日本が「楽しい守備的バスケ」でW杯予選初戦を快勝 2人の“アラサー”が見せた価値と作った流れ

大島和人

日本はチャイニーズタイペイに90‐64で圧勝した 【(C)FIBA】

 神戸で開催された11月28日のチャイニーズタイペイ戦が、FIBAバスケットボールワールドカップ2027アジア地区予選の初戦だった。日本は1次予選で中国、韓国、チャイニーズタイペイと同じ「グループB」に入り、ホーム&アウェイの総当りで26年7月まで合計6試合を戦う。1次予選は4分の3が勝ち上がる広き門で、初戦から「絶対に負けられない」と力む必要はなかったのかもしれない。

 とはいえ年明けに対戦する中国、韓国は「在米組抜きの日本」と比較すれば同格以上の強敵。チャイニーズタイペイも8月のアジアカップで日本以上の好成績を収めている。11月28日のホーム戦、12月1日のアウェイ戦は「厳しい展開が予想されつつ、勝っておきたい」大一番だった。

 結果として日本はチャイニーズタイペイを圧倒し、11月28日の初戦を90-64と完勝した。分かりやすく狙いがハマり、第1クォーター(Q)でほぼ試合を決めた。

馬場が封じた相手のエース

 日本の先発はCジョシュ・ホーキンソン、PF渡邊雄太、SF馬場雄大、SG西田優大、PG齋藤拓実。分かりやすく「ディフェンス重視」の5名だ。

 トム・ホーバスヘッドコーチが試合前に言及していたチャイニーズタイペイの警戒点はガード陣だった。特に32歳の陳盈駿(Chen Ying- Chun/レイ・チェン)はチームの“ハート&ソウル”で、逆にそこを封じれば日本は楽になる。

 ホーバスHCは馬場を、ポジションが違う陳盈駿のマークにつけた。

「スカウティングから、馬場が相手のポイントガード(PG)にマッチアップした方がいいと思った。西田が相手の3番(SF)で、齋藤は相手の2番(SG)です」

 第1Qのスタッツを簡単に振り返るだけで、守備の狙いが成功したと分かる。チャイニーズタイペイは10分間で8つのターンオーバーを喫し、2度のショットクロック(24秒)バイオレーションもあった。

 日本はスティール、相手の悪い形のボールロストから速攻に持ち込む展開が多かった。シュートの成功率こそやや悪かったが、23-10と突き放して第1Qを終えた。

 馬場がいない時間帯などに“陳盈駿封じ”を任されていた原修太は、試合の入りをこう振り返る。

「本当に馬場がトーン(=全体の調子/勢い)をセットしてくれた。5人ともそうだったんですけども、馬場が前からプレッシャーを掛けて、日本は波に乗りました。僕もディフェンスで強度を下げず、むしろ上げていく気持ちで入ることができました」

 馬場本人はこう胸を張る。

「トム監督が僕を信用してくれて使ってくれたところで、自信を持ってやれました。対策どうこうより、個々の戦いで負けている場合ではないと思っていたし、ここで止まる日本代表でないとも信じていました。そこは僕が先頭を切って、上からプレッシャーをかけました」

 馬場は196センチのSG/SFだが、運動能力が高く、リバウンドも含めて献身的にプレーできる。彼がクイックネスのある陳盈駿にほぼ完璧に対処し、3得点に封じたところは日本の勝因だ。

「ブリッツ」が奏功

馬場は「気持ち」の出たプレーで貢献した 【(C)FIBA】

 守備戦術の工夫も奏功した。この試合の日本は、相手ガード陣へのブリッツ(一時的に2枚が付くマーク)を多用している。

 チャイニーズタイペイはガードが帰化選手ブランドン・ギルベックのスクリーンを使い、ピック&ロール(ガードとインサイドの連携からズレ、ミスマッチを作る2対2のオフェンス)を仕掛けてくる。日本はそれに対して、ギルベックのマークを一瞬「捨てる」対応をした。ロール(反転)してパスを受けに行くギルベックがそこまで脅威にならないという前提があったにせよ、かなり思い切った選択だ。原はこう説明する。

「相手はプルアップ3(ドリブルからの流れで放つ3ポイントシュート)が得意なので、そこを消しました。あとピック&ロールはどうしてもひとりで守れるところではないけど、ビッグマンがしっかり高めに出てくれた。そこも(相手の)得点が伸びなかった要因かなと思います」

 ブリッツをやる以上、ジョシュ・ホーキンソンは相手ガードへ詰める対応が必要になる。彼にとって慣れない仕事だったが、ホーキンソンは見事に適応していた。

「ジョシュはピックアンドロールではドロップ(=引いて対応する)ディフェンダーとしてプレーすることが多いけど、この試合は対応を変えたんです。彼は本当に集中して、素晴らしい仕事をしてくれた」(ホーバスHC)

 チャイニーズタイペイはアジアカップでベスト8に進出し、準々決勝もイランに75-78と善戦している。同大会の彼らは立ち上がりで「一気に畳み掛ける」展開が多かった。だからこそ、第1Qに積極的な守備で相手のリズムを奪うことが大切だった。馬場はこう口にする。

「アジアカップでもタイペイは第1クォーターからガンと離すシチュエーションがあったので、そこは絶対に防ぎたかった。気持ちを前面に出す分野において、僕はもう……そこしかないくらいのプレーヤーなので(笑)。自信を持って、気持ちをコートに置いてくるようにやった結果、相手にストレスを与えてプレーさせられたと思います」

 西田はこう振り返る。

「トムさんは『出だしからディフェンスの強度を上げたい』と話していたので、ちゃんと期待に応えられたのかなと思います。あれだけガツンとディフェンスをやれば、後から出てくる富永(啓生)も気持ちよくスリーも打てたと思います。(ブリッツは)ガードが強いので、ボールを離させる目的でやっていました」

 バスケットボールにおいて守備的なプレーとは「ボールを積極的に奪いに行き、攻撃回数を増やす試合運び」を意味する。これがハマればプレーのテンポは上がり、速攻などダイナミックなオフェンスも増える。他の球技と逆に「ディフェンシブな展開ほど楽しい」のがこの競技だ。チャイニーズタイペイ戦の日本が、まさにその典型だった。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、バレーボール、五輪種目と幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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