注目の井上拓真戦は“那須川天心vs.ボクシング”なのか? 天心に魅せられたジュニアボクサーたちの存在が示すもの

船橋真二郎

天心をきっかけにボクシングを始めた子どもたち

右手に“関係ないっしょ、気持ちっしょ”のお面、左手に天心にもらったサインを持った冬澤湊人くん。髪型も天心をイメージ 【写真:船橋真二郎】

 小学5年生の冬澤湊人(ふゆさわ・みなと)くん。お父さんに誘われ、埼玉県鴻巣市の鴻巣茂野ジムに入ったのが3年前、2年生の夏休みだった。

 その年の6月に「THE MATCH」があって、動画を「何十回も見て、すごいな」と惹きつけられたのが那須川だった。

 それから自分と同じボクシングに転向し、「もっと好きになった」という。湊人くんもサウスポーで「あんまりパンチをもらわなくて、よけて、カウンターを打つところがすごい」と憧れる。ボクサー那須川の動画を何度も見て、真似をする。

 ボクシングを始めて、苦手だった縄跳びが「学校で一番上手」と言われるぐらい上達し、持久走でも1番になるなど、お母さんは「運動神経がよくなった」と目を細める。まだ試合前に緊張して、弱気になるところがあり、経験を重ねることで「気持ちが強くなれば」と見守っている。

 3年生のときに1度、JCL全国大会に出場、後楽園ホールのリングに立った。次は優勝が目標。夢は世界チャンピオンだ。

 拓真戦は「ボクシング技術は拓真選手が上だと思うけど、天心選手は気持ちが強い」と分析した上で「気持ちと技術、どっちが大事か分かる試合になると思う」となかなか鋭い。「天心が勝つ」と即答した。

チーム天心のキャップ、天心語録の“ナントカナルサ”Tシャツを着用し、天心パーカーを掲げる柳暁斗くん 【写真:船橋真二郎】

 小学1年生からボクシングを始めて、6年生になった柳暁斗(やなぎ・あきと)くん。キック時代の那須川を見て、「カッコいい」と憧れたのがきっかけ。埼玉県ふじみ野市のRE:BOOTジムに通う。

 蹴りがない分、最初は「難しくないかな、と思った」が、「パンチの種類は多いし、タイミングも大事で、コンビネーションもいろんなパターンがあるから難しかった」と振り返る。

 が、難しいから面白い、というから頼もしい。練習を重ね、スパーリングや試合で「相手にパンチを当てたり、よけたりできたときが嬉しい」と微笑んだ。

「こんなに続くとは思わなかった」とお母さん。目標はJCL全国大会初出場。将来の夢は世界チャンピオンという暁斗くんに「プロは怖い」が正直な気持ちだが、「やりたいことはやらせてあげたい」と応援している。

 もともとスピードが速いところが那須川の魅力だったが、「キックのときよりも動きが速くなった」と感じている。拓真戦は「お互いにスピードがあるから、どっちが先に試合の流れをつかむか」をポイントに挙げた。

 キックのときから「パンチで倒した試合もいっぱいあったから、世界チャンピオンになってくれると思っていた」という。「倒してほしい」と快勝を期待している。

天心語録の“ナントカナルサ”ヘアバンド、“ゼンシンアルノミ” Tシャツを着用し、チーム天心タオルを広げる佐藤真柊くん 【写真:船橋真二郎】

 小学3年生の佐藤真柊(さとう・まひろ)くん。今年3月にRE:BOOTジムに入会し、ボクシング歴は8カ月。「天心が好き」で、那須川の動画は試合に練習に何でも見る。「強くて、カッコいいところ」に夢中になった。

「天心のやってることが好き。もし、あのままキックボクシングを続けてたら、キックをやってたかも」とお父さん。もともと野球をやっていたが、すっかりボクシング熱が高まったという。

 お母さんは「自分の子どもが殴って、殴られて、怖いし、痛そうで、抵抗があった」と振り返る。真柊くんが毎日、生き生きして、家でも練習を頑張る姿に「好きなことをやらせてあげて、よかった」と思うようになった。

 この日はジム主催のスパーリング大会で、真柊くん初の対外試合だった。今年のJCL全国大会出場者で同い年の冬澤夢元(むげん)くん(湊人くんの弟)に惜しくも敗れ、悔し涙。那須川のビデオメッセージを伝えると少し笑顔になり、夢は世界チャンピオンときっぱり。

 拓真戦は「井上尚弥の弟だから、もしかしたら負けるかも」と不安そうな真柊くん。でも、「無敗で、強い人と戦うところが好き」だから「天心が勝つ」と信じている。

天心が見せるとすれば、ここだが……

「拓真のほうがキャリアも技術も上」

 現役・元選手、トレーナー、関係者に予想を聞いたとき、まずボクシング歴の違いを挙げ、持論を展開することが多かった。

 ただ、興味深かったのは、話し終えた後、ほとんどの人が「でも……」と続け、断言はできなかったことだ。

「でも……」の意味は「ここ一番で力を発揮する」「大舞台になるほど強い」、つまり那須川天心たる所以(ゆえん)、子どもたちが魅せられる「スター性」である。

 あるトレーナーは言った。「天心がそれを見せるとすれば、ここなんですが……」。果たして、どんな戦いになり、どんな決着を見るのか。ゴングはもう間もなく。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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