「ユース」「ラグビーのプロ化」「プレミア化」 リーグワン異色経営者の行動とビジョン

大島和人

静岡ブルーレヴズは2024‐25シーズンを4位で終え、プレーオフ進出にも成功した 【写真は共同】

 12月13日、ジャパンラグビーリーグワンの5シーズン目が開幕する。「あなたの街から、世界最高をつくろう。」というビジョンを打ち出し、従来のトップリーグから模様替えを果たしたリーグだ。現在は1部(ディビジョン1/D1)12チーム、2部(D2)8チーム、3部(D3)6チームの編成。チームを企業名でなく地域名で呼ぶカルチャーも徐々に浸透している。

 しかし2019年のワールドカップで日本列島に宿った熱気はもうない。8月20日にはNECグリーンロケッツ東葛(D2)の運営体制見直しが発表され、存続が危惧されている。ラグビーはプレーする人数が多く、コンタクトの激しい競技性ゆえにコストと収入確保の両面で難易度が高い。

 オーナー企業への依存度を下げ、経営の自立を図ることが、チームがサバイバルする必須条件だ。D1の現状を見ると法人として独立している「プロチーム」は3つだけ。チームの偏在も極端で、D1の12チームを見ると東京3、千葉2、神奈川2、埼玉1とホームが首都圏に集中している。

 ただ静岡ブルーレヴズは数少ない「プロ」「地方」のクラブとして、他に先んじた新しい取り組みを始めている。山谷拓志社長は「ヤマハ発動機ジュビロ」がプロ化した2021年6月にレヴズの社長へ就任した。彼は元アメリカンフットボールの選手で、栃木ブレックス(現宇都宮ブレックス)や茨城ロボッツといったプロバスケチームの立ち上げに成功したキャリアを持っている。

 プロになり切っていないリーグの中で、山谷社長はどんなアイディアを実行しようとしているのか。リーグワンがより良いものになるため、どんな方向性を是としているのか。プロスポーツの理想と現実を熟知した55歳の経営者に、レヴズの取り組みと日本ラグビーの未来に向けたビジョンを語ってもらっている。

レヴズU18で「花園」を目指す

山谷社長(左から2人目)は21年6月にレヴズ社長となった 【写真は共同】

 レヴズは2024-25シーズンのD1でレギュラーシーズン4位となり、プレーオフに進出。リーグワン発足後の最高順位を収めた。山谷社長こう説明する。

「設立から3年間で黒字を出し、会社として余力を作りました。4年目は累積した利益の中でやれることをやって戦績が向上しました。人件費は(直近2シーズンで)それぞれで10%〜20%くらい増えていると思います」

 昨季は社員も30名ほどまで増え、外部スポンサーからの収入が5億円に迫る金額だったという。チケット収入は1億円強で、9試合というホームゲーム数の少なさがあるにせよ、そこはまだ伸びしろだ。グッズの売上も1億円近い金額に届いていて、この部門は既にレヴズの強みとなっている。

 競技、ビジネス「以外」の部分でも、レヴズは興味深い取り組みを始めている。その一つはユースチーム(U18)の結成だ。小学生年代、中学生年代の「スクール」を持っているチームは、レヴズ以外にもある。高校生年代もSCIXラグビークラブは神戸製鋼のグラウンドを使って活動をしているため、下部組織と言えるかもしれない。

 ただレヴズのユースは「高校ラグビーの全国大会(花園)を目指す」ところにJリーグ、Bリーグなどのユースにもない特色がある。

 山谷社長はこうに説明する。

「ラグビーを事業としている会社にとって、ラグビーの競技人口が減ることは、由々しき事態です。ラグビーの競技人口は他のスポーツに比べると少ないですけど、ワールドカップをやっているときに、特に小学生のラグビースクールに入ってくる子が増えます。しかし中学まではスクールでやったとしても、特に静岡はラグビー部の無い高校がほとんどです」

 静岡の強豪といえば東海大静岡翔洋と静岡聖光学院の2校。どちらも静岡市内の高校で、直近の県大会決勝は6年連続でこの対戦だった。2025年秋の県大会に出場したのは8チームで、そのうち単独チームは6つ。西部地区からは浜松工業、浜松湖北の2校しか出場していない。

「競技と学業は分けて考えたられないか?と考えていたとき、福井の若狭東高校が他の高校と合同チームで花園に出たニュースを目にしました。合同チームでも花園に出られることに気づいたのです」

 一般的に合同チームは部員不足で試合を組めない学校、試合に出られない選手を救済する仕組みだ。ただラグビーは合同チームでも花園の大舞台に立てる。レヴズが練習環境、専門的な指導者を提供して、静岡県西部の各校に散らばる人材を集めて花園を目指すーー。そんな仕組みを、レヴズは始めようとしている。

「指導者、グラウンドと言ったリソースは提供できます。今はラグビースクールの子たちが志望している高校に訪問して『ラグビー部を作ってください』というお願いをしています」

 合同チームを組む前提として、◯◯高校ラグビー部という名義が必要だ。そのための手続きは必要で、学校側にとっては生徒の安全確保の対応などリスクもある。とはいえ、普及と強化の両面を考えたときに期待を持てる、魅力的なプランだ。

社員とプロ選手の“複業”が成り立つ仕組み

本山佳龍(写真左)は長崎南山高を卒業後、静岡の大学に通いながらレヴズでプレーしている 【写真は共同】

 レヴズはトップチームの選手についても、競技と学業、競技と仕事の分離をしている。本山佳龍は長崎南山高から加入した大型プロップ(PR)で、有力大学からの誘いもあった逸材だった。そもそも日本ラグビーは「高卒リーグワン入り」を選択する選手がほとんどいない。しかし彼はレヴズ入りを選択した。

「僕らが静岡産業大学と提携しているので、そこに通いながらプロチームの選手になる選択肢を提示したら、彼はそれを選びました。キャンパスまで車で10分くらいなので、問題なく通っています。彼は教員免許も取ろうとしていますね」

 社員選手の扱いもユニークかつ現実的だ。D1の他チームは実業団形態でありながら業務委託、有期雇用も含めた「プロ」がかなり多い。レヴズはプロクラブにもかかわらず、実は社員選手が多い。

「今やウチが(D1の中で)社員選手の一番多いチームです。外国人を含めても6割が社員選手で、日本人のプロ契約は数人しかいません」

 人件費はヤマハ発動機とレヴズが分担している。

「社員選手と言われている選手はヤマハ発動機の正社員です。会社と会社で包括的な業務委託契約を結び、静岡ブルーレヴズからヤマハ発動機にお支払いする仕組みです。社員の基本給のおおよそ半額を私たちが負担しています」

 当然ながら社員選手たちはヤマハ発動機でも「給料分」の仕事はしている。シーズンオフの6〜7月は100%社業をやっているそうだ。イベント参加、地域貢献といったオフピッチの取り組みも、彼らはプロ選手と同じように関わっている。山谷社長はこの状態を「複業」という言葉で表現する。

 もっとも選手がプロとしてより高い報酬を得られるレベルになったとき、選手は「ヤマハ発動機の一般社員と同じ給与」では満足しないようになる。山谷社長はこのような手を打った。

「我々の会社(レヴズ)とダイレクトに業務委託契約を結ぶことを希望する選手が出てきました。でも社員を辞めると、選手もリスクがありまよね。だから『レヴズ独自で稼いだお金から、ラグビー選手としての評価を上乗せする』という提案をしたんです。月の手当として、いくらか付けたわけですよ。これでプロ契約に切り替える選手が一人もいなくなりました」

 これは法人として独立したプロクラブだからこそできる仕組みだ。

「分社化していなかったら、そんなことは絶対できません。母体企業の給与体系では成立しない考え方ですから」

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、バレーボール、五輪種目と幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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