もがきながら天皇杯決勝進出 なお課題を残す「過渡期」の町田

大島和人

相馬勇紀(右から3人目)にとっては第2子の誕生を祝うゴールになった 【写真は共同】

 FC町田ゼルビアが11月16日の「天皇杯 JFA 第105回全日本サッカー選手権大会準決勝」でFC東京を延長戦の末に2‐0で下し、クラブ史上初の全国決勝進出を決めた。

 町田は夏の終わりから「もどかしい日々」が続いている。6月14日の湘南ベルマーレ戦(2◯1)からリーグ戦を8連勝して首位に迫ったが、そこから失速。AFCチャンピオンズリーグエリート(ACLE)の掛け持ちによる強行日程、負傷者続出といった要因があったにせよ、直近のリーグ戦8試合は1勝4分け3敗と勝ち切れない展開が相次いでいた。

 11月4日のACLEメルボルン・シティ戦は、後半アディショナルタイムの失点で1-2と敗れ、町田では珍しい自チームへのブーイングが飛んだ。11月9日に同じ国立競技場で、同じ組み合わせで行われたJ1第36節(町田 0●1 FC東京)も終盤の失点で落としている。

 五分以上の展開なのにゴールを取り切れない。勝負どころで相手の勝ち越しを許すーー。際を制し、結果をもぎ取る勝負強さを売りにしていたチームから、その強みが消えていた。

「もどかしさ」を打ち破った泥臭さ

林幸多郎(右から2人目)が先制点を決めた 【写真は共同】

 16日の天皇杯準決勝も、90分までは「もどかしい町田」のままだった。しかし0-0で突入した延長戦の103分に、待望の勝ち越しゴールが生まれる。

 FWオ・セフンが前線でハイボールに競り勝つと、左ウイングバックの林幸多郎は「落とし」に反応。DFの寄せを受けつつ上手く潜り込み、右足のトーキックでネットを揺らした。

 9日のリーグ戦は出場のなかった林がロングスロー、先制ゴールと攻撃のキーマンになった。黒田剛監督は起用の意図をこう説明する。

「リーグ戦で見せなかったものを天皇杯で見せる、相手が脅威に感じなかったものを脅威として感じさせることは、駆け引きの中であると思います。ロングスローは林幸多郎が一番投げられるし、精度も高いです。この間のルヴァンカップ決勝もそうだったように(ロングスローは)ゴールを生み出すポイントになっています。また誕生日で今日は結果を残してやろうと目がキラキラしていた中で、結果を生み出してくれました」

 FC東京戦に限るとロングスローは不発だったが、周りを活かす気配りとハードワークは林の持ち味だ。キーマン相馬勇紀をフリーにする「位置取り」「無駄走り」も彼の大切な役割になっている。相馬は言う。

「今日は幸多郎が入って、ほぼ(ウイングバックとシャドーで)入れ替わっていました。気の利いたポジショニングを取ってくれるので、(相手に)密着されて難しいながらも仕掛ける回数は増えて、味方にも合わせられました。幸多郎はもう『あそこの方が得意』と言っています。最初は僕が開いているときの中(でのプレー)が苦手だったみたいですけど、僕とやりすぎて。今はシャドーのほうが得意みたいです」

 25歳の誕生日に殊勲のゴールを決めた林はこう振り返る。

「(こぼれ球の)転がってくる場面が何回もあったし、(オ・)セフンが上手く逸らしてくれたので、迷わず飛び込みました。(アレクサンダー・)ショルツ選手がスピードを緩めたので、ボールには触れそうだなという感じで足を出しました」

 キャプテンのDF昌子源は林の動きをこう称賛する。

「来ると信じて走り続けることを『1本中1本』でやって、なし遂げてくれました。FWへのあいつなりのメッセージかもしれないですね」

 今季の町田はボールを握り、試合を落ち着かせるパスワークを習得しつつある。エリア内でもしっかり手数をかけて、確率の高いシュートを狙っていく姿勢も、黒田監督の求めるところだ。

 一方でオ・セフン、ミッチェル・デュークが2得点ずつ、藤尾翔太が3得点とセンターFWにゴールが生まれていない。町田がFWに守備も含めた献身性を求めるが故の負荷も影響しているのだろうが、あまりに少ないゴール数だ。

 チームとしても迫力、勢い、泥臭さといった美徳をなかなか出せずにいた。そんな中で林は「思い切り」「泥臭さ」でも町田を救った。

「チームのみんなが待っていた」ゴール

オ・セフンは途中出場ながら1ゴール1アシストで勝利に大きく貢献 【写真は共同】

 109分には苦しんでいたオ・セフンのゴールが生まれた。左大外からナ・サンホがヒールパスで左中間にパスを通し、相馬勇紀が切れ込んでニアにクロスを送ると、そこにオ・セフンがいた。彼はこう振り返る。

「1点勝っている状態の中で、もう1点が重要になると思っていましたし、本当に決めたい気持ちでした。ナ・サンホ選手が起点になってくれて、そこから相馬選手が自分に入れるだけ、決めるだけのパスをくれた。チームメイトに感謝しています」

 オ・セフンは2024年に町田の快進撃を支え、韓国代表にも招集されていた。ただ今季はスランプに陥り、リーグ戦は29試合で2得点となかなか浮上できずにいる。現在活動中の韓国代表にも招集されていない。

 黒田監督はこう口にする。

「なかなかチャンスでも決められていませんでした。吹かしてしまったり、キーパーの手が届く範囲にヘディングを打ち込んでしまったり、決定打も決められないところについて、ポイントは彼にも伝えてきました。一つ取れれば必ず突破口が開けると思っていたので、なんとか一つ決めてほしかったです」

 キャプテンの昌子も悩めるエースに声をかけてきた一人だ。

「昨年の彼を知っていますし、間違いなくウチの武器なので、それを知っているからこそ要求はしています。あの大きさ(194センチ)があるのに、なかなかポストプレーがうまくいかないことは本人も気づいているでしょう。クロスも自分の空間に来たのは強いけど『待つクセ』があります。セフンに『お前がニアに動けば、一人どころか二人は釣られる。ファーに動けばそれが相手の目に入る。時にはオトリになることも必要なんじゃないか』と口酸っぱく言ってきました。ちょっとやけくそになった時期もあったと思いますけど、彼のゴールをみんな待っていました」

 もっともオ・セフン自身に、まだ吹っ切れた様子はなかった。試合後の取材に応じる表情は固く、コメントも抑えめだった。

「自分は『目の前の1試合』を常に心がけてやっています。サッカー選手は毎試合、評価も変わってきます。今回がんばれたからと言って、次の試合にどうなるかは分かりません。その中で自分ができることは最善の準備です。最善の準備をした上で、しっかり決勝も勝ちたいと思います」

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、バレーボール、五輪種目と幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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