MLBポストシーズンレポート2025

ブルージェイズ打線の完勝に終わったWS第1戦 大谷翔平の第1号が明日以降の「いい攻め」につながるか

丹羽政善

ワールドシリーズ第1戦の試合後、ウラジーミル・ゲレロJr.は大谷翔平がダグアウトへ向かう姿を背に歓喜のポーズを見せた 【Photo by Cole Burston/Getty Images】

大谷の第1号にブルージェイズファンの余裕

 試合前、一塁側のダグアウトから出て、右翼の芝の上で遠投などを行った大谷翔平(ドジャース)。

 そのダグアウトには、右翼寄りと本塁寄りに2カ所、出られるところがある。それまで、ほとんどの選手が右翼寄りの出口からフィールドに出てきたため、カメラマンらはそこで待ち構えていた。

 そろそろ出てくるのでは?  

 そんな空気になってそこに、二重、三重の人垣ができた。

 ところが、そんなときである。大谷が反対側から出てきて、カメラマンらの背中を見ながら笑いを噛み殺し、外野に向かったのは。通訳、セキュリティもニヤリ。じっくり引きつけ、期待を煽ってから、肩透かしを喰らわせた。

 おそらく、どのニュースを見ても、大谷がダグアウトから出てくる映像はないはず。そんなちょっとした駆け引きが、背景にあったのである。

 さて、大谷とトロントに浅からぬ縁があるという話は昨日も触れた。

 2年前、大谷が真剣に契約を検討し、キャンプ施設を見学。ただ、トロントへ向かうプライベートジェットに乗ったという話は誤報で、最終的にはドジャースへの入団を決意した。契約目前か、というニュースに歓喜したブルージェイズファンにとって浮かれた分、失望も大きかった。

 それだけではない。実は、あのベーブ・ルースもトロントとは縁があり、マイナー時代、プロとしての第1号を放ったのがトロントだった。

 トロントのダウンタウンから船で15分ほどのところにあるハンラン・アイランドという小さな島にあった球場でエリス・ジョンソン(トロント・メープル・リーフス)から3ランを放ち、投げては1安打に抑えたという記録が残る。1914年9月5日のことである。

 その打球は右翼フェンス背後のオンタリオ湖に消えたため、ホームランボールの行方はいまもわかっていない。ルースが有名になってから探すために潜水した人もいたようだが、その付近は当時、マフィアに殺された人たちが沈められたという物騒な逸話もあり、好んで探索する人もいなかったそうだ。

 いま、その場所は小さな飛行場になっているが、ルースの逸話が書かれた記念のプレートが脇に立っている。そんな歴史があるからこそ、二刀流選手の原点はトロントにあり、大谷との契約が成立すれば、それも何かの縁――という空気がまた、ファンの期待を煽ったのである。彼らの失望には、100年分の思いもまたこもっていた。

七回に2ランを放った大谷翔平。ブルージェイズファンは打球を余裕の気持ちで見たことだろう 【Photo by Gregory Shamus/Getty Images】

 さて、そのファンの前で大谷は七回にワールドシリーズ第1号を放った。それまで騒がしかったファンが一瞬で静まり返ったが、ブーイングを耳にすることはなかった。

 本塁打が出る直前の時点で9点をリードしており、その一発で試合の行方が変わることはない――そんな余裕が、ファンの反応に透けた。「お先にどうぞ」と道を譲るかのような。むしろ、この得点差なら、大谷の本塁打を見たいと思っていたファンすらいたのではないか。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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