坂本花織「60%じゃ、しみじみできない」NHK杯優勝も『愛の讃歌』は発展途上

沢田聡子

大差で首位発進も「いつも切羽詰まっている」

地元・関西で観客を魅了した坂本 【写真は共同】

 11月8日午前、開場直後でざわついていた東和薬品ラクタブドームの雰囲気は、前日のショートで首位発進した坂本花織が曲かけ練習を始めると一変した。フリー『愛の讃歌』を滑る坂本が、大きな会場の視線を一身に集める。リンクを隅々まで使うスケーティングで坂本が歩んできたスケート人生を表現する、壮大なプログラムだ。しかしジャンプに関しては回転が抜ける場面があり、やや不安定な印象を残した。

 グランプリ(GP)シリーズ第4戦・NHK杯(11月7~8日、大阪)の女子シングル・ショートで77.05という高得点を出した坂本は、2位に約10点の差をつけて首位発進した。しかしショート後のミックスゾーンで、フリーは「ちょっと気持ち的には楽にできるのか」と問われた坂本は「楽じゃないです。もう、いつも切羽詰まっているので」と即答した。

「10点なんて、本当に1個こけただけで5点以上取りこぼしてしまうことになるので、それこそ本当に一つのミスも許されないと思っている。今は一つミスすると崩れちゃうので、最後まで気を抜かずに、余裕だとは思わずやります」

 GPシリーズ初戦・フランス杯で、坂本は224.23という高い合計点を得たのにもかかわらず、今季シニアデビューした中井亜美に次ぐ2位となった。フランス杯での経験をどう生かしているか問われると、坂本は「ハイレベルすぎやと思って」と率直だった。

「でも、シーズン序盤に220で勝てなかったという経験ができたのは、自分にとってすごく大事だった。フランス杯の時も言ったんですけど、自分が2位になる時は本当にいつも『意味のある2位』と思うことが多い。まだまだいっぱい取りこぼしもあったので『気抜いてる場合ちゃうぞ』ということを、点数と順位で示されたのかなと思った。そこからいろいろ波はあったんですけど、とにかくショートはちゃんとできたので、ひとまず一安心という感じです」

 若手の追い上げを歓迎する坂本だが、ミラノ五輪シーズンである今季はこれからも厳しい戦いが続くことは間違いない。高い加点と演技の完成度を武器に世界のトップで戦ってきた坂本は、ミスが許されないことを誰よりも知っている。

 公式練習から約10時間後、21時過ぎに女子フリーの最終滑走者として登場した坂本は、ほぼ完璧と感じさせる『愛の讃歌』を滑り切った。音のアクセントに合わせた所作が印象的な出だしから、ダブルアクセルを皮切りに7つのジャンプを次々と決めていく。3回転フリップー3回転トウループのセカンドジャンプが4分の1回転不足と判定されたものの、すべての要素で加点を得た。

 坂本が最後の要素となるスピンを回っている時から拍手が聞こえ始め、ラストポーズで上げた両手を振り下ろすと、スタンディングオベーションが起きた。国際大会で戦う坂本の雄姿を見に来た地元の観客の思いに応える、圧巻の演技だった。

「今朝の公式練習の不安が少しあったので、それが出ないかというのは正直不安なところはあったんですけど…でもしっかり気持ちを切り替えて、試合ではずっと4分間集中切らさずにできたので。とにかく次のジャンプ、次のジャンプという感じで、1個1個集中し直していけました」

 フリー150.13、合計点227.18の両方で今季世界最高をマークし優勝した坂本は、フリーの演技をそう振り返った。 

「GPシリーズ2戦で(合計点が)220を超えたことがなかったので、このオリンピックシーズンに220をコンスタントに出せたというのは、すごく自信にもつながります。でもまだまだ伸びしろもあるので、これでマックスとは言わず、しっかりもうちょっと上を目指して頑張れたらなと思っています」

 フランス杯で中井が出した合計点227.08を上回ったことについて、「大会が違うといえど、まだまだ譲らないぞという感じですか」と質問された坂本は「いや、それは負けたくないですね」と口にした。

「次世代に譲るのは、もうあと数カ月待っていただいて(笑)。『まだちょっと待って!』みたいな感じでは思っています(笑)」

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著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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