FW失格から半年で天皇杯得点王、MVPに 町田・藤尾翔太はなぜ化けたのか?
天皇杯は町田にとってはクラブ史上初の「メジャータイトル」となる。藤尾は5得点で大会得点王に輝き、天皇杯MVPに相当する「SCOグループアウォード」も受賞。副賞として1000万円の賞金も手にした。
藤尾が決勝で見せた活躍
「(中山)雄太くんに(ボールが)入ったとき、絶対クロスが上がってくるなと思いました。キーパーの後ろに入ってしまうとパンチングされるので、キーパーの前に身体を投げ出す判断をしたのが本当に良かった。とにかく当てるイメージでした」
ボールを弾こうとジャンプしたGK前川黛也より一瞬早く、藤尾の頭はボールに触れた。鋭くコースに飛んだ、しっかり叩きつけたシュートではなかったが、ふわっとゴール左隅に収まった。
2-0で迎えた56分のダメ押しゴールも藤尾だった。左ウイングバックの林幸多郎が後方からドリブルで持ち上がり、縦にパスを預けた。すぐ左には相馬勇紀がスペースに動いている。しかし藤尾は迷わず左足を振り抜き、20メートルを超す強烈なミドルをゴール右上に突き刺した。
「横の相馬くんから『パス』という声も聞こえたんですけど、思い切って自信を持って振り切りました」(藤尾)
いい意味で普段の彼と違うプレーだった。黒田剛監督が「練習でも見たことない」と驚くゴラッソは、覚悟の表れだった。
「僕がゴールを決めて優勝させることを、ずっとイメージしていました。今シーズンはリーグ戦でもあんまり点を取れていなかった分、評価を上げるのは今日しかないと思ったので、覚悟を決めて臨みました。言葉では言い表せないですけど感覚で、ゴールがあそこにあるやろうなと足を振りました」
大会得点王も意識していた。
「試合前に僕が3点で、上に4点がいると分かっていました。このまま絶対いけへんと思っていたので、ゴールは狙っていましたし、結果をつかめてよかったです」
強引さが呼び込んだ2点目
もっとも最近の彼はゴール前の「怖さ」を出せていなかった。今季の町田は相馬が9点、西村拓真が7点、ナ・サンホが6点とシャドー陣が「チーム内得点ランキング」の上位を占めている。リーグ戦の藤尾は現在3得点。開幕当初はシャドーで起用されていたが、第19節までノーゴールが続いた。
仲間のために身体を張れる、「囮(おとり)の動き」で味方のスペースを開けられるところは藤尾の強みだが、反面シュートの貪欲さが薄れていた。リーグ戦33試合、1332分で放ったシュートは29本で、まず本数が足りていない。天皇杯は5得点を決めているが、シュートは10本なので、こちらの「打数」も決して多くはない。
しかし天皇杯決勝の2得点は、パスを要求する仲間を無視して強引にねじ込んだものだった。藤尾は黒田監督の檄(げき)をこう振り返る。
「今日の全体ミーティングで『とにかく足を振れ』『自信を持って前を向いて足を振れ』と言っていただいた。その言葉もあって、自信を持って振り抜けたのはあるかもしれません」
黒田監督は選手に確率の高い選択を要求し、「フリーの味方を使う」ことを好むタイプ。ただ決勝という修羅場では大胆さ、思い切りが大切なことも55歳の指揮官は知っていた。そんな普段と逆方向の指示が藤尾の得点力を引き出した。
ボランチの前寛之はこう振り返る。
「相馬と2対1の関係を作れそうだったので『打つな』と思いましたよ。ただ今年一のシュートがこの場で出るのは翔大らしいし、さすがだなと思います」
キャプテンの昌子源は言う。
「(町田は)ストライカーの点がかなり少なかったけど、鬱憤(うっぷん)を晴らすように意地を見せてくれた。藤尾の2点目はこのチームを作っていただいた方を含め、色々な方の思いが乗り移ったゴールやったんじゃないかと思います」