奇しくもその2人は「ワールドカップ優勝」と積極的には口にしてこなかった選手ですね。特に久保は意図的に避けているようにも思います。

佐藤 つまり、そういうことだと思うんです。それがいかに困難なことなのか。もっと足もとを見て、一戦必勝で、一つずつ勝ち上がっていって、どこまで行けるのか、という戦いになることを彼らは分かっている。

本気で優勝を目指す経験を積んで34年大会へ

出場国が48に増えただけに、ベスト8に入れば大きな成功だろう。それでも現在20歳の後藤ら若い世代へ、本気で優勝に挑む姿勢を見せることも大事だ 【Photo by Hiroki Watanabe/Getty Images】

――ワールドカップで優勝するのは本当に特別なことで、もしかするとチャンピオンズリーグで優勝するより難しいかもしれませんからね。それなのにメディアも含めて、ちょっと軽々しいというか、煽りすぎではないですか?

佐藤 別にマイナスプロパガンダをするつもりはないんだけど、いかに難しいことに挑戦しているかということは、見る側も分かっておく必要があると思います。今回で言えば出場国が32から48に増えて、ベスト32からトーナメントが始まるわけですから、ベスト8に入っただけでも大きな成功と言えます。

 だって、伝統国のメキシコでさえ過去にベスト8に入ったのは2回だけですし、しかもどちらも自国開催の大会でしたからね。それくらいワールドカップで勝ち上がるのは難しいってことなんです。それでも優勝を公言するなら、我々ジャーナリストもより厳しい目で森保ジャパンを見ていかなくてはならないと思います。

竹内 親善試合とはいえブラジルに勝ったのは普通にすごいことだと思いますけど、僕もワールドカップの目標は現実的に考えてベスト8であって、世界一ではないと思っています。チャンピオンズリーグの優勝チームや、5大リーグの優勝チームの絶対的な主力が1人もいない代表チームがワールドカップを制した例は、おそらく過去に一度もないはずですから。

 最近、森保監督は「出場国が48カ国になって、よりバックヤードのノウハウが結果に反映される大会になる」「だから、初優勝国が出る可能性は高い」と、よく言うんですね。そうした準備段階の繊細さとか、島国ならではの一体感、そこから生まれる献身性みたいなものは日本特有のもので、それをもって森保監督は「日本らしさ」と表現していると思うし、そこを強みにして優勝できると考えているんじゃないかと。

 だけど僕は、そこまで信じきれない。南米の伝統の力、ヨーロッパの競争力とか資金力とかには、それだけだと太刀打ちできない。森保監督は同時に「一戦必勝の姿勢」も日本人のならでは良さとしてよく口にしますが、むしろ今大会はそうした姿勢で戦い抜くことこそが、正しい日本人像を映し出すことになるんじゃないかと思うんです。優勝という言葉が一人歩きするのではなく、一戦必勝で戦っていった先に、優勝という結果があった、みたいな。大事なのはそういうメンタリティを、これから大会まで、そして大会期間中も維持できるかどうかだと思っています。

河治 その一方で、今回A代表に初招集された後藤啓介だったり、U-20代表のキャプテンだった市原吏音のように、プロ入りするときからワールドカップ優勝を口にする選手が出てきているのも事実です。彼らが選手として一番脂が乗ってくるのは34年のサウジアラビア大会だと思うけど、26年、30年と本気で優勝を目指す経験を2度積んで34年大会に臨むと、メンタリティや肌感覚はかなり違ってくると思います。

 後藤や市原の世代が数人はチャンピオンズリーグ決勝を経験しているのが理想だけど、その頃には可能性がゼロではないチームになっているはずだと思います。なので、今の森保ジャパンに優勝の可能性が1パーセントとか0.5パーセントとか、どれぐらいあるかは分からないけど、本気で挑む姿を下の世代に見せていくことも大事なんじゃないかと。その結果、今回、優勝を目標に掲げながら、できなかったときに、世間がどんな反応をするのかは個人的にあまり心配してなくて。今大会ではラウンド32からトーナメントが始まるのもありますが、ベスト8に行ければ、世間的にも大拍手かなと思います。

3月のマッチメイクを見誤ると難しい状況にも

次回の代表活動となる来年3月のマッチメイクは非常に重要だ。例えばイングランドのような強豪国とこの時期にぶつかるメリットとデメリットは? 【Photo by Mateusz Slodkowski/Getty Images】

――次の代表活動は来年の3月ですが、そこではどういう相手と戦い、どんなテストをすべきでしょうか?

佐藤 3月はメンバー発表前の最後の活動ですから、これまで選手層の拡充を図ってきたなかで、誰が本当にワールドカップで戦えるのかを、その時点である程度は見極めておく必要があります。ただ、怪我人がたくさんいて、例えば町田浩樹みたいに、3月以降に復帰してくる選手もいるし、ここから急激に伸びてくる選手もいるだろうから、そこも含めて考えなくてはならない。

 そうした重要な意味を持つ3月のテストマッチで、どこと対戦すべきか。もちろん抽選会の結果にもよりますが、例えば今、名前の挙がっているイングランドのような強いチームとやることが、果たして得策なのか、ですよね。10月にブラジルに勝っているし、仮に3月のテストマッチで大敗しても問題はないので、骨のある相手と戦うべきか、もしくは、これまでやってきたことは間違いじゃなかったと確認できるような相手と戦うべきか、このマッチメイクは非常に重要だと思うんです。

 日本代表のある関係者も話していましたが、やっぱりチームって自信を持って大会に入っていきたいものだと。ヨーロッパ勢とはしばらく戦っていないから、ここでやっておいた方がいいんでしょうけど、ただやるとしても中堅国。もちろんそこで負ける可能性もありますが、いわゆる強豪国と対戦してボロ負けでもしたら、そこからこれまで積み上げてきたものを壊して、もう一度作り直さなくてはいけなくなる。ここのマッチメイクを見誤ると、けっこう難しい状況になりかねない。

河治 3月の試合では、森保監督としては当落線上の選手を試しておきたいでしょうけど、相手がイングランドとかになると、ベストのメンバーで一度ぶつかってみたいという気持ちが監督にも選手にも生まれるかもしれない。メンバー発表後の6月の練習試合やテストマッチとは違って、まだ3月の時点なら優勝候補の強豪に全力でぶつかって、出た課題の修正が利きますから。森保監督も確認したいこと、試したいことがいろいろとありすぎるなかで、どんな相手と試合をして、何を試すのか、難しいところですよね。ただ、どことやっても100点満点の正解はないと思う。

竹内 もう一度、メキシコ戦のような実戦環境は経験しておきたいので、もしイングランドとウェンブリーでやれるのであれば、45分とか60分でいいから、そこに主力をバチンとぶつたい。今の代表ならそこでボロ負けするとは考えにくいし、ブラジル戦の前半みたいにやられたらやられたで、ディテールと向き合えるんじゃないかと。プレスの掛け方にせよ、ブロックの敷き方にせよ、これはできるけど、これはまったくできませんというチームでもありませんから、強いチームとベストメンバーで戦うというのは、一度やっておいたほうがいいと思います。そして2試合組めるなら、もう1試合を選考レース用にして、例えばスコットランドのような中堅国が相手でもいいかと。

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