WD名古屋・深津英臣が重ねる試行錯誤 35歳の司令塔は「世界のトップ」をどう生かすか?

田中夕子

宮浦と重ねた対話

オポジットの宮浦との連携はWD名古屋躍進のカギ 【写真提供:SV.LEAGUE】

 昨シーズンはレギュラーラウンド3位、プレーオフではセミファイナルでサントリーに敗れた。3戦2勝方式の初戦を勝利し、2戦目は落としたが、3戦目も相手にマッチポイントを握られたところから猛追、デュースの末に1対3で敗れた悔しさは、今も消えたわけではない。

 だが、それももう過去のこと。あの悔しさがあったから、同じ轍を踏まぬために今季はまた新たな挑戦を重ね、新しい武器をつくり、磨いていかなければならない。その1つがフベルのミドルからの攻撃であり、もう1つ、ここまで試行錯誤を重ねながら重きを置いて取り組んできたのが宮浦とのコンビだ。

 ダイナミックなフォームで、相手ブロックが揃っていても高い位置からコースの奥を狙って着実に得点する。日本代表でも、昨季所属したジェイテクトSTINGS愛知でも宮浦の攻撃力は証明済み。名古屋に移籍加入した今季もその武器を活かすことはもちろんだが、そこから一歩先、チームが掲げるリーグ優勝という目標を叶えるためには、新たな挑戦もしなければならない。深津だけでなく、名古屋を率いるバルドヴィン・ヴァレリオ監督も宮浦に高さだけでなく速さを求めた。

 日本代表でもネーションズリーグを終えてから世界選手権までの間、攻撃の速さにチャレンジしてきた。だが、なかなかかみ合わず、大会を終えるまで完成に至らなかったように、深津と宮浦が求める速さをクリアするのはなかなか簡単ではなかった。

 サイドアウトやブレイク時、さまざまな局面で前衛だけでなくバックアタックも含め、深津は積極的に宮浦の攻撃をチョイスしたが、10月26日の広島戦では珍しくアタックラインフォルトの反則を取られた。しかも1試合で3本。第2セットに3本目のフォルトを取られると、常に冷静な宮浦が珍しく、ポールを叩き、感情を露わにするシーンもあった。

 「あれは自分が悪かった」と宮浦は苦笑いを浮かべながらも、求めるクオリティに達することができない苛立ちと、「試合でアタックラインフォルトをすること自体がこれまでなかった」と吐露する。

 もがく宮浦を、どうすれば引き上げられるか。トスの高さや速さを追求することに加え、試合の中でもコミュニケーションを重ねて、もっとよくなるように、と互いに求め合う。その作業こそが大事なこと、と深津は言う。

「決まった時はハイタッチ、決まらなくても『今のトスはどうだった?』と毎回確認する。僕が上げたいトスだけではなく、健人が『これがいい』というトスを上げ続けるのが僕の仕事。単発ではなく、どうすれば続けて決められるか。お互いの関係を深めるために遠慮はいらないので、もっと言ってきてほしいし、そこに応えたい。昨日ダメだったけど、今日はよかった、という状態では最後に勝つことはできないので、もっとよくなるためにどうするかを追求する。それしかないと思うので、僕はやり続けます」

進化する司令塔

東京GB戦は一つの「転機」になる 【写真提供:SV.LEAGUE】

 確かな変化が形になって現れたのが、東京グレートベアーズとの連戦だった。どちらもストレートで勝利し、宮浦のスパイク決定率は初戦が80%。翌日も58.8%と高い数字を叩き出した。

 速さを追求しながらも伸びやかに、打ちたい場所へ打つ。あれほど苦悩していた宮浦に、どんな変化があったのか。そして、司令塔はどんなアプローチをして引き出しを開けたのか。尋ねると、深津はいたずらっぽく「内緒でーす」と笑った後に、続けた。

「僕のトスは変えていないです。健人も今までのバレー人生の中で一番速いトスを打っていて、もがいて、悩んでいるのを僕も感じていた。そういう中で、彼がいろんな人にアドバイスをもらいながら手ごたえをつかんで、試合の中で結果として出すことができたと思うし、それが僕にも自信になった。それがこの決定率にもつながったと思うので、僕は健人を信じてトスを上げるだけです」

 成功した喜びも、うまくいかない悔しさも、すべて力に変えて来た。

 長い戦いは始まったばかり。いい時ばかりでなく、うまくいかずにもがく時があっても、きっと最後は見せつけるはずだ。

 これぞ深津だよな、と。

 惜しまぬ努力が、実る時のために。努力を惜しまぬ司令塔の進化はまだまだ、ここからだ。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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