「3年連続昇格」でJ2入りする栃木シティ 実現しつつある“理想郷” と攻撃サッカー
県内には先行する栃木SCがあり、さらに栃木シティは2023年まで関東リーグでくすぶっていたクラブだ。しかしJFL、J3、J2と続く3年連続の昇格を成功させた。2位・ヴァンラーレ八戸との勝ち点差は3で、得失点差も「4」あるため、J3制覇に向けてもかなり有利な位置にいる。
誕生した「フットボールの理想郷」
スタンドの収容人員は5000人強。スタンドが低く、ピッチまでの距離が限界レベルで近い。試合前のウォーミングアップではシュートが客席に勢いよく飛び込むので、ゴール裏に防御用の網が張られていた。メインスタンドの座席数は6段で、しかも両チームのベンチがスタンドに食い込んでいる。施設の小ささも相まって、臨場感が強烈だった。
メインスタンドの裏手にはトップチームが練習で使用する天然芝のグラウンドがあり、試合前には小さな子どもたちがボールを蹴っている。近くにはアカデミー用の人工芝グラウンドもある。
開場がキックオフの3時間半前と早く、イベントや飲食のスペースも用意されているため、家族や仲間連れがそこでゆったりと過ごしている。スタジアムの規模は他のJクラブに劣るが、いい意味でほのぼのした空気がそこには漂っていた。
試合中も「いい雰囲気」は変わらなかった。スタンドはその気になれば乱入できる高さと距離だが、そんな気配はゼロ。サポーターグループ「栃木派」はブーイングを一切しないスタイルで、「栃木シティガンバレー!」という子供が主役のコールもある。
栃木シティは実業団チーム「日立栃木」が源流で、2010年のJFL昇格とともに栃木ウーヴァと改名していた。ただJFLでは毎シーズンのように苦戦し、2017年には最下位(16位)に沈んで関東リーグへ降格している。
チームは2018年から経営を一新させた。栃木県の壬生町に事業所を持つ日本理化グループがオーナーとなり、同社のトップだった大栗崇司氏がクラブの代表も兼務する体制になった。当時34歳の新社長を見て、その若さにかなり驚いたことを覚えている。
ブーイングをしない応援
シティフットボールアカデミーはクラブスタッフ、マネージャーなどの育成もしている。学生たちはボランティアスタッフも担っていて、試合の運営にはインターンシップ的な意味合いもある。
大栗社長は栃木シティの「ブーイングをしない応援」に付いてこう説明する。
「僕は何も言っていないですけど、自然とできました。僕は『ありがたい』と思っていますけど、たまに『ブーイングしてほしいな』というときもあります。ブーイングされた方が楽で、されない方がズシッと来るので」
23日はホーム最終戦で、昇格の懸かった大一番。チケットは完売し、スタンドは4581名の観客で埋まった。
「栃木市はエンタメ、スポーツがあまり無かった場所なので、『この地域に力を届けたい』という思いがベースにありました。アクティブシニア層の方がお孫さんも連れてくるのですが、ご本人が一番楽しんでいる……みたいな様子が、僕はすごく嬉しいです」
大栗社長は東京育ちだが、母が新潟出身という縁もあり、学生時代はアルビレックス新潟のサポーターとしてゴール裏に通っていた。ビッグスワンのこけら落としには、留学中のアメリカから帰国して足を運んだという。栃木シティはそんな新潟と同じカテゴリーを戦うことになった。
“エモい”コメントを期待して話を振ったが、そこは抑え気味の反応だった。
「どうですかね。ビッグスワンに行ったときはちょっと思うものがあるかもしれないですけど……。僕の立場としてはあくまでもフラットです。個人的には嬉しいですよ」
時間稼ぎをせず点を狙うスタイル
大栗社長はこう振り返る。
「地域チャンピオンズリーグを抜けるのにかなり時間が掛かって、そこは非常に苦労しました」
チームを変えたのは2022年に就任した今矢直城監督だ。彼は45歳で、10歳からオーストラリアで育ち、選手としてもオーストラリア、スイス、ドイツでプレーした国際派だ。横浜F・マリノスではアンジェ・ポステコグルーの通訳を務め、清水エスパルスでもピーター・クラモフスキー監督のもとで通訳兼コーチを務めていた。
23日の長野戦は、チャンスの数で上回りつつ前半を無得点で終えた。バスケス・バイロン、乾貴哉と2選手が負傷交代するアクシデントもあり、重苦しさもある流れだった。
しかし栃木シティは56分にCKからマテイ・ヨニッチがヘッドで合わせて先制。58分には右サイドバックの鈴木裕斗がゴール前に飛び込む形から加点すると、93分には吉田篤志がダメ押しの3点目を叩き込んだ。
3点目は栃木シティの「らしさ」が出たゴールだった。状況的には左スローインからのリスタートで、位置も深かった。点差と時間帯を考えれば「キープして時間を使う」ことがセオリーだろう。ただ田中パウロ淳一は迷いなく縦に仕掛けてクロスボールを送り、吉田がヘッドを合わせた。
試合後に今矢監督はこう語っている。
「象徴的なのはやはり3点目じゃないですか。2-0で終わるのも悪くないですけど3点目、4点目を取りに行った姿勢はすごく評価したいと思います」