チームを立て直した、新人監督たち

開幕から首位を守り10年ぶりの優勝、CS敗退で流した涙のワケ 元西武監督・辻発彦が明かす舞台裏

永松欣也

2018年のCS敗退後、涙を流しながらのあいさつとなった西武・辻監督 【写真は共同】

 プロ野球の世界では、成績が奮わなければ監督交代となることも珍しくない。球団は新たな監督にチームの立て直しを託すわけだが、監督経験のない「新人監督」にそれを託す場合もある。2016年オフ、3年連続Bクラスに低迷していた西武は、当時中日のコーチだった球団OBの辻発彦にそれを託した。「新人監督・辻発彦」は、チーム状態をどのように捉え、どこから立て直しに着手し、どのようにシーズンを戦ったのだろうか? 2018、2019年にチームをリーグ連覇に導いた辻氏に、監督時代を振り返ってもらった。

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「富士大の先輩・後輩」が活躍、絶好のスタートダッシュ

 監督1年目を2位で終え、「あとは投手が育てばーー」という手応えで臨んだ2018年シーズンは、27年ぶりとなる開幕8連勝と絶好のスタート。バッターでは山川穂高(現ソフトバンク)、ピッチャーでは多和田真三郎の「富士大の先輩・後輩」2人がそれぞれ3・4月の月間MVPを獲る活躍を見せてくれました。山川は前年後半の活躍が完全に自信になったのでしょう。この頃は「このまま山川が今シーズン4番で行ってくれたら......」と考えていましたね。

 多和田は開幕6連勝して最終的に最多勝を獲りました。この年は打線が凄かったですから、多和田が投げる試合で打線がよく打っていた印象があります。それでポンポンと白星が付いて、彼自身も乗って行けたシーズンだったと思います。最終的に防御率が3点台後半(3.81)だったとは思いますが、それでも16勝できたのは打線のおかげという部分も大きかったですね。

 2017年オフ、先発で二桁勝った野上亮磨がFAで巨人に移籍し、58試合投げてブルペンを支えた牧田和久もポスティングでサンディエゴ・パドレスに移籍。不安もあった投手陣でしたが、多和田がその穴をよく埋めてくれました。

 スタートは良かったものの5月は投打が噛み合わずに4つの負け越し(10勝14敗)。でも3・4月がちょっと出来すぎでした。長いシーズンをトータルで考えるとあの調子でずっと勝つわけがないですし、波は必ずあります。どこかで反動はくるだろうと考えていましたから特に慌てることはありませんでした。5月に4つ負け越してもまだ貯金が10ある。シーズン後半に優勝争いに加わるためには、オールスターが終わる頃にしっかりと上位にくっついておくことが条件だと考えていたので、しっかり6月、7月に巻き返していこうとすぐに頭を切り替えました。

 開幕前には阪神とのトレードで榎田大樹を、シーズン中も外国人のヒースとマーティンを獲得し、中日から小川龍也を金銭トレードで獲りました。苦しい台所事情の中でこの4人の加入が大きかったですね。榎田は先発で10勝してくれましたし、ヒースも13セーブ挙げて、マーティンと小川もブルペンを支えてくれました。この的確な補強は私の方から「先発、中継ぎの補強をお願いします!」と球団にお願いしたわけではなく、編成部が主導して動いてくれたものです。

 小川は中日時代から見ていた選手。「こういう選手の獲得を考えています」という話をされたときは、人間的にも良い選手ですし中日でなかなか出番がないようでしたから「ぜひお願いします!」という感じで獲ってもらいました。

 僕自身もヤクルトに移籍したことで環境が変わって、気持ちもリフレッシュして移籍1年目にキャリアハイの打率を残せた経験もあったので、小川と榎田にも期待はしていました。でも彼らはこちらの期待以上の働きをしてくれましたね。

精神的にキツかった9月の6連戦

9月の天王山で3連勝を飾った辻西武。シーズン終盤に怒涛の12連勝をマークした 【写真は共同】

 開幕から快調に首位を走り、一時は2位ソフトバンクに11.5差をつけて独走状態でしたが、8月24日からの直接対決に3連敗。ゲーム差が5にまで縮まりました。

「さすがは前年王者。終盤に強さを発揮してきたな」と感じましたし、一方でこちらは優勝経験のない選手ばかり。まだ5ゲーム差あるとはいえ気分的には嫌なものでしたね。

 選手たちもゲーム差を気にしたとは思います。それでも8月はトータルでは勝ち越し(15勝10敗1分)ていましたから、わざわざ選手たちに「慌てることはないよ」「落ち着いていこう」などと話すことはありませんでした。そんなことを言えば選手たちも余計に気にするでしょうしね。ソフトバンクが迫ってきている不安はもちろんありましたけど、それは僕の胸に秘めて選手たちの前では平然として構えていました。

「本当の勝負は9月に2回ある本拠地でのソフトバンク3連戦」、そんなふうに自分に言い聞かせていました。

 そして迎えた9月15日からのソフトバンクとの3連戦。この時ゲーム差はさらに縮まり3.5差になっていました。

 この3連戦も含めた9月14日(楽天戦)からの6連戦前は精神的にキツかったですね。「全部負けたらどうなるんだろう......」そんな不安に襲われていました。

 というのも、ソフトバンクとの初戦に先発を予定していたのが登板1試合で0勝だった郭俊麟。対するソフトバンクはエースの千賀滉大です。二戦目がプロ入り2年目でここまで4勝の今井達也、三戦目が4勝のウルフを予定していましたから、先発がちょっと不安だったのです。楽天との初戦に負けると6試合全部負ける可能性もある。そんなことが頭をよぎりました。

 でも楽天戦をしっかり獲ることができたことで、「ソフトバンク戦は最悪一つ勝てば良い」と精神的に少し楽になりました。そしたらソフトバンクに3連勝。初戦の初回に千賀から3点取れたことが大きかったですね。これでいつもの「打ち勝つ野球」ができて「イケるぞ!」と思いました。

 二戦目、三戦目も初回に4点を取るなど打線が爆発し、不安のあった先発投手を打線が強烈に援護。事実上の天王山を3タテしてマジック「11」を点灯させることができました。

 ソフトバンクにはエースの菊池がどうしても勝てなくて、チームとしても苦手意識があったのですが、その相手に大事な局面で打ち勝っての3連勝。選手たちに大きな成長を感じました。

 勢いに乗ったチームはこの6連戦を全勝すると、その後も勢いが止まらず怒濤の12連勝です。マジックを一気に「1」に減らし、10年ぶりのリーグ優勝が目の前に迫っていました。

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著者プロフィール

1976年、大分県速見郡生まれ。多くのスポーツサイトの企画・編集、ディレクターなどを経てフリーランスに。現在は少年野球、高校野球サイトのディレクターを務めながら書籍の企画・編集も行っている。主な書籍は『星野と落合のドラフト戦略』『ジャイアンツ元スカウト部長のドラフト回想録』『回想 ドラゴンズでの14年間のすべてを知る男』など。

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