ジュニア6冠の“異端児”富岡浩介が殊勲の世界ランク奪取 新たな叩き上げが続々とデビューするRE:BOOTジム

船橋真二郎

石井渡士也の日本タイトル奪取で活気づくRE:BOOTジム。石井の左隣が富岡浩介、右隣が山下奈々、石井の右後ろが赤城凱、左後ろが森下璃亜琉。右端が射場哲也会長、後列右端が寺中靖幸フィジカルトレーナー(2025年4月22日) 【写真:船橋真二郎】

 劇的な逆転勝ちだった。今年9月7日、埼玉県南西部・上福岡駅前のRE:BOOTジム所属、当時日本フライ級10位の富岡浩介(23歳/10勝8KO4敗)は静岡に遠征。世界3団体でランク入りするマーク・ビセレス(駿河男児)を7回TKOで下した。

 ビセレスは当初、トレーナーとしてフィリピンから来日したが、ジムに誘われて今年5月に11カ月ぶりに復帰。年齢的にもまだ29歳。2023年2月にはIBF世界ライトフライ級挑戦者決定戦も戦った実力者だった。

 富岡は1回、有効打で右目上から出血、2回にはダウンも喫する苦しいスタート。我慢強く戦い続け、ビセレスを消耗させた終盤7回、痛烈に倒し返すと立ち上がったところを冷静に詰め、ストップに持ち込んだ。

 プロデビュー前から「スーパー中学生」「ジュニア6冠」として売り出され、17歳になった2019年7月、前年度の東日本新人王で6戦(3勝2KO2敗1分)の戦歴があった32歳に圧巻の初回TKO勝ち。華々しい第一歩を踏み出した。

 富岡は2002年生まれ。15歳以下のジュニア時代は「よく一緒に練習した」という間柄で、高校2冠からプロ転向して10戦目、今年7月30日にWBA世界ライトフライ級王者となった高見亨介(帝拳)が同世代の出世頭になる。

 世代的には大学を卒業して1年目。この時点で世界ランカー(IBF11位、WBO14位)は、上々と言ってもいい立ち位置で「高校、大学とアマチュアでやってた人ができない濃い経験をしてきたことはプラス」と胸を張る。

「挫折も味わったし、応援してくれてた人が去っていく現実も十代で見て。やめようと思ったこともありましたけど、乗り越えたから今があるんで。弱い選手とはやってないし、いいキャリアだな、頑張ってんなって、自分でも思います(笑)」

新たな形のプロ叩き上げの存在価値

 アマチュア経験のない、いわゆるプロ叩き上げがチャンピオンになるのは難しい、と言わるようになって久しい。

 富岡の殊勲から1週間後、キャリアに8敗を刻んだ高田勇仁(ライオンズ)が名古屋でWBA世界ミニマム級王座決定戦に臨んだことがひとつの話題になった(帝拳ジムの松本流星に5回負傷判定負け)。

 2人に共通するのが、現在は18歳以下に再編されたジュニア・チャンピオンズリーグ(JCL)全国大会の前身、U-15ボクシング全国大会を経験し、アマチュアを経由せずに17歳でデビューしていること。

 富岡はプロ主催のU-15、アマチュアが開催する全日本アンダージュニア(UJ)大会で通算6度の優勝。アマチュアホープの実績をアピールし、期待感を煽る何冠の肩書きに対し、初めてジュニア6冠と付けたのは、射場哲也・RE:BOOTジム会長だった。

 2022年から日本プロボクシング協会のJCL実行委員長も務め、2期目の射場会長。JCLを充実させ、アマチュア出身選手だけでなく、富岡のような新たな形の叩き上げが活躍することで、プロボクシングの盛り上がり、活性化につながると力を注いできた。

 今年4月、石井渡士也が日本スーパーバンタム級王座を奪取し、RE:BOOTジムに初のメジャータイトル(男子)をもたらした。石井を中心にチームとしてのまとまり、活気が感じられるジムには背景もさまざまなルーキーがいる。

 海外生活が長く、学校というコミュニティに属したことがなかった赤城凱(がい)、総合格闘家の兄を追いかけてきた箕輪湧陽(ゆうひ)、空手、キックを経て、高校には進学しないでプロで勝負する17歳の森下璃亜琉(りある)の3人で、全員がJCLの優勝経験者。富岡を始め、個性豊かな叩き上げをクローズアップする。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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