回想 栄光も屈辱も経験 ドラゴンズでの14年間のすべてを知る男

日本シリーズ完全試合目前で交代...想定外だった山井大介の好投 森繁和氏が明かす舞台裏

森繁和

【写真は共同】

<落合博満氏推薦>
森繁和は、すべてを任せられる参謀である。
私の中日ドラゴンズでの8年間、
勝負の本質は彼なくしては語れない。

「そろそろ当時のこと、話そうか?」
栄光も屈辱も経験 ドラゴンズでの14年間
すべてを知る男

14年間で四度のリーグ優勝と53年ぶりの日本一
それでも願わくば、もう一度強い中日を見せたかった

『回想 栄光も屈辱も経験 ドラゴンズでの14年間のすべてを知る男』(森繁和著)から一部抜粋して公開します。

想定外だった山井の好投

 山井の日本シリーズ第五戦での交代についてはこれまで何度話しているか分からない。本当に野球人生でこれほど頭を悩ませたことがないくらいに私も悩んだ。

 3勝1敗で日本一に王手をかけたこの試合、日本ハムの先発ダルビッシュを相手にどれだけ点を取れるか分からない。点の入り方次第ではリリーフ陣を総動員することも考えていた。負けたとしても翌日は移動日なので多少の無理もできた。

 試合は二回裏に平田良介の犠牲フライで先制して中盤まで1-0のまま進んだ。

 もちろんこのまま終わるなんて思ってない。五回が終わった時点で「もしかしたらみんな行くかも分からん。準備だけはさせてくれよ」とブルペンの近藤には話しておいた。山井のユニフォームに血が付いていることに気付いたのはその頃だ。六回が終わったときに「山井にちょっとマメができてユニフォームに血が付きだしてる。ボールにもし付いてたらすぐ換えてくれ。向こう側のベンチじゃなくて一塁側のボールボーイに返してくれ」ということを谷繁には言った。

 七回になった。普通ならもう交代を考えないといけない。でも完全試合を続けている。

〈これは困ったなぁ……〉

 そんなことを思いながら、落合さんには「山井はもしかしたら終わるかもしれません。マメが潰れてユニフォームにも大分血が付きだしています」と報告した。「え⁉」という顔をして「リリーフは大丈夫か?」と言われたが、このときはもう岩瀬には八回から行ける準備はさせていた。

「行く可能性があるからな。それだけちょっと頭に入れておいてくれよ。実は山井の血マメが ̶ ̶」

 岩瀬にはロッカールームで直接伝えてもあった。だから2点差、3点差がつこうが最後はもう当然岩瀬で行くつもりだった。〝普通の試合〞だったならば。問題は日本一がかかったこの試合で、山井が完全試合を続行中で得点差は1点だということだった。

 山井を投げさせるのか、岩瀬に代えるのか、どうするべきなのか……。

 落合さんはずっと私の隣にいて、同じことを考えていたはずだけど何も聞いてこない(笑)。

 私はイニングごとに山井のもとへ行っては「山井、ナイスピッチング!」と声をかけていた。シーズン中ならばピッチャーが完全試合をやっていたら、いくら私でも声をかけには行かない。でも日本シリーズで日本一がかかっている大事な試合で、毎イニング行っていたのに急に七回から行かないというわけにもいかなかった。「おぉ! 頑張れよ!」と同じように声をかけた。

〈この回を終わってベンチに帰ってきたとき、まだ完全試合だったらどうしようか……〉

 山井を八回のマウンドに送り出す前、そんなことを考えていたのだが、結論を出せないまま数分後に大歓声を浴びながら山井がベンチに帰ってきた。

〈これ、どうすんだ……〉

 そう思いながら、これまでと同じように山井のところには行かないといけない。

〈なんて言おうか……〉

 谷繁に意見を求めると「そろそろだと思います」と言う。それは「代えたほうが良い」という意味だ。谷繁に「代えるか?」と聞くと「任せます」と言う。

 山井のところに行き「どうだ?」と声をかけると、山井は「大丈夫です」と言った。

 それまでは「大丈夫です」のあとに「行けます」と言っていたが、それがなかったことに少し引っかかるところがあった。この「大丈夫です」はそれまでの「(自分が)行けます」という意味なのか、「お任せします」という意味の「大丈夫です」なのか? これはどっちなのだろうか? そんなことを思った。

「岩瀬さんに繋ぎたい」というのは、この頃の中日のピッチャーならばみんなが思っていたことでもあるし、山井も「岩瀬さんまで何とか繋ぎます」とずっと言っていた。なので八回まで投げることができて、岩瀬に繋げられるところまできたから「大丈夫です。あとは岩瀬さんでお願いします」という意味なのかなとも思った。今思えば私の勝手な解釈かもしれないが。

 私は岩瀬に代えたほうがいいと思っていた。

 だが山井は「大丈夫です」と言っている。その言葉も解釈次第では別の意味を持っている。

 私は明確に答えを出せないまま、

〈落合さんにどう説明したらいいだろうか……〉

そんなことを考えながら監督室に歩き始めようとしていた。そのとき背後から山井が私を呼び止めた。

「すみません! やっぱり岩瀬さんでお願いします!」

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