MLBポストシーズンレポート2025

山本由伸が粘りの投球でつないだWS連覇の可能性 運命の第7戦は「先発・大谷翔平」が有力に!

丹羽政善

第6戦を制し、チームメイトと喜ぶ大谷翔平。明日第7戦の先発はほぼ確定か? 【Photo by Mary DeCicco/MLB Photos via Getty Images】

「先発・大谷」の条件が整った

 ロジャースセンターの外野にはホテルが併設されていて、客室から試合が見られる。試合前、宿泊客が窓を開け、身を乗り出すようにして外野で球拾いをしている選手らに「こっちにボールを投げてくれ」と言わんばかりに、声を張り上げた。

 窓枠の大きさは、せいぜい1メートル四方。フィールドまでの高さは、どのくらいだろう、ビルの5〜6階、いや7〜8階相当か。となると、下から投げてその枠内に入れることは、決して容易ではない。ただ、だからこそ選手は挑戦したくなる。この日はドジャースの控え捕手、ベン・ロートベット捕手が何度かチャレンジ。しかし、一度もホテルのファンにボールを届けることはできなかった。

 同じ頃、第7戦での登板に備え、右翼でキャッチボールをしていた大谷翔平のところにも歓声が上がっていた。ちょうど、打撃練習の打球が飛んできて、それを拾った大谷に、「こっちに投げてくれ!」という声が方々から飛んでいたのだ。

 大谷は耳に手を当て、一番大きな声を出したファンに投げてあげる、という仕草をしたが、ブーイングも飛び交い、結局は一番声が少なかった右翼ポール際の席に向かってボールを投げ入れている。その瞬間、ブーイングが一層、大きくなった。とはいえ大谷は、ファンらとの言葉のない会話を楽しんでいるようでもあった。

 さてその大谷だが――、明日の第7戦で先発するのでは、という可能性が強まった。

 それが実現するには、この日の試合に勝つことがまずは前提だったが、それ以外にもさまざまな条件が、「先発・大谷」の実現に向けて整った。

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六回1失点でブルージェイズ打線を相手に力投した山本由伸 【Photo by Rob Tringali/MLB Photos via Getty Images】

 そこを掘り下げる前にまずは簡単に試合を振り返ると、ドジャースは三回、不振だったムーキー・ベッツにタイムリーが出るなどして3点をリード。

 先発の山本由伸は、先制した直後に1点を失ったものの、その後は、追加点を与えなかった。

 圧巻だったのは六回。2死から、ウラジーミル・ゲレロJr.に二塁打を許し、続くボー・ビシェットを歩かせた。しかし、続くドールトン・バーショから三振を奪ってピンチを凌いでいる。

 山本は、ビシェットを歩かせた場面について、「少し力が入りすぎた」と明かしたものの、「そこで一回、冷静になって余分な力を抜いた」という。その切り替えが、功を奏した。

 2点リードの八回からは、佐々木朗希が登板。その八回は、厳しい判定もあって1死一、二塁のピンチを招いたが、かろうじて無失点で切り抜けている。

ピンチを招くもなんとか無失点で乗り切った佐々木朗希 【Photo by Rob Tringali/MLB Photos via Getty Images】

 ところが九回、先頭に死球を与え、アディソン・バーガーに二塁打を打たれたところで降板。佐々木は、「2ストライクからの死球がもったいなかった」と唇を噛んだが、ツキはドジャースに味方。バーガーの打球が外野フェンスの一番下に挟まったことで二塁打に。すでに生還していた一塁走者は三塁に戻された。

 それでもまだ、無死二、三塁のピンチではあったものの、ここでドジャースは、勝てば明日の先発が予定されていたタイラー・グラスノーをマウンドに送っている。

 そのグラスノーは、アーニー・クレメントを1球で一塁フライに打ち取ったが、続くアンドレス・ヒメネスに打球を左中間に運ばれた。

 レフトの前に落ちれば、同点――。

 ただ、果敢に走り込んできたキケ・ヘルナンデスがダイレクトで捕ると、そのまま二塁へ送球。飛び出していたバーガーがアウトとなって併殺が成立。試合は劇的なエンディングを迎えたのだった。

 その最後のプレーの裏には、ヘルナンデスの好判断もあった。

「バットが折れる音が聞こえたんだ」

 それで猛然と突っ込んだ。

 ただ、誤算があった。

「ボールが照明の中に入って消えた」

 だがヘルナンデスは、ちょうど落下地点に走り込んでいた。まさに経験値がものをいった。

「最後にボールが出てきて、捕ったあとは、勢いがついていたから、送球ミスをしないように心がけた」

 あえて力を抜いてワンバウンドを投げ、正確性を重視した。

 試合後、「助かった」と漏らした佐々木。ダグアウト前で山本に抱きしめられた。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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