ジュニア6冠の“異端児”富岡浩介が殊勲の世界ランク奪取 新たな叩き上げが続々とデビューするRE:BOOTジム

船橋真二郎

勝負の世界で生きる覚悟を兄貴に見せる

今年8月、ジムメイトとフィリピン・マニラで開かれたスパーリング大会に参加した箕輪湧陽(右端)と森下璃亜琉(中央) 【写真提供:RE:BOOTジム】

「自分がMMA(総合格闘技)の試合で負けたら誰よりも悔しがって、勝ったら誰よりも喜んでくれたのが兄貴なんで。プロの舞台でしっかり勝つところを見せたいです」

 ボクシングに懸ける決意を尊敬する兄への思いに託し、箕輪湧陽(19歳)はきっぱりと口にした。

 8歳上の兄で、総合格闘技団体ONE Championshipと契約する箕輪ひろばの影響で、小学2年生から一緒に練習に打ち込んだ。やがてアマチュアで10戦ほど戦うもほとんど勝てなかった。小柄で最軽量級のリミットにも届かなかった。

 週に1回、兄たちとパンチの練習に通っていたRE:BOOTジムで、ボクシングの試合に出てみないかと射場会長に誘われたのは16歳になる頃。その年からJCL全国大会3連覇を果たした。

 気持ちは傾きかけたが「兄貴と同じ舞台に立ちたい」という夢も捨てきれなかった。MMAのジムの代表と射場会長が話し合った上で、ボクシングを勧められ、最後は自分で決断した。今年4月にMMAのラストマッチに勝利し、区切りをつけた。

 JCLでも連戦連勝だったわけではない。赤城と初開催のトライアルマッチに出場し、その後も実戦を重ねたが、1度も勝てなかった。それでも最後まで果敢に戦い、勝負を諦めない姿が印象に残る。射場会長は地道な練習でも継続する意志の強さを評価する。

 今年8月31日には、森下を含めたジムのプロ志望たちとフィリピンに遠征。マニラのエロルデスポーツセンターで行われたスパーリング大会で“国際試合”も経験した。

 9月にプロテストに合格し、年明けにデビュー戦を控える。相手はトライアルマッチでKO負けした常盤翔(T&T)。いきなり因縁の再戦になるが、リベンジのチャンスを「率直に楽しみ」と意気に感じている。

 兄には「自分で決めたんだから、最後までやりきれ」と激励された。競技は違うが、同じ勝負の世界で生きていく覚悟を見せる。

気持ちでは絶対に負けない

JCL全国大会で2連覇を果たし、チャンピオンベルトを両肩から提げる森下璃亜琉(2025年9月7日) 【写真:船橋真二郎】

 富岡がビセレスを破った9月7日、後楽園ホールではJCL全国大会が開催され、森下璃亜琉はU-18のライト級で優勝。射場会長やジムメイトが不在の中、日本女子バンタム級王者の山下奈々がサポートし、昨年に続いて2連覇を達成した。

 が、「自分の中で獲るのは当たり前みたいな。試合内容が全然だったんで、スッキリしないです」と満足した様子は一切ない。動画で試合を振り返り、反省を次に生かすのはいつも通り。「難しくて、奥が深いのが面白い」。

 小学1年生の頃、父親に空手の道場に連れていかれた。最初は「やる気がなくて、2回ぐらい泣いて帰った」が、続けていくうちに1対1の勝負にハマった。顔面なしのルールが物足りなくなり、キックボクシングに転じたのは4年生。RE:BOOTジムでボクシングを始めた中学1年生のときからプロを意識してきた。

「打ち合いもできるし、絶妙なカウンターも打てる」と射場会長。何より「スタミナもあって、気持ちが折れないのがプロ向き」と評価する。森下自身、「気持ちでは絶対に負けない」と力を込める強さを昨年4月のトライアルマッチで証明した。

 相手は今年の4月にプロテストに合格した高橋武丸(JB SPORTS)。的確なクリーンヒットでカウントが入り、2分3ラウンドの中で合計3度のカウントでKO負けになるのがU-18のルール。先に2度のカウントを奪われ、まさに崖っぷちの状況から3度のカウントを奪い返し、壮絶な戦いを制した。

 マニラに続き、11月下旬には韓国・ソウルで行われるスパーリング大会に出場。さらに経験を積んでプロテストに臨む。目標は「1戦1戦、勝ち続けること」と堅実なのは、石井、富岡ら「憧れの先輩」の背中を見てきたから。ハードな寺中氏のトレーニングを「そろそろ始めるか」と射場会長に声をかけられ、表情を引き締め直した。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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