セナもシューマッハもフェルスタッペンも 初タイトル獲得に苦しんだ偉大なF1チャンピオンたち
才能だけでは王者になれない?
ドライバーズ選手権で一時は独走体制だったマクラーレンのオスカー・ピアストリが、ここに来てまさかの不振に陥っている。シーズン中盤までは、同じマシンを駆るランド・ノリスをも圧倒する速さを誇った。だが残り4戦となった今、選手権首位から陥落。勝負どころでのミス、セットアップの迷い、そして焦燥感が目立つ。
優勝候補筆頭と呼ばれた若者が、なぜいま苦しんでいるのか。
F1の長い歴史を振り返れば、偉大なチャンピオンたちも最初のタイトルを手にする前には例外なく深い谷を経験している。
アイルトン・セナ、ミハエル・シューマッハ、マックス・フェルスタッペン。彼らもまた、初タイトルを手にするまでに大きな試練を乗り越えてきた。
セナの場合:モナコの挫折が転機に
セナにとってのターニングポイントが、第3戦モナコGPだった。ポールスタートのセナは、首位を独走。ライバルのプロストは50秒も後方で、勝利は目前だった。しかしセナはチームからの「ペースを落とせ」という指示も無視して、最速タイムを更新し続けた。そして残り12周のポルチエで単独クラッシュ。事故現場から、そのまま市内の自宅に帰ってしまった。
勝利への執念が強すぎるあまり、その闘志を制御しきれなかったセナ。モナコのクラッシュは、まさにその象徴だった。このリタイアで、セナはタイトル争いでプロストに大きく水を開けられてしまう。
しかしその痛みから、セナは平常心と、何よりレース全体を見通すことの重要性を学んだ。タイトルのかかった第15戦日本GP。ポールシッターのセナはスタートに失敗し、13番手まで後退する。だが大胆な追い抜きで19周目には2番手に。
降り出した小雨で路面がセミウェットになったことも、セナに幸いした。28周目にプロストを抜き去り、8勝目。3ポイント差で逃げ切って、初タイトルを獲得したのだった。
シューマッハの場合:勝利への並外れた執念
このレース以降、ウィリアムズのデーモン・ヒルが追い上げにかかるが、第12戦ベルギーGPの時点では、まだシューマッハが(ほぼ3レース優勝分に当たる)31ポイントもの大量リードだった。しかしベルギーでは勝利を飾ったあと、規定違反で失格に。さらに2戦出場停止処分も科され、その間にヒルが勝ち続けたこともあって、両者の差は1ポイントまで縮まった。
迎えた最終戦オーストラリアGP。首位シューマッハをヒルが猛追する展開の中、36周目に2台はついに接触。シューマッハはウォールに激突し、レースを続行したヒルもサスペンションダメージでリタイア。その瞬間、1ポイント差でシューマッハの初戴冠が決まった。
ヒルとの接触は、シューマッハが強引に被せにいったことが原因だった。人並外れたシューマッハの勝利への執念は、時にフェアプレイの境界を超えた。一方でシューマッハにすれば、当時のF1界を牛耳っていたイギリス勢がヒルにタイトルを取らせようと、理不尽なペナルティを科してきたという思いもあっただろう。
その逆境を跳ねのけるために、シューマッハはいわば手段を選ばず、初タイトルをもぎ取ったのだった。