樋口新葉「やるしかない」熾烈な五輪代表争いへ 苦闘のNHK杯、それでも貫いた信念
足が痛くなったことを理由にしたくなかった
今季限りでの引退を表明して臨む今大会。その姿には、言葉以上に伝わってくるものがあった。ショートでは冒頭のダブルアクセルこそ成功したものの、続く3回転ルッツが2回転に。後半の3回転フリップも乱れ、53.15点で10位発進となった。樋口は「練習でできていたことができなかった。ジャンプのことが頭から離れなかった」と振り返る。
右足甲の痛みを抱えながら、それでも最後まで演技をやりきった。「痛くなったことを理由にしたくなかったし、やらなきゃという気持ちの方が大きかった」。転倒を繰り返しても立ち上がり、氷を蹴って跳ぶ。その姿は彼女の生き様と重なった。
「ジャンプに失敗してもスピンやステップでは点を取れるように練習してきた」と言うように、演技全体を見渡す冷静さは失っていない。北京五輪では女子シングルで4位入賞、団体戦では銀メダルを獲得。だがその華やかな成績の裏で、樋口は常に自分の理想と向き合ってきた。ケガの影響で練習を制限されながらも、「(足を)かばって跳ぶと感覚がずれる。1発で決められないのが今の課題」と淡々と話す口調に、現実を受け止める強さが感じられた。
「焦ってもうまくいかない」心は揺れながら万感の涙
翌日のフリーでも冒頭のダブルアクセル+3回転トウループ、3回転サルコウ以外はミスが散見されたものの、演技全体をまとめ、ショートの悔しさを少しは取り戻すことができた。フリーの得点は115.12点、合計は168.27点の9位。会場からは大歓声が贈られ、涙を見せるシーンもあった。本調子には程遠いが「自分のできることをやりたいと思ったし、少しホッとしたので、滑れてよかったなという気持ちが大きかったです」と、演技後は穏やかな表情を見せた。
「今日(フリー)は頭が真っ白にならなかった」「呼吸が落ち着いていた」。久しぶりに味わう安定の感覚。試合を重ねることができていなかった今季、ようやくリンクの上で自分のリズムを取り戻しつつあるようだった。それでも樋口は現状に満足しない。「ショートもフリーも、後半になると呼吸が上がってしまう。最後までスピードを保てる体力をつけたい」と反省点を挙げた。現実を受け入れ、課題を一つずつ見つめる姿勢。その静かな言葉の中に、彼女が積み重ねてきた年月が見える。
ミラノ・コルティナ五輪に向けて代表争いの厳しさを問われると、「考えたくなくても考えちゃうけど、やるしかない」と答えた。言葉は淡々としていたが、その奥にある想いの深さを感じさせた。