北中米W杯への道 予選最終章と出場国の勢力図

"史上最強"森保ジャパンのチーム作りを徹底解剖 識者3人によるW杯6カ月前座談会【前編】

構成:YOJI-GEN

フルターンオーバーを採用した9月のアメリカ戦には疑問の声も。この試合を機に佐野海舟がスタメンに定着するなど収穫もあったが…… 【Photo by Kirk Irwin/USSF/Getty Images】

 来年6月の北中米ワールドカップ開幕まで、およそ半年。ここでは精力的に日本代表を取材する佐藤景、河治良幸、竹内達也の3人のジャーナリストに、あらためて「史上最強」との呼び声も高い森保ジャパンを解剖していただく。座談会の前編では、アジア最終予選終了後から11月シリーズまでのチーム作りを検証。熱い議論が交わされたのが、9月のアメリカ遠征についてだ。あのアメリカ戦のフルターンオーバーには、果たしてどんな意味があったのか。

2つのコンディショニングを同時に走らせる?

――北中米ワールドカップのアジア最終予選を首位で突破してからこの半年間、森保ジャパンは本番を見据えた有意義なテストマッチができているでしょうか?

佐藤 怪我人が多かったので、できなかったこともたくさんあったと思いますが、その中でも最大限のことはやれたのかなと。ただ、これは記事にも書いたんですが、9月のアメリカ遠征でメキシコと引き分けた後のアメリカ戦に、フルターンオーバーで臨んだ意図はどこにあったのかと。

河治 僕もそこはめちゃめちゃ気になっていました。そこにはなんらかの理由はあったんだろうけど、ただ本大会でもフルターンオーバーをやる機会って、グループステージを2連勝して、突破を決めた後の第3戦くらいですからね。

 それでもトータルで見ると、継続性を保ちながらもチームとしてのパイに広がりが出てきたし、ポジティブな要素は少なくない。まさに怪我の功名で、冨安健洋、伊藤洋輝、町田浩樹と、怪我人が多いセンターバックに新たな可能性が生まれていますからね。

竹内 9月の時点では本当にどうするの?というくらい怪我人が多くて、かなり厳しい状況でしたよね。特にセンターバックは誰が使えるのかも分からず、本大会でどういう並びになるのか想像がつかなかった。それが、瀬古歩夢、渡辺剛、鈴木淳之介らが台頭してきて、なんとかこのままワールドカップを戦えそうな空気になっている。この3カ月ほどで「怪我人が戻ってきたらラッキー」みたいな状況になっているのは、かなり奇跡的なんじゃないかと、個人的には思いますね。

【日本代表の7月以降の試合結果】
香港戦(〇6-1)
中国戦(〇2-0)
韓国戦(〇1-0)
メキシコ戦(△0-0)
アメリカ戦(●0-2)
パラグアイ戦(△2-2)
ブラジル戦(〇3-2)
ガーナ戦(〇2-0)
ボリビア戦(〇3-0)


――佐藤さんが指摘されたアメリカ戦のターンオーバーについて、もう少し深掘りさせてください。主力メンバーで臨んだメキシコ戦に0-0で引き分けて、中2日で迎えた試合にスタメン総取っ替えで臨み、0-2で敗れてアメリカ遠征を終えました。

佐藤 まるまる入れ替える必要はなかったと思うんです。この試合は長友佑都、荒木隼人、関根大輝の3バックでスタートして、後半から4バックにしましたが、荒木、関根、そしてウイングバックからサイドバックに回った望月ヘンリー海輝も、4バックはほとんどやったことがなかった。そういう試し方をするのであれば、いわゆる主軸と言われるメンバーがいる中でやったほうがいいし、代表経験が浅い人たちは力を発揮しきれなかったんじゃないかと。本番でも長友を3バックの左で使うのかと言えば、その可能性も低いでしょうし。

――森保監督は2022年のカタール・ワールドカップのころから、「ワールドカップで勝ち上がるには2チーム分が必要だ」と言っていますよね。

佐藤 でも、過去にフルターンオーバーを採用してメジャー大会を制したチームなんて、僕が知る限りないんです。だから、いくら試合数が増えてファイナルまで8試合あると言っても、本当にフルターンオーバーって必要なのかなと。

 そこから僕なりに理由を推察すると……。まずアメリカ、カナダ、メキシコの3カ国共催となる今大会は、会場間の時差の問題がありますし、今夏のクラブワールドカップでベンフィカ対チェルシー戦が悪天候によって約2時間中断したように、気象面も読みにくい。そうなると、コンディション作りがこれまでとはまるで違ってくるので、リアルに2チーム分作らなきゃいけない必要性が出てくる。

 特にメキシコのグループ(グループA)に入った場合は、初戦がメキシコシティー、2戦目がアメリカのアトランタ、3戦目はメキシコのモンテレイが試合会場になる。高地への順応もあるので、もしかするとメキシコ用とアメリカ用のチームを分けて、2つのコンディショニングを同時に走らせるくらいのことも考えているのかもしれないなと。

「精神と時の部屋」か「ブルーロック的」か

ある意味、丸腰の状態でアメリカに挑むことで、戦える選手を見つけ出す狙いがあったのか。CBの荒木は以降、代表に呼ばれていない 【Photo by Kirk Irwin/USSF/Getty Images】

――河治さんはどう思いますか?

河治 そもそもこうした議論が起こるのも、メキシコ、アメリカとの9月の連戦が、本大会に向けての準備の肝だったと、僕ら3人を含めて多くの人がそう考えていたからなんです。テストマッチとはいえ、メキシコに勝ち切れず、アメリカに負けたという事実は、日本には世界一を目指すポテンシャルがわずかながらでもあると信じながらも、こうして大会のしょっぱなでコケる可能性もあるんだと、再認識させてくれた。その意味では、1つのシミュレーションにはなったと思います。

 ただ、やっぱりあの中2日での移動は正直きつすぎたし、もともとアウェーのディスアドバンテージがある中で、どうしてこれほど過酷な状況に追い込んだのか、そこは疑問でしたね。本大会でも中2日の試合は3位決定戦くらいしかないので、シミュレーションにしてもタフ過ぎる。ドラゴンボールの「精神と時の部屋」みたい(笑)。

――コンディション的に厳しすぎるから、全員替えざるを得なかった?

河治 僕はメキシコ戦で途中交代した選手がアメリカ戦でもスタメンになると思っていたんですよね。板倉滉や久保建英が下がったのは負傷の影響でしたけど、鎌田大地や南野拓実、堂安律、三笘薫あたりは先発させるつもりなのかなと。

 ただ、結果として、このアメリカ戦で先発したメンバーの中に、その後、日本代表に定着した選手が何人かいて、佐野海舟に至ってはスタメンを奪取しそうな勢いがある。そういう意味ではチームの底上げにはつながりましたね。もし9月のメンバーで、11月に同じこと(フルターンオーバー)をやったとしたら、普通に戦えたかもしれない。本大会でそれをやるとは思えないけど、森保監督は誰がスタメンで出ても戦える22人くらいのグループは、手元に持っておきたかったんじゃないかな。

竹内 周辺に話を聞くと、この中2日の日程と、西海岸のオークランド(メキシコ戦)から中東部のコロンバス(アメリカ戦)への長距離移動は、どうも日本側から求めたようなんですね。つまり、2試合連続で使えない選手がたくさんいるというのは織り込み済みで、この活動に入っていたのかなと。

 河治さんがさっき、「精神と時の部屋」って言われましたけど、僕はなんだか「ブルーロック的」だなと思っていて(笑)。極限状態に置かれた選手たちがどれくらいやれるか試すって、森保ジャパンは時々やるんですよね。例えば2019年11月には14日にワールドカップ予選でキルギスと、19日にキリンチャレンジカップでベネズエラと対戦しましたが、ベネズエラ戦ではスタメンをごっそり入れ替えて1-4で大敗しましたし、22年9月のドイツ遠征でもアメリカ戦の4日後に行われたエクアドル戦で大幅にメンバーを入れ替えて0-0に終わっています。そうして丸腰で挑んだなかで、戦える選手を見つけ出すというのは、間違いなく“森保ジャパンあるある”だと、個人的には感じています。

 ただ、これが正解だったかどうかは現時点ではまったく分かりません。例えば本大会で4バック的なオーガナイズをしたときに、瀬古が守備固め要員として途中から出てきたりしたら、「あー、あのアメリカ戦が生きたな」と言えるかもしれませんが。

――9月のアメリカ戦も、瀬古は後半頭からの出場でしたね。

竹内 そうです、長友に代わって。ちょっと4バックっぽいオーガナイズにして、左サイドバックで出たんですけど、ただあのオプション自体は、途中から出た鎌田や三笘の4バックにしたときのリアクションを見ることが主眼だったようですけどね。

 あとは望月のような強い個性を持った選手や、鈴木唯人、藤田譲瑠チマ、佐野ら、移籍して所属クラブのレベルが上がったり、クラブでは絶対的な存在だけど、代表にはまだ完全にフィットしきれてない選手を多く使ったのもこの試合でした。主力に関しては、試合に出なくても時差調整のシミュレーションはできるので帯同する意味はあったし、あの長距離移動を全員で体感できたメリット、アメリカという強度の高い相手に対して、丸腰で挑ませたメリット……なんていうか、キメラ的にさまざまなメリットを取りにいった結果、どの素材を活かしたかったのかが見えにくいサラダボウルみたいになったのがアメリカ戦だったと思います。

 このメリットのつまみ食いを次にどう生かしていくかが今のテーマですが、河治さんがおっしゃったように、佐野や藤田なんかは、アメリカ戦以降、試合に絡むようになりましたからね。

佐藤 逆にアメリカ戦で試されてから、呼ばれていない選手もいますよね。鈴木唯人とか荒木とか。そこでふるいにかけられた感じはあったけど、その一方でもうやらないだろうと思っていた前田大然のウイングバックは、11月のボリビア戦でも試した。だから、あのアメリカ戦で森保監督が何を得たのか、興味深いんです。試合後に瀬古に話を聞いたら、左サイドバックは「ほぼ経験がない」ということだったし。

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