FW失格から半年で天皇杯得点王、MVPに 町田・藤尾翔太はなぜ化けたのか?

大島和人

藤尾は決勝で2点を決め、天皇杯制覇の立役者となった 【Photo by Hiroki Watanabe/Getty Images】

 FC町田ゼルビアが天皇杯 JFA 第105回全日本サッカー選手権大会を制した。国立競技場で開催された11月22日の決勝は、2ゴールを決めた藤尾翔太の活躍もあり、前年度王者の神戸を3-1で退ける快勝だった。

 天皇杯は町田にとってはクラブ史上初の「メジャータイトル」となる。藤尾は5得点で大会得点王に輝き、天皇杯MVPに相当する「SCOグループアウォード」も受賞。副賞として1000万円の賞金も手にした。

藤尾が決勝で見せた活躍

 決勝は開始早々の6分に動いた。町田はボランチ中山雄太が左中間の小さなギャップから縦に切れ込み、ゴールライン際から浮き球で折り返す。守備の枚数は揃っていて、あまり可能性を感じる場面ではなかった。それでも藤尾は身体を張り、ネットを揺らした。

「(中山)雄太くんに(ボールが)入ったとき、絶対クロスが上がってくるなと思いました。キーパーの後ろに入ってしまうとパンチングされるので、キーパーの前に身体を投げ出す判断をしたのが本当に良かった。とにかく当てるイメージでした」

 ボールを弾こうとジャンプしたGK前川黛也より一瞬早く、藤尾の頭はボールに触れた。鋭くコースに飛んだ、しっかり叩きつけたシュートではなかったが、ふわっとゴール左隅に収まった。

 2-0で迎えた56分のダメ押しゴールも藤尾だった。左ウイングバックの林幸多郎が後方からドリブルで持ち上がり、縦にパスを預けた。すぐ左には相馬勇紀がスペースに動いている。しかし藤尾は迷わず左足を振り抜き、20メートルを超す強烈なミドルをゴール右上に突き刺した。

「横の相馬くんから『パス』という声も聞こえたんですけど、思い切って自信を持って振り切りました」(藤尾)

 いい意味で普段の彼と違うプレーだった。黒田剛監督が「練習でも見たことない」と驚くゴラッソは、覚悟の表れだった。

「僕がゴールを決めて優勝させることを、ずっとイメージしていました。今シーズンはリーグ戦でもあんまり点を取れていなかった分、評価を上げるのは今日しかないと思ったので、覚悟を決めて臨みました。言葉では言い表せないですけど感覚で、ゴールがあそこにあるやろうなと足を振りました」

 大会得点王も意識していた。

「試合前に僕が3点で、上に4点がいると分かっていました。このまま絶対いけへんと思っていたので、ゴールは狙っていましたし、結果をつかめてよかったです」

強引さが呼び込んだ2点目

町田にとって今回の天皇杯は初の「メジャータイトル」だ 【Photo by Hiroki Watanabe/Getty Images】

 藤尾は元々ボールキープ、ドリブルとスキルで生きるプレイヤーだった。184センチ・79キロとサイズもあり、町田加入後は力強さが増してポストプレーの質も上がっている。また、黒田監督のもとで特に伸びたのは守備面だ。周りとの連動を意識しながらプレスのスイッチを入れるハードワーク、クレバーさは最大の強みになっている。

 もっとも最近の彼はゴール前の「怖さ」を出せていなかった。今季の町田は相馬が9点、西村拓真が7点、ナ・サンホが6点とシャドー陣が「チーム内得点ランキング」の上位を占めている。リーグ戦の藤尾は現在3得点。開幕当初はシャドーで起用されていたが、第19節までノーゴールが続いた。

 仲間のために身体を張れる、「囮(おとり)の動き」で味方のスペースを開けられるところは藤尾の強みだが、反面シュートの貪欲さが薄れていた。リーグ戦33試合、1332分で放ったシュートは29本で、まず本数が足りていない。天皇杯は5得点を決めているが、シュートは10本なので、こちらの「打数」も決して多くはない。

 しかし天皇杯決勝の2得点は、パスを要求する仲間を無視して強引にねじ込んだものだった。藤尾は黒田監督の檄(げき)をこう振り返る。

「今日の全体ミーティングで『とにかく足を振れ』『自信を持って前を向いて足を振れ』と言っていただいた。その言葉もあって、自信を持って振り抜けたのはあるかもしれません」

 黒田監督は選手に確率の高い選択を要求し、「フリーの味方を使う」ことを好むタイプ。ただ決勝という修羅場では大胆さ、思い切りが大切なことも55歳の指揮官は知っていた。そんな普段と逆方向の指示が藤尾の得点力を引き出した。

 ボランチの前寛之はこう振り返る。

「相馬と2対1の関係を作れそうだったので『打つな』と思いましたよ。ただ今年一のシュートがこの場で出るのは翔大らしいし、さすがだなと思います」

 キャプテンの昌子源は言う。

「(町田は)ストライカーの点がかなり少なかったけど、鬱憤(うっぷん)を晴らすように意地を見せてくれた。藤尾の2点目はこのチームを作っていただいた方を含め、色々な方の思いが乗り移ったゴールやったんじゃないかと思います」

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、バレーボール、五輪種目と幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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