2025女子ゴルフ総括「黄金時代到来の予感」

米メジャー制した“新世紀世代” 西郷真央と山下美夢有、アマ時代から続く「ライバルではない」2人の物語

柳田通斉

2022年のダイキンオーキッドでツアー初優勝を果たした西郷真央(右)と祝福する山下美夢有(左) 【Photo by Atsushi Tomura/Getty Images】

 2025年シーズンも日本人女子プロゴルファーたちが世界に存在感を示すなか、特に大きなインパクトを与えたのが5大メジャーで昨季(笹生優花、古江彩佳)に続いて2つの大会を制したことだろう。米女子ツアー2年目の西郷真央はシェブロン選手権で勝利し、ルーキーの山下美夢有が全英女子オープンで優勝。両選手は同じ2001年度生まれの「新世紀世代」で、アマチュア時代からしのぎを削ってきた。だが、ともに「ライバルではない」と公言している。その歩みと関係性を紹介する。

米女子ゴルフ団体戦で披露した“名コンビ”ぶり

 10月25日、韓国・高陽市の新朝鮮CCで開催された米女子ゴルフ団体対抗戦・インターナショナル・クラウン第3日。西郷は山下の傍らで手を合わせていた。フォアボール(それぞれがプレーして良い方のスコアを採用する)で行われたプールステージ(予選)韓国戦の18番グリーン。山下が残した1メートルのバーディーパットを見守り、「入ってくれ」と祈っていた。

 入れば、ホームの韓国を破って準決勝進出、外せば敗退の状況。緊張感が全身を覆うなか、山下はリズム良くストローク。カップの真ん中にボールを沈めると、西郷が満面の笑みで駆け寄った。

「やった! やった!」

 ハグで喜びを分かち合い、チームメートの古江、竹田麗央とも抱き合った。西郷がこれだけ喜んだのは、メジャー初制覇を果たした4月27日のシェブロン選手権最終日以来――いや、それ以上だった。

 最終的に日本は準決勝、3位決定戦で敗れて4位に終わったが、西郷&山下は最後まで輝いていた。フォアサム(1つのボールを交互に打つ)での3位決定戦。普段は異なるメーカーのボール(西郷はブリヂストン、山下はスリクソン)を使用しているが、互いが譲り合いながらブリヂストンのボールでプレー。ラウンド中も頻繁に言葉をかわし、ホールによってどちらがティーショットを打つかを決めていた。分かり合っているからこその“名コンビ”ぶりだった。

年間女王へ駆け上がった山下と支える父の存在

米ツアー1年目でメジャー制覇含む2勝。山下美夢有の安定したショットへの評価は高い 【写真は共同】

 同学年の西郷と山下はともに5歳でゴルフを始め、ジュニア時代から全国大会で顔を合わせてきた。高校3年時の2019年、西郷は日本女子アマチュア選手権で優勝。山下は日本代表としてトヨタジュニアゴルフワールドカップの団体優勝に貢献した。同年11月、最終プロテストに揃って一発合格。山下が6位タイ、西郷は合格ライン上の18位タイだった。

 ルーキーイヤーの2020年はコロナ禍と重なり、試合数が激減。2021年と合わせた統合シーズンとなり、同年4月、山下がKKT杯バンテリンレディスで初優勝を飾った。西郷は優勝できずも、50試合中21試合でトップ10入りし、年間ランキング(賞金ランキング)4位。山下の同13位を上回った。

 翌2022年の前半は、西郷が快進撃を見せた。開幕戦ダイキンオーキッドでのツアー初優勝を皮切りに、10試合で5勝。一方の山下は、5月のワールドレディスサロンパス杯でツアー2勝目、国内メジャー初優勝を飾ったことで覚醒した。その後、最終戦のメジャー大会・JLPGAツアーチャンピオンシップリコーカップを含む3勝を重ね、通算4勝で年間ランキング(同年からメルセデス・ランキング)1位となり、2位の西郷を抑えて「年間女王」になった。

 山下の強みは、父でコーチでもある勝臣さんの存在だ。ゴルフを始めた当時、勝臣さんもゴルフ未経験者だったが、一緒にクラブを握り始め、スイングを研究し、自身が試して良かった練習やトレーニング法を山下に勧めた。幼い頃からそばで練習を見てきたからこそ、勝臣さんは「ズレがあったら、すぐに分かりますし、修正できます」と言い切る。その信頼関係は今も続き、全英女子オープン期間中も現地で細かく助言。山下を日本女子史上5人目の海外メジャー大会覇者に導いている。

スランプを克服した西郷の「ゴルフ脳」

スランプを脱して飛躍する西郷真央。師匠の尾崎将司もゴルフ脳の高さを認めている 【写真は共同】

 一方の西郷は、高校時代から国内男子ツアー最多94勝の尾崎将司に師事。尾崎が設立した「ジャンボ尾崎ゴルフアカデミー」の第1期生になり、尾崎邸にある私設練習場で心技体を磨いてきた。だが、2022年シーズンの終盤、寝違えグセがある首への負担を減らすスイングを模索するなかで、深刻な不調に陥った。山下が優勝した最終戦JLPGAツアーチャンピオンシップリコーカップでは、4日間で通算35オーバー。「原因は分かっているんです。ただ、何をしたらたどり着くか分からない状態です。振り切ったら右OBに行く感じですし、今はティーショットに恐怖があります」と嘆いていた。

 西郷には翌2023年も「先の見えない感覚」は続いていたが、夏場に復調。「嫌な感覚」を払拭するべく、球筋を本来のフェードではなくドローのイメージに変えることを発想し、同年11月の伊藤園レディスで復活優勝を飾った。その流れで米ツアー最終予選会(QS)を受験して2024年シーズン出場権を獲得。同年には、同ツアーのルーキー・オブ・ザ・イヤー(最優秀新人)にも輝いている。

 師匠の尾崎はツアーに帯同しないが、苦しい時期にも助言を重ねていた。西郷はそれらを吸収しながら、「本来の自分」を取り戻し、海外メジャー優勝まで成し遂げた。この復活劇について、自身もスランプ経験のある30代女子プロは「余程、頭が良くないとできないことですよ」と驚きをもって表現した。

 ゴルフはコースマネジメント、スイング調整も含めて、頭を使うスポーツ。西郷は国内で無双だった2022年前半、「グリーン付近の風が読めないときは、あえてグリーンの手前にボールを置くこともしました。そこからアプローチ、寄せワンでパーという感じで」と話していた。小技に絶対的な自信があるからこそのジャッジだ。尾崎は「西郷(せご)どんのゴルフ脳はトップ」と評価していたが、「西郷はここまで考えているのか」「こんなこともできるのか」と筆者自身も感じさせられた瞬間だった。

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著者プロフィール

1967年3月31日、山口県宇部市生まれ。早稲田大学社会科学部を卒業後、90年に日刊スポーツ新聞社に入社。文化社会部やスポーツ部の記者を歴任し、ゴルフ担当時代に宮里藍の活躍を追った。著書に『宮里藍 世界にはなつミラクルショット』(旺文社)。2019年に退職後、静岡朝日テレビ宣伝担当局長を経て、現在は芸能、時事、格闘技などを扱うニュースサイト「ENCOUNT」の編集長。その傍ら、JLPGAツアーの現場にも定期的に足を運び、「THE ANSWER」に寄稿している。

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