チームを立て直した、新人監督たち

CSでソフトバンクに悪夢の9連敗…それでも幸せだった6年間 元西武監督・辻発彦が明かす舞台裏

永松欣也

ファンとタッチを交わす西武・辻監督。2017年から6年間、チームを指揮した 【写真は共同】

 プロ野球の世界では、成績が奮わなければ監督交代となることも珍しくない。球団は新たな監督にチームの立て直しを託すわけだが、監督経験のない「新人監督」にそれを託す場合もある。2016年オフ、3年連続Bクラスに低迷していた西武は、当時中日のコーチだった球団OBの辻発彦にそれを託した。「新人監督・辻発彦」は、チーム状態をどのように捉え、どこから立て直しに着手し、どのようにシーズンを戦ったのだろうか? 2018、2019年にチームをリーグ連覇に導いた辻氏に、監督時代を振り返ってもらった。

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躓いたスタート、奏功した打線の組み替え

 前年優勝チームとして迎えた2019年の開幕戦。相手は前年のCSで敗れたソフトバンク。初めての開幕投手となった多和田は5回4失点で降板となりましたが8回に山川が劇的な同点スリーラン。ですが試合は延長戦の末にサヨナラ負けとなり、そのまま開幕3連敗を喫しました。開幕8連勝した前年と比べれば対照的なスタートなりましたが、それでも特に慌てることはありませんでした。全部1点差の良い試合が出来ていましたし、オフに主力3人が抜けたことで「序盤は我慢の展開が続くだろう」と予め思っていましたからね。

 前年まで1番を打っていた秋山翔吾を、移籍した浅村が担っていた3番で起用しましたが、序盤は打撃不調に苦しみました。その秋山に代わって一番に起用した金子侑司も開幕から調子が上がりませんでした。

 打線の中心だった浅村が抜けて「どういう打順が良いのか?」「どういう打順だと機能するだろうか?」、しばらくは手探りというか我慢してやっていました。2人が調子を取り戻したのは、5月になって落ち着いたタイミングで1番秋山、9番金子という本来の打順に戻してから。秋山には「こういうチーム事情だから1番に戻ってくれ」と直接説明して話しました。監督室に呼んでとか改まった感じではなく、ごく普通に練習中に話したくらいですけど。

 打線を組み替えるにあたっては外崎が重要な存在になりました。1番秋山、2番源田がいて、3番にはバントを含めた繋ぎができる外崎が入ることでチャンスを広げられる。6番に入ることもありましたが、この年は下位打線もメヒア、中村剛也、栗山巧という凄い顔ぶれで「Wクリーンナップ」のような打線だったので、その二つのクリーンナップの間に外崎が入ることで打線の潤滑油、アクセントにもなりましたからね。

 前半は首位ソフトバンクと7.5ゲーム差。「オールスターまでに勝率5割だったらチャンスはある」と考えていましたけど、ちょっと離されすぎました。正直この差はしんどいなと思っていました。

 8月には4番を打っていた山川を外して中村を4番に起用する決断をしました。山川は7月から不振が続いていたので、もっと気楽な打順で打たせてやりたいと思ったんです。打てないとちょっとシュンとするところがあるし、「4番の仕事をしなきゃ……」という気持ちが強すぎているようにも見えましたから。山川と中村はそんなに打順を気にするような選手でもないので、秋山の時とは違い、特に何も話しはせずに変えました。特に中村はあれだけの実績のあるベテランながらも、打順が8番でも4番でも淡々とやるタイプの選手でしたからね。

 打順を変えたことでチーム状態も上向き、山川も復調して最終的に43本打ってホームラン王、中村も30本123打点で打点王。打線の組み替えが奏功しました。

西武に吹いた「神風」、最後に捲ってリーグ連覇

2021年9月24日、パ・リーグ連覇を果たして胴上げをされる辻監督 【写真は共同】

 台所事情が苦しい7月、まだ2年目で19歳の平良海馬が一軍に上がってきました。平良はこのシーズン26試合に投げて2勝1敗6ホールド、防御率も3.38と好成績でチームのブルペンを支えてくれました。夏場はリリーフ陣もみんな疲れが溜まっていますし、故障がちにもなります。そういう意味でも平良の台頭は非常に助かりました。そもそも開幕前は戦力として考えていなかったので、平良の活躍は嬉しい誤算となりました。

 平良は当時そんなにコントロールが良いわけじゃないんですけど、とにかく投げっぷりが良い。意外といろんな球種を投げられる器用さがあるし、打たれてもフォアボールを出しても全く動じない度胸の良さがあって、向上心も人一倍ある。それが平良の良さですよね。

 平良の活躍がありながらも8月のチーム防御率が5.44。オリックス戦で20点取られた試合もありましたし、とにかくよく打たれました。それでも17勝10敗で首位のソフトバンクに並ぶことができたのは月間チーム打率が.299、ホームランが47本という、打線の組み替えで息を吹き返した強力打線のおかげです。結局「とにかく打ち勝つしかない!」という前年までと同じチームスタイルですよね。

 負けられない試合が続いた勝負所の9月。0.5ゲーム差の2位で迎えた11日からの首位ソフトバンクとの二連戦。初戦に勝って首位に浮上したものの翌日に敗れて1日で首位陥落。ソフトバンクにマジック「12」が点灯しました。

 ですが続くロッテとの4連戦の初戦、ルーキー松本の好投で勝利して再びソフトバンクとゲーム差ナシで並ぶと、翌日はメヒアがサヨナラ2ラン。その翌日は木村文紀の左中間へ打ち上げたフライを外野が交錯してその間に木村がホームまで還ってくるサヨナラランニングホームラン。「あー、打ち取られた」と思ったところからの劇的勝利でしたから、「これは西武に神風が吹いているぞ!」と思いましたね。

 この二試合の劇的な勝利で単独首位に浮上してマジック「9」が点灯。そのまま首位の座を明け渡さず142試合目、ZOZOマリンでのロッテ戦に勝ってリーグ連覇を達成することができました。

 前年は開幕からずっと首位の座を明け渡さずに優勝して、この年は最後に捲っての優勝。こういう勝ち方ができたということは、チームに自力がついたということなのでしょうね。投打の主力が抜けても優勝することができた。選手たちが本当に良くやってくれたなと思いました。

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著者プロフィール

1976年、大分県速見郡生まれ。多くのスポーツサイトの企画・編集、ディレクターなどを経てフリーランスに。現在は少年野球、高校野球サイトのディレクターを務めながら書籍の企画・編集も行っている。主な書籍は『星野と落合のドラフト戦略』『ジャイアンツ元スカウト部長のドラフト回想録』『回想 ドラゴンズでの14年間のすべてを知る男』など。

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