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美しい司令塔に進化した鎌田の圧巻パフォーマンス 名手ピルロを彷彿とさせる“放射状パス”の魔術

森昌利

ゴールやアシストという分かりやすい結果を残したわけではないが、鎌田はリバプール戦快勝に多大な貢献を果たした 【Photo by Sebastian Frej/Getty Images】

 10月29日(現地時間、以下同)のリーグ杯で、クリスタルパレスが控え選手主体のリバプールを圧倒。敵地アンフィールドで3-0の勝利を収めた。この試合で大きな存在感を示したのが鎌田大地。中盤の底から攻撃を司るレジスタとして機能し、ゴールに直結する決定的なパスも供給した。ただ本人はイングランド生活2年目を迎え、そうしたパサーとしての働きとは別の部分に自身の成長を感じているという。

鎌田は中盤の底でひと際まぶしく輝いた

「この5週間、マッチ・オブ・ザ・デイ(プレミアリーグのハイライト番組)を見ていないんだ。そりゃ、そうだろう? どうして負けた試合をもう1度見直さなければならないんだ!」

 最近はブライトンとリーグ戦の試合日が重なることが多く、ブライトン対ニューカッスルの翌日開催だったマンチェスター・ユナイテッド戦(10月19日)も取材申請が通らなかった(人気カードのうえ、遠藤航の負傷により日本人記者の申請が重視されなかったと思う)ため、10月29日のクリスタルパレスとのリーグ杯が、9月17日のアトレティコ・マドリーとの欧州チャンピオンズリーグ以来、久しぶりのアンフィールドとなった。

 そこで、顔見知りである地元紙リバプール・エコーのポール・ゴースト記者が「How are you?」と語りかけてきて、「いいわけないだろう!」と筆者が答えると、最近のリバプールの戦績に対する気持ちが以心伝心して、ポールの口から冒頭のセリフが飛び出した。

「今日もいい予感がしない」。ポールがそう語った通り、結果はクリスタルパレスの完勝だった。

 無論、プレミアリーグのチームとの対戦にレギュラー陣をベンチにも入れず、控え選手と背番号40番以上の10代の選手で臨んだアルネ・スロット監督の決断には疑問符が付く。しかし、筆者はそれ以上にクリスタルパレスが強かったと思う。

 フットボールで「solid」というと、堅固な安定性を意味するが、この夜のクリスタルパレスはまさにその「ソリッド」の一言がぴったりと当てはまるチームだった。

 まるで大人と子どもだった。バタバタと浮き足だった印象のリバプールと比較して、クリスタルパレスは攻守にわたって無駄な動きがなかった。非常にスムーズだった。

 そんな美しい、流れるようなパフォーマンスを見せたチームの中盤の底に、一際まぶしく輝く選手がいた。それが鎌田大地だった。

局面を変えるパスを次々と放ち、2つのゴールの起点に

ゴールに直結する鋭い縦パスあり、大きなサイドチェンジありと、鎌田は中盤の底から攻撃をリードした 【Photo by Sebastian Frej/Getty Images】

 プレミアリーグ1年目の昨季は、イングランドの激しい中盤での競り合いに四苦八苦した印象だった。ところがこの試合で見た鎌田は“華麗”とまで言える司令塔になっていた。

 これは“言い過ぎ”と言われるかもしれないが、この夜の鎌田のプレーを見て思い出した選手は、2000年代に世界を魅了した元イタリア代表MFアンドレア・ピルロだった。

 前半の最後の10分ほどだけで、ピルロを思わせる素晴らしいクオリティのパスを5本も披露した。

 まずは前半37分に右サイドから放ったクロス。右奥の位置からのパスに右足をダイレクトで合わせて蹴った。流れるような動きから放たれたクロスは、ゴール前で張っていたFWイスマイラ・サールの頭にピンポイントで飛んだが、惜しくもこのヘディングシュートはGKの正面を突き、ゴールはならず。しかしこれが、この4分後のプレーの“予告”となった。

 そして前半41分、鎌田が先制点の起点となった縦パスを蹴った。

 日本代表MFの位置は、リバプール陣に約10メートル入った中央のやや左だった。完全にフリーだったが、通常は相手が危険を感じるような位置ではない。ところがそれが大きな間違いだった。

 鎌田は右サイドから中央に走り込むウイングバック、ダニエル・ムニョスの姿を見逃さず、そこから狙い澄ましたボールをペナルティエリア中央の浅い位置に放り込んだ。

 ムニョスがこのボールを引っ掛けると、久しぶりにリバプールで本職のセンターバックとして先発したジョー・ゴメスが反射的に右足でブロックした。すると、なんとこのボールがこぼれ球となってサールの足元へ流れた。27歳セネガル代表はこれを左足でゴール右隅に蹴り込み、クリスタルパレスが敵地で1点をリードした。

 この後もカウンターの起点となる鋭い縦パスを最前線のエディ・エンケティアに通し、さらに惜しくも少し短かったが、右サイドを駆け上がったムニョスに40メートル級のサイドチェンジのパスも放った。局面を変えるボールを放射状に次々と蹴って、パサーとして強烈な存在感を示した。

 そして前半の最終分となった45分、再びゴールの起点となる縦パスを放った。センターラインを5メートルほど越えた中央の位置でジェイディー・カンボから横パスをもらうと、すかさず右足を振り、20メートル先にいたサールの足元へ高速のローボールを放った。これをサールがヒールで右隣にいたジェレミ・ピノに流して、見事なワンツーを決めると、リターンボールに今度は右足を合わせて勝利を実質確定させる2点目を奪った。

 途中出場したリバプールの18歳DFアマラ・ナロが後半34分に一発退場となった影響もあり、2点目をアシストしたピノが終了間際に3点目を追加したが、これはクリスタルパレスを軽視したスロットの選手起用が間違っていたことをさらに強調しただけで、勝敗を直接左右するゴールではなかった。

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著者プロフィール

1962年3月24日福岡県生まれ。1993年に英国人女性と結婚して英国に移住し、1998年からサッカーの取材を開始。2001年、日本代表FW西澤明訓がボルトンに移籍したことを契機にプレミアリーグの取材を始め、2025-26で25シーズン目。サッカーの母国イングランドの「フットボール」の興奮と情熱を在住歴トータル30年の現地感覚で伝える。大のビートルズ・ファンで、1960・70年代の英国ロックにも詳しい。

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