セナもシューマッハもフェルスタッペンも 初タイトル獲得に苦しんだ偉大なF1チャンピオンたち
フェルスタッペンの場合:明暗を分けたわずかな運
しかし2021年、フェルスタッペンの所属するレッドブル・ホンダの総合力は、ついにメルセデスに追いつきつつあった。そしてこの年、フェルスタッペンとハミルトンは、F1史に残る激烈なタイトル争いを繰り広げた。
第21戦サウジアラビアGP終了時点で、二人の獲得ポイントは全く同じ369.5。迎えた最終戦アブダビGPは、ハミルトンが首位を独走する。しかしレース終盤、後続車のクラッシュでセイフティカーが導入されると、フェルスタッペンはタイヤ交換を敢行し、レースが再開された最終周にハミルトンをかわし、ドライバーズタイトルを獲得した。
この年の二人は、6回にわたって選手権首位の座を奪い合った。マシン戦闘力、チーム力、ドライバーの実力、メンタルの強さ。そのいずれも、ほぼ同じレベルだったと言っていい。最終戦の明暗を分けたのは、ほんのわずかな運。そしてその運を引き寄せたのは、フェルスタッペンの極限の集中力だった。
その結果、ハミルトンはシューマッハを凌ぐ8回のタイトル獲得の偉業を逃し、40歳の今も現役でいるものの全盛期の勢いは望むべくもない。逆にフェルスタッペンはこの初戴冠をバネに四連覇を成し遂げ、最強マクラーレンを打ち破っての五連覇も視野に入る。
ピアストリはチャンピオンになれるのか
今のピアストリにとって最大の敵は、フェルスタッペンでもノリスでもない。自分自身の心の揺らぎだろう。しかしセナもシューマッハもフェルスタッペンも、初戴冠の前に必ずそんな時期を経験してきた。
2023年にF1にデビューしたピアストリは、まだ70足らずのレース経験しかない。それでも1年ごとに進化を続け、3年目の今季堂々たるタイトルコンテンダーに成長した。その間、たとえば無線でのやり取りで激昂したり、他のドライバーに汚い言葉を吐いたりする姿は一度も見たことがない。
ピアストリの最大の武器は、弱冠24歳の若者らしからぬそんな成熟と冷静さだろう。はたしてピアストリは今の試練を乗り越え、セナやシューマッハ、フェルスタッペンと同じ場所に立つことができるだろうか。
(了)