セナもシューマッハもフェルスタッペンも 初タイトル獲得に苦しんだ偉大なF1チャンピオンたち

柴田久仁夫

フェルスタッペンの場合:明暗を分けたわずかな運

最終戦最終ラップの攻防でフェルスタッペンは初タイトルをもぎ取った 【Redbull】

 2015年、史上最年少17歳166日でF1デビューしたマックス・フェルスタッペンだったが、初タイトル獲得までに実に7年を要した。当時のメルセデスがあまりに強く、ルイス・ハミルトンが圧倒的王者として君臨したからだった。

 しかし2021年、フェルスタッペンの所属するレッドブル・ホンダの総合力は、ついにメルセデスに追いつきつつあった。そしてこの年、フェルスタッペンとハミルトンは、F1史に残る激烈なタイトル争いを繰り広げた。

 第21戦サウジアラビアGP終了時点で、二人の獲得ポイントは全く同じ369.5。迎えた最終戦アブダビGPは、ハミルトンが首位を独走する。しかしレース終盤、後続車のクラッシュでセイフティカーが導入されると、フェルスタッペンはタイヤ交換を敢行し、レースが再開された最終周にハミルトンをかわし、ドライバーズタイトルを獲得した。

 この年の二人は、6回にわたって選手権首位の座を奪い合った。マシン戦闘力、チーム力、ドライバーの実力、メンタルの強さ。そのいずれも、ほぼ同じレベルだったと言っていい。最終戦の明暗を分けたのは、ほんのわずかな運。そしてその運を引き寄せたのは、フェルスタッペンの極限の集中力だった。

 その結果、ハミルトンはシューマッハを凌ぐ8回のタイトル獲得の偉業を逃し、40歳の今も現役でいるものの全盛期の勢いは望むべくもない。逆にフェルスタッペンはこの初戴冠をバネに四連覇を成し遂げ、最強マクラーレンを打ち破っての五連覇も視野に入る。

ピアストリはチャンピオンになれるのか

シーズン序盤の無敵の強さをピアストリは取り戻せるだろうか 【MclarenF1】

 前戦メキシコシティGPで5位に終わったことで、ピアストリは選手権2位に後退した。4月のサウジアラビアGP以来、半年間守り続けていた首位の座を失った心理的ダメージは、決して小さくないはずだ。

 今のピアストリにとって最大の敵は、フェルスタッペンでもノリスでもない。自分自身の心の揺らぎだろう。しかしセナもシューマッハもフェルスタッペンも、初戴冠の前に必ずそんな時期を経験してきた。

 2023年にF1にデビューしたピアストリは、まだ70足らずのレース経験しかない。それでも1年ごとに進化を続け、3年目の今季堂々たるタイトルコンテンダーに成長した。その間、たとえば無線でのやり取りで激昂したり、他のドライバーに汚い言葉を吐いたりする姿は一度も見たことがない。

 ピアストリの最大の武器は、弱冠24歳の若者らしからぬそんな成熟と冷静さだろう。はたしてピアストリは今の試練を乗り越え、セナやシューマッハ、フェルスタッペンと同じ場所に立つことができるだろうか。

(了)

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著者プロフィール

柴田久仁夫(しばたくにお) 1956年静岡県生まれ。共同通信記者を経て、1982年渡仏。パリ政治学院中退後、ひょんなことからTV制作会社に入り、ディレクターとして欧州、アフリカをフィールドに「世界まるごとHOWマッチ」、その他ドキュメンタリー番組を手がける。その傍ら、1987年からF1取材。500戦以上のGPに足を運ぶ。2016年に本帰国。現在はDAZNでのF1解説などを務める。趣味が高じてトレイルランニング雑誌にも寄稿。これまでのベストレースは1987年イギリスGP。ワーストレースは1994年サンマリノGP。

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